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土地登記と実質的支配者登録簿の連携可能性— Open Ownershipワーキングペーパーを読む(第3回)

作成者: 著者 ブログ編集部​|May 29, 2026 1:02:21 AM

 

第1回では、資産レベルの実質所有者透明性(Beneficial Ownership Transparency/BOT)が求められる背景と、Open Ownershipのワーキングペーパーが掲げる問題設定、土地をめぐる二つのアプローチについて整理いたしました。第2回では、それらのアプローチが具体的にどのような制度として実装されているのかを、イングランド及びウェールズ、エストニア、スコットランド、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の4事例から概観いたしました。

最終回となる第3回は、各登記・登録簿の「アクセスのしやすさ」と「データ提供のされ方」、そして登記情報の限界と民間データの役割に焦点を当てて整理してまいります。

Maria Jofre and Tymon Kiepe, Bridging the gap for effective asset transparency, Working paper, (Open Ownership, 2026)

 

目次

 

 

アクセシビリティの違いは何を左右するか

Open Ownershipのワーキングペーパーでは、4つの登記・登録簿の概要が、アクセスレベル、データ形式、更新頻度といった観点から整理されています。
イングランド及びウェールズのHM Land Registry(HMLR)は、法人が所有する不動産に関するデータセットをCSVやAPI(JSON 形式)で提供しており、一定の登録やライセンス条件はあるものの、機械可読な形での利用を前提にした設計となっております。一方で、スコットランドのRegister of Persons Holding a Controlled Interest in Land(RCI)やブリティッシュコロンビア州のLand Owner Transparency Registry(LOTR)は、Webポータルからの無料検索が可能で、個別の土地について誰が法的または実質的に関与しているかを確認するには便利な一方、少なくとも一般向けにはバルク取得やAPI提供は想定されておりません。
この違いは、単なる利便性の差にとどまりません。特定の不動産取引や融資案件など、個別案件ごとに名義や支配関係を確認したい場合には、画面上での検索でも一定の役割を果たし得ます。一方で、複数の法人や人物にまたがる所有ネットワークを俯瞰したり、特定の属性に着目して横断的に分析したりする場合には、機械可読な形式でのデータ取得が重要になります。AMLや金融犯罪対策の実務において、個別審査とポートフォリオ分析の両方が求められることを踏まえますと、この差は小さくないと言えます。

主な土地登記の概要

 

 

4事例にみる設計思想の違い

第2回でも触れましたとおり、イングランド及びウェールズの HMLR やエストニアの土地登記は、土地情報そのものに法人識別子や構造化された権利情報を持たせ、商業登記や実質的支配者情報へと接続していく設計となっております。Open Ownership は、英国とエストニアの事例について、信頼できる識別子が整備され、国内・国外の法人に関する実質的支配者情報と接続可能な場合には、土地固有の実質的支配者登録簿制度と同等か、それ以上に実質的支配者ネットワークを理解し得ると評価しております。
これに対し、スコットランドの RCI や ブリティッシュコロンビア州のLOTR は、土地に関する透明性を高めるため、土地に紐づく実質的支配者情報や支配関係を直接開示させる方向に重心が置かれております。ただし Open Ownershipは、そのような土地固有の実質的支配者登録簿制度についても、他の実質的支配者登録簿制度と定義・閾値・報告時点がずれることで、比較や統合が難しくなる可能性があると指摘しております。
ここで重要なのは、どちらの方式が「優れているか」を単純に決めることではありません。誰が、どの目的で、どの粒度の情報を必要としているのかによって、望ましいアクセシビリティの水準や提供形式は変わってくるためです。Open Ownershipも、どの権利類型や詳細レベルがどの政策目的に必要かについて、ユーザーリサーチの必要性を強調しております。

 

 

登記情報の限界と追加調査の重要性

もっとも、アクセシビリティの高い登記や登録簿の類が整備されていたとしても、それだけで土地に関する実態を完全に把握できるわけではありません。Open Ownershipのワーキングペーパーは、既存の土地登記と法人の実質的支配者登録簿を接続する方式には、法的主体を介さない個人間の取り決めによる間接的な支配・受益関係が一貫して表れにくいという限界があると述べております。
また、土地専用の実質的支配者登録簿を設けたとしても、申告ベースである以上、制度の定義や更新タイミング、他制度とのデータの重複といった問題は残ります。つまり、公的な登記や登記簿は非常に重要な基盤ではあるものの、それ自体が常に完全な答えを与えてくれるわけではない、という前提を置く必要があります。
AML・金融犯罪対策の観点から実務的に重要なのは、登記や登録簿を「唯一かつ完全な情報源」とみなすのではなく、信頼性の高い出発点として位置付けることです。そのうえで、必要に応じて自社調査や商業データベースを組み合わせ、関係法人の資本系列や関連当事者、所在地や役員の重なり、過去の取引先との接点などを補完的に確認していくアプローチが、現実的な対応になると考えられます。
とりわけ土地・不動産の文脈では、名義上の所有者、法人の実質的支配者、実際の利用者が必ずしも一致しない場面が想定されます。公的情報で確認できる範囲を押さえたうえで、公開情報調査やグループ構造の分析、商業データベースの参照などを重ねる姿勢が、結果として過不足のないリスク評価につながってまいります。

 

 

おわりに:登記は出発点であって終点ではない

3回にわたりOpen Ownershipのワーキングペーパーを辿ってまいりましたが、最終的に確認できたのは、土地登記情報と実質的支配者情報の連携は、資産レベルBOTに向けた有力な基盤となり得る一方、それだけで全ての関係性が可視化されるわけではない、という点でした。
登記のアクセシビリティやデータ形式の整備は、実務上の使いやすさを大きく左右する重要な論点です。しかし、どれだけ整備が進んでも、公的情報には構造的な限界が残ります。AMLや金融犯罪対策の実務においては、登記情報を重要な出発点としつつ、自社調査や商業データベースの活用を重ねながら全体像に近づいていく、という姿勢が、今後も現実的かつバランスの取れた対応ではないかと考えております。