CDLニュースレター

FATF全体会合(2025年2月19日~21日)の概要と関連する日本の取組み

作成者: Hirofumi Yamazaki|May 29, 2025 10:00:00 PM

 

 

  図1: Outcomes FATF Plenary, 19-21 February 2025 
https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfgeneral/outcomes-fatf-plenary-february-2025.html 

 
目次

1.高リスクおよびその他のモニタリング対象地域 

2.メンバーシップ問題 

3.戦略的取組み 

 

 

1.高リスクおよびその他のモニタリング対象地域 

今回の全体会合で、ラオスとネパールが強化モニタリング国に追加されました。FATFが強化モニタリング国に指定することは、その対象国が、不備について行動計画を立てて迅速に対応することにコミットしたことを意味します。以下は、ラオスとネパールの行動計画概要です。 

 

ラオス 

(1) 資金洗浄(ML)およびテロ資金供与(TF)リスクの理解を深める
(2)カジノ、銀行、特別経済区(SEZ)内の対象機関に対するリスクベースの監督を強化し、   
  適格性審査を含む適切な監督を実施する
 
(3) 金融情報分析の質と量を向上させ、法執行機関への自主的な情報共有を強化する 
(4) マネーローンダリングに関する法執行機関への研修および指導を実施する 
(5) 特に国際協力が必要な国際的要素のある犯罪に重点を置き、自国のリスクプロファイル
  に沿ったマネーローンダリング捜査および起訴の増加、
 
(6) マネーローンダリング/テロ資金供与のリスクに見合った国内没収方針を策定する 
(7) 関係当局が、リスクプロファイルに応じて、犯罪収益および犯罪手口を特定、押収、
  および必要に応じて没収するための措置を講じていることを実証する
 
(8) 金融機関及び特定非金融事業者がテロ資金供与防止義務を遵守していることを監視する 
(9) 勧告 5、6、7 及び 10 における法令整備(Technical Compliance)の不備に対処する 

 

ネパール 

(1) 主要なマネーローンダリング/テロ資金供与リスクの理解を深める 
(2) 商業銀行、よりリスクの高い協同組合、カジノ、 DPMS(貴金属・宝石)、不動産部門に
 対するリスクベースの監督を改善する
 
(3) 金融包摂を妨げることなく、重大な違法 MVTS(資金移動業者)/フンディ※1業者の特定と
 制裁を実証する
 
(4) 管轄当局のマネーローンダリング調査の能力と連携を高める 
(5)マネーローンダリング捜査と訴追の増やす
(6)リスクプロファイルに沿った犯罪収益と手段を特定、追跡、差押え、押収、場合によっては
 没収するための措置を実施する

1フンディ:貿易および信用取引で使用するためにインドで開発された金融商品 


フィリピンは、前回相互審査での指摘事項に対し対応を進め、強化モニタリング国から外れることになりました。 

 

行動要請対象の高リスク国・地域 

対抗措置の適用が要請される国・地域 

北朝鮮、イラン 

対象となる国・地域から生じるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が 要請される国・地域 

ミャンマー 

 

強化モニタリング(グレイリスト)対象国・地域 

追加された国 

ラオス、ネパール 

削除された国 

フィリピン 

継続中の国 

アルジェリア、アンゴラ、ブルガリア、ブルキナファソ、カメルーン、
コートジボワール、クロアチア、コンゴ民主共和国、ハイチ、 ケニア、
レバノン、マリ、モナコ、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、南アフリカ、南スーダン、シリア、タンザニア、ベネズエラ、
ベトナム、イエメン 

  Jurisdictions under Increased Monitoring - 21 February 2025
https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/High-risk-and-other-monitored-jurisdictions/increased-monitoring-february-2025.html)より引用、編集、翻訳 

 

 

2.メンバーシップ問題 

ロシアのFATFのメンバーシップ停止は続いています。FATFは、国際金融システムを保護するため、すべての国・地域がロシアの制裁回避による、現在および新たなリスクに警戒すべきであると改めて強調しています。 

 
<日本における取組み> 

今月、経済産業省から「対ロシア制裁のリスクと対応の必要性」が公表されました。
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/downloadCrimea/20250520_risk.pdf 

 

 

3.戦略的取組み 

(1)金融包摂※2とリスクベース・アプローチ 

金融包摂は、メキシコの新FATF議長の下、重点課題の1つとされています。現在、銀行口座を持てない人が世界中で約14億人いるとされています。金融包摂に向け、本全体会合では、FATF勧告1(リスク評価とリスクベース・アプローチ)とその解釈ノート、勧告10(顧客管理)、15(新技術の悪用防止)の解釈ノート、金融包摂をよりサポートするための用語定義の改訂が承認されました。
以下は、改訂の概要です。 

  •  「commensurate」という用語を「proportionate」に置き換える※3。これは、特定されたリスクのレベルに適切に対応し、リスクを効果的に軽減する措置または行動を意味し、勧告全体においてこの用語を置き換えることで、リスクベースのアプローチの文脈においてこの概念がどのように適用されるべきか明確化し、FATFの用語を金融包摂の利害関係者および枠組みの用語とより一致させるため。[R.1および基準全体における関連する改正] 

  • 国に対し、低リスクシナリオにおいて簡素化された措置を認め、促進することを明示的に要求する。これにより、国のマネーローンダリング/テロ資金供与対策制度において、簡素化された措置を可能にする義務が明確化され、さらに国がその実施を積極的に推進するインセンティブが強化される。[R.1および基準全体にわたる関連改正]これに対応し、金融機関および特定非金融事業・職業専門家(DNFBPs)も、リスクの種類とレベルに応じて、措置を差別化することを検討する必要があります。[INR.1 第16項] 
  • 監督当局は、金融機関およびDNFBPsが実施するリスク低減措置をレビューし、検討し、関連するリスクの理解が不十分であることから生じる過剰な対応を回避し、義務を比例原則に従って実施していることを確保する必要があります。[INR.1 第9項] 
  • 「非対面取引関係および取引」が、適切なリスク低減措置が実施されていない場合のみ「潜在的に高いリスク状況」として考慮されることを明確化する修飾語を追加。この改正は、非対面取引が多くの国で標準的なビジネス慣行となり、デジタル身分証明システムの発展が関連するリスクを低減する可能性を認識しています。[INR.1 第15項] 
  • 低リスクおよび低リスクシナリオにおける、簡素化された措置および免除の適用に関する要件のさらなる明確化。[R.1およびINR.1全体] 

 FATF updates Standards and consults on guidance to better promote financial inclusion
https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfrecommendations/update-standards-promote-financial-conclusion-feb-2025.html)より引用、翻訳 

※2:貧困や差別などにより金融サービスから取り残されていることなく、すべての人が必要とする金融サービスにアクセスでき、利用できる状況 

※3:「commensurate」と「proportionate」はしばしば同義語として使用されますが、「commensurate」はより形式的で、サイズ、量、または程度の直接的な等価関係を暗示し、「proportionate」は相対的な関係を意味し、何かが適切なバランスや比率にあることを示す 

 

<日本における取組み> 

FATF基準改訂は、リスクが低い場合、金融機関が簡素化された措置を適用し、これにより人々の金融サービスへのアクセスを容易にすることを目的としています。日本において、途上国のような金融包摂の課題は多くは見られませんが、より有効性ある態勢構築に向け、金融庁では2024年4月にマネロンガイドラインFAQを改訂し※3、SDD(リスクに応じた簡素な顧客管理)対象の柔軟度を上げるなど、リスクベース・アプローチの強化を進めています。 

※3:金融庁マネロンガイドラインFAQ改訂については、以下の記事もご参照ください。
「金融庁マネロンガイドラインFAQ改訂とpKYC (Perpetual KYC)」について(1) 
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20240412 

また、金融庁では、今年3月に「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」を公表し、リスクベース・アプローチにより継続的に態勢を維持・高度化するための有効性検証の取組み推進を図っています。 

金融庁「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」(案)に対するパブリックコメントの結果等について
https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20250331-3/20250331-3.html 

 

 

(2)オンラインでの児童性的搾取の検出と阻止 

本全体会合では、資金の流れを分析し、金融情報を作成することで、児童性的虐待のライブ配信の深刻な金銭化と「性的脅迫(セクストーション)」の検出、阻止、調査のための報告書が承認されました。 

 報告書は、以下からダウンロードできます。 

Detecting, Disrupting and Investigating Online Child Sexual Exploitation 
https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Fatfgeneral/Online-child-sexual-exploitation.html 

 

<日本における取組み> 

セキュリティ会社のノートンの調査によると、2024年のセクストーション詐欺の標的になるリスク比率が日本は世界で1位であったとのことです。 

■2024年のリスク比率上位10か国 

 

国名 

リスク比率 

1 

日本 

0.91% 

2 

シンガポール 

0.77% 

3 

香港 

0.57% 

4 

南アフリカ 

0.54% 

5 

イタリア 

0.54% 

6 

オーストラリア 

0.47% 

7 

アラブ首長国連邦 

0.47% 

8 

イギリス 

0.47% 

9 

スイス 

0.40% 

10 

チェコ 

0.40% 

株式会社ノートンライフロック「2025年にて注意が必要なサイバー犯罪は“セクストーション詐欺”https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000069936.html)より引用 

 

各都道府県警察では、セクストーションに関する注意喚起をしています。 

大阪府警本部
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/saiba/chuikanki/kojin/18110.html 
長崎県警察
https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/wp-content/uploads/2022/03/268a6ece6c3cce1f3cedf1fc871e224b.pdf 
埼玉県警察
https://www.police.pref.saitama.lg.jp/c0070/kurashi/cyber-sextortion.html 

 

FATF報告書「Detecting, Disrupting and Investigating Online Child Sexual Exploitation」では、金融取引におけるセクストーション等の詐欺の特定について、ガイダンスが記されています。以下はその一部です。 

 児童に対する金融的性的搾取に関連する取引の一般的な特徴 

  • 取引を行う2つの個人間に明らかな関係がない場合(例:共通の姓でない、明確な事業目的がない)。
  • 取引額は一般に500ユーロ未満だが、場合によっては1,500ユーロまでに達することもある。
  • 送信者(被害者)と受信者(加害者)間の最初の取引は通常250ユーロ未満。
    送信者から受信者への短期間に複数の取引が行われ、その後完全に停止する。
  • FSEC(Financial Sexual Extortion of Children)の加害者の主要な活動地域(例:コートジボアール、ナイジェリア、フィリピンなど)との取引。対象機関は、この傾向が時間経過とともに変化する活動地域に注意を払う必要がある。
  • 取引の目的は、ソーシャルメディアまたはソーシャルメディアのユーザー名、性的なまたはポルノグラフィーに関連する用語、脅迫的または懇願的な言語、またはコンテンツが受け取られた日時を指します。
  • 取引の受取人は送金者と同一地域に所在しない。
    支払い詳細が慈善寄付のように見える。
  • 取引が性犯罪者公開登録簿に掲載されている個人と関連している。 

 

上記のように、日本は、セクストーション詐欺の標的になるリスク比率が高いとされています。犯罪防止には、SNSやアプリ提供事業者の責任は大きいですが、今後、金融機関において、「SNS型投資・ロマンス詐欺」と同様に、セクストーション等の詐欺検知についてのシナリオ追加が必要になってくると思われます。当社でも引き続きその動向を追っていきます。

 

 

 

◆「コンプライアンス・ステーション UBO」無償トライアルのお知らせ  

国の行動計画において2024年3月を期限とした「継続的顧客管理の完全実施」や「既存顧客の実質的支配者情報の確認」への対応のため、「コンプライアンス・ステーションUBO」へのお問合せが増えています。  

「コンプライアンス・ステーションUBO」は、国内最大級の企業情報データベースを基に、犯収法に沿ってオンラインで瞬時に実質的支配者情報等を提供するサービスです。DM調査で思うようにUBO情報が得られない、DM調査等のコストを削減したいなど、課題がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。  

「コンプライアンス・ステーションUBO」については以下のリンクから詳しくご確認いただけます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000094258.html               2023年6月15日発表のプレスリリース)

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◆著者のご紹介     

    

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

 富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開。20214CDLを設立し、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)       
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)

 

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