2025年10月8日、ベトナム国籍の男女6名が偽装した身分証で不正に金融機関の口座を開設したとして神奈川・富山・岐阜の3県警合同捜査本部により逮捕されたことが報じられました。近年ではAIの技術の進化により、巧妙な偽画像の生成が容易になり、非対面の本人確認が不正に突破される懸念が高まっています。
このような背景を踏まえ、本記事ではこれら脅威に対応するための「本人確認方法の厳格化」について解説します。
KYC(Know Your Customer、以下「本人確認」)は、一般的にサービス提供事業者が顧客の身元や経歴を確認することを意味します。各サービス提供事業者は、それぞれ異なる法令に基づき顧客との特定取引時に本人確認を行うことが義務付けられています。
【本人確認を定める代表的な法令】
上記の法令が適用されない多くの事業者は本人確認を行う義務がないものの、EC等の一部事業者は自らのサービスが取り扱う資産・リスクに応じて自主的に本人確認を行うケースが出てきています。これら事業者においては、認証レベル・本人確認方法を定める一つの参考として、⼀般社団法⼈OpenID ファウンデーション・ジャパンが公表している「⺠間事業者向け デジタル本⼈確認ガイドライン」を参照することが有効と考えられます。
犯収法改正と今後の動向
多くのサービス提供事業者が採用する本人確認手法として、顧客より本人確認書類を提示もしくは写しを提供させることが一般的でしたが、近年の写真加工技術の向上や生成AIの台頭により本人確認書類を偽装するケースが発生しています。
なりすましや虚偽の申告による金融サービスの不正利用を防ぐために、近年本人確認手法を厳格化する方向で犯収法が改正されています。
新たな本人確認方法として、マイナンバーカードで管理される本人特定事項(氏名・住所・生年月日・顔写真など)をスマートフォンを通じて特定事業者に送信することが可能になりました。
この改正は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」が改正されたことにより、マイナンバーカードと同等の機能をスマートフォンに搭載できるようになったことが契機となります。
参考:デジタル庁「「iPhoneのマイナンバーカード」の提供を開始しました」
◆2027年4月1日施行予定による主な改正内容
1.「本人の容貌等を撮影した画像と、顔写真付き本人確認書類の画像の送信」の廃止
2.「本人確認書類の写し2点の送信と、転送不要郵便による到達確認」の廃止
上記により、非対面の本人確認方法はマイナンバーカードの公的個人認証サービスに一本化されることになります。
3.「顔写真付き本人確認書類の写しの送付又は本人の容貌等を撮影した画像の送信と、転送不要郵便による到達確認」の追加
1、2の変更に伴い、海外在住者にとって実質的に本人確認を行う手段が無くなることへの対応として、3が新たに追加されました。これは外国人や国外転出者に限った例外的な取り扱いとなります。
今回の改正に伴い、多くの金融機関は非対面取引における本人特定事項の確認方法の見直しが必要になると考えられます。
非対面における本人確認の業務設計やシステム改修の他、既存顧客が旧方式で本人確認していた場合の認証結果の有効性の検討、マイナンバーカード未保有顧客やデジタルリテラシーが高くない顧客への導線設計・ヘルプデスク設置など、必要な対応は多岐にわたります。
2027年4月の施行まで残り1年半ほどとなりますが、早い段階からの準備が求められます。