大利・佐藤による共同執筆によるブログの前々回「マネーロンダリング事犯における業態別の危険度評価(1)」では預金取扱金融機関を、前回「マネーロンダリング事犯における業態別の危険度評価(2)」では資金移動業者・暗号資産・保険会社を取り扱いました。
今回は危険度が認められる金融商品取引業者・クレジットカード事業者・宅地建物取引業者(不動産)について紹介していきます。
・金融商品取引業者が取り扱う金融商品
・クレジットカード事業者が取り扱うクレジットカード
・宅地建物取引業者が取り扱う不動産
・まとめ
金融商品取引業者に危険度が認められる理由としては、主に
①株式の売買を通じて多額の資金を転換できること
②複雑な仕組みの金融商品を購入して資金の出所を不透明にできること
上記2点が挙げられます。例えば金融商品取引業者と同じグループ企業内の銀行口座と連動した入出金サービスは利用者の利便性が高い一方で、本来必要な確認が不十分となるリスクがあります。また、金融商品取引業者における疑わしい取引は、他業種と比較して高い件数で推移しています。表1をご参照ください。
疑わしい取引の届出理由のうち、件数が多かった理由は下表(表2)のとおりです。いずれも対面取引にて身元確認措置を行うことで一定の検知が可能と考えられます。
(出典)警視庁「令和5年犯罪収益移転危険度調査書」
「令和5年犯罪収益移転危険度調査書」によると、金融商品取引業者の危険度低減措置には各社で差異があり、実行的な低減措置が行われていない業者がマネーロンダリングに悪用されるリスクや、ひいては業界全体の危険度に影響が出る可能性が指摘されています。また、金融庁「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」によると非対面チャネルを通じた取引が増加しているために、第二種より第一種金融商品取引業者の方がリスクが高いとしております。特に第一種金融商品取引業者においては非対面取引における危険度低減措置の実行が重要になると考えられます。
クレジットカードは、犯罪収益を現金で取得した者がクレジットカードを利用して当該現金を別の形態の財産に変えることができることから、犯罪収益の追跡可能性を低下させる恐れがあります。また、自身のクレジットカードやその番号を第三者に共有することで、第三者に換金性の高い商品を購入させる等、事実上の資金移動を国内外問わず行うことが可能です。
クレジットカード業者におけるマネーロンダリングに悪用された件数や疑わしい取引の件数は、年々増加傾向にあります。表3をご参照ください。
疑わしい取引の届出理由のうち、最も多かったのは「名義人と異なる者のカード利用」です。
(出典)警視庁「令和5年犯罪収益移転危険度調査書」
クレジットカードはその性質上、必ずしも所有者本人でなくとも決済利用できることから、入会・更新時の審査の厳格化(実質的支配者の確認含む)だけでなく、取引モニタリングにおけるなりすまし防止措置が必要です。実際に、各事業者はなりすまし防止のためのワンタイムパスワードの導入やAIを活用した利用者の行動履歴分析、取り締当局の定期的な意見交換など自主的な取り組みを推進しています。
不動産は、財産的価値が高く、多額の現金との交換を容易に行うことができるほか、その利用価値、利用方法等によって大きく異なった評価をすることができることから、通常の価格に金額を上乗せして対価を支払うなどの方法により容易に犯罪収益を移転することが可能です。これらのことからマネーロンダリングの温床となりやすいと考えられますが、実態としては下表のとおり、疑わしい取引件数は他業態と比較して非常に少ない件数となっております。
今後、FATF第五次審査では暗号資産交換業者と並んで厳格な審査が予見される業界とされています。
なお、財務省の「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026 年度)」によると、令和8年度末までに各省庁主導のもと、疑わしい取引の届出件数の増加を目指すこととしており、今後なんらかの改善措置が取られる可能性があります。
(出典)警視庁「令和5年犯罪収益移転危険度調査書」
不動産は、財産的価値が高く、多額の現金との交換を行うことができるほか、通常の価格に金額を上乗せして対価を支払うなどの方法により容易に犯罪収益を移転することができることから、マネーロンダリングの有効な手段だと考えられます。近年では、資産の保全又は投資を目的として不動産が購入される場合も多く、国内外の犯罪組織等が犯罪収益の形態を変換する目的で不動産取引を悪用する危険性もあります。これらを踏まえて、顧客の属性や実質的支配者(法人の場合)や資産状況等を総合的に加味したリスク対応措置を取ることが重要です。
今回は「令和5年犯罪収益移転危険度調査書」のうち、金融商品取引業者・クレジットカード事業者・宅地建物取引業者の「商品・サービスの危険度」について紹介しました。
これまで3回に分けて業種ごとのマネーロンダリング事例や危険度低減措置の取り組みを紹介してきましたが、いずれにも共通していることは、法令上の義務の履行はもはや当然のものとして、各社のリスクに応じた主体的なアプローチや継続的なリスクの見直し(リスクベース・アプローチ)が必要という点です。27年度頃から開始が予想されるFATF第5次対日相互審査を見据えて、今のうちから対策強化を講じておくことが重要になります。
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ブログ編集部員
大利 流聖(Ryusei Otoshi)
コンプライアンス・データラボ株式会社
マネージャー
総合系コンサルティングファーム等を経て、
2024年より現職。
営業領域を中心にマーケティングやプロダクト開発など幅広く担当。
佐藤 孔亮(Kosuke Sato)
コンプライアンス・データラボ株式会社
マネージャー
不動産デベロッパーや建築紹介スタートアップを経て、
2024年より現職。
営業領域を中心にマーケティングやプロダクト開発など幅広く担当。
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