図1: Outcomes FATF Plenary, 19-21 February 2025
https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfgeneral/outcomes-fatf-plenary-february-2025.html
今回の全体会合で、ラオスとネパールが強化モニタリング国に追加されました。FATFが強化モニタリング国に指定することは、その対象国が、不備について行動計画を立てて迅速に対応することにコミットしたことを意味します。以下は、ラオスとネパールの行動計画概要です。
(1) 主要なマネーローンダリング/テロ資金供与リスクの理解を深める
(2) 商業銀行、よりリスクの高い協同組合、カジノ、 DPMS(貴金属・宝石)、不動産部門に
対するリスクベースの監督を改善する
(3) 金融包摂を妨げることなく、重大な違法 MVTS(資金移動業者)/フンディ※1業者の特定と
制裁を実証する
(4) 管轄当局のマネーローンダリング調査の能力と連携を高める
(5)マネーローンダリング捜査と訴追の増やす
(6)リスクプロファイルに沿った犯罪収益と手段を特定、追跡、差押え、押収、場合によっては
没収するための措置を実施する
※1フンディ:貿易および信用取引で使用するためにインドで開発された金融商品
フィリピンは、前回相互審査での指摘事項に対し対応を進め、強化モニタリング国から外れることになりました。
■行動要請対象の高リスク国・地域
対抗措置の適用が要請される国・地域 |
北朝鮮、イラン |
対象となる国・地域から生じるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が 要請される国・地域 |
ミャンマー |
■強化モニタリング(グレイリスト)対象国・地域
追加された国 |
ラオス、ネパール |
削除された国 |
フィリピン |
継続中の国 |
アルジェリア、アンゴラ、ブルガリア、ブルキナファソ、カメルーン、 |
Jurisdictions under Increased Monitoring - 21 February 2025
(https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/High-risk-and-other-monitored-jurisdictions/increased-monitoring-february-2025.html)より引用、編集、翻訳
ロシアのFATFのメンバーシップ停止は続いています。FATFは、国際金融システムを保護するため、すべての国・地域がロシアの制裁回避による、現在および新たなリスクに警戒すべきであると改めて強調しています。
今月、経済産業省から「対ロシア制裁のリスクと対応の必要性」が公表されました。
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/downloadCrimea/20250520_risk.pdf
金融包摂は、メキシコの新FATF議長の下、重点課題の1つとされています。現在、銀行口座を持てない人が世界中で約14億人いるとされています。金融包摂に向け、本全体会合では、FATF勧告1(リスク評価とリスクベース・アプローチ)とその解釈ノート、勧告10(顧客管理)、15(新技術の悪用防止)の解釈ノート、金融包摂をよりサポートするための用語定義の改訂が承認されました。
以下は、改訂の概要です。
FATF updates Standards and consults on guidance to better promote financial inclusion
(https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfrecommendations/update-standards-promote-financial-conclusion-feb-2025.html)より引用、翻訳
※2:貧困や差別などにより金融サービスから取り残されていることなく、すべての人が必要とする金融サービスにアクセスでき、利用できる状況
※3:「commensurate」と「proportionate」はしばしば同義語として使用されますが、「commensurate」はより形式的で、サイズ、量、または程度の直接的な等価関係を暗示し、「proportionate」は相対的な関係を意味し、何かが適切なバランスや比率にあることを示す
本FATF基準改訂は、リスクが低い場合、金融機関が簡素化された措置を適用し、これにより人々の金融サービスへのアクセスを容易にすることを目的としています。日本において、途上国のような金融包摂の課題は多くは見られませんが、より有効性ある態勢構築に向け、金融庁では2024年4月にマネロンガイドラインFAQを改訂し※3、SDD(リスクに応じた簡素な顧客管理)対象の柔軟度を上げるなど、リスクベース・アプローチの強化を進めています。
※3:金融庁マネロンガイドラインFAQ改訂については、以下の記事もご参照ください。
「金融庁マネロンガイドラインFAQ改訂とpKYC (Perpetual KYC)」について(1)
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20240412
また、金融庁では、今年3月に「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」を公表し、リスクベース・アプローチにより継続的に態勢を維持・高度化するための有効性検証の取組み推進を図っています。
金融庁「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」(案)に対するパブリックコメントの結果等について
https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20250331-3/20250331-3.html
本全体会合では、資金の流れを分析し、金融情報を作成することで、児童性的虐待のライブ配信の深刻な金銭化と「性的脅迫(セクストーション)」の検出、阻止、調査のための報告書が承認されました。
報告書は、以下からダウンロードできます。
Detecting, Disrupting and Investigating Online Child Sexual Exploitation
https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfgeneral/Online-child-sexual-exploitation.html
セキュリティ会社のノートンの調査によると、2024年のセクストーション詐欺の標的になるリスク比率が日本は世界で1位であったとのことです。
■2024年のリスク比率上位10か国
|
国名 |
リスク比率 |
1 |
日本 |
0.91% |
2 |
シンガポール |
0.77% |
3 |
香港 |
0.57% |
4 |
南アフリカ |
0.54% |
5 |
イタリア |
0.54% |
6 |
オーストラリア |
0.47% |
7 |
アラブ首長国連邦 |
0.47% |
8 |
イギリス |
0.47% |
9 |
スイス |
0.40% |
10 |
チェコ |
0.40% |
株式会社ノートンライフロック「2025年にて注意が必要なサイバー犯罪は“セクストーション詐欺”」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000069936.html)より引用
各都道府県警察では、セクストーションに関する注意喚起をしています。
大阪府警本部
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/saiba/chuikanki/kojin/18110.html
長崎県警察
https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/wp-content/uploads/2022/03/268a6ece6c3cce1f3cedf1fc871e224b.pdf
埼玉県警察
https://www.police.pref.saitama.lg.jp/c0070/kurashi/cyber-sextortion.html
FATF報告書「Detecting, Disrupting and Investigating Online Child Sexual Exploitation」では、金融取引におけるセクストーション等の詐欺の特定について、ガイダンスが記されています。以下はその一部です。
■児童に対する金融的性的搾取に関連する取引の一般的な特徴
上記のように、日本は、セクストーション詐欺の標的になるリスク比率が高いとされています。犯罪防止には、SNSやアプリ提供事業者の責任は大きいですが、今後、金融機関において、「SNS型投資・ロマンス詐欺」と同様に、セクストーション等の詐欺検知についてのシナリオ追加が必要になってくると思われます。当社でも引き続きその動向を追っていきます。
国の行動計画において2024年3月を期限とした「継続的顧客管理の完全実施」や「既存顧客の実質的支配者情報の確認」への対応のため、「コンプライアンス・ステーションUBO」へのお問合せが増えています。
「コンプライアンス・ステーションUBO」は、国内最大級の企業情報データベースを基に、犯収法に沿ってオンラインで瞬時に実質的支配者情報等を提供するサービスです。DM調査で思うようにUBO情報が得られない、DM調査等のコストを削減したいなど、課題がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
「コンプライアンス・ステーションUBO」については以下のリンクから詳しくご確認いただけます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000094258.html (2023年6月15日発表のプレスリリース)
なお、ご興味のあるお客様へ実際のデータを使った無償トライアルをご提供しています。
ご希望のお客様はお気軽に下記リンクより、お問い合わせ、お申し込みください。
◆著者のご紹介
コンプライアンス・データラボ株式会社
代表取締役、CEO
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開。2021年4月CDLを設立し、現在に至る。
・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)
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