オーストラリアの四大銀行の一つであるANZ銀行(オーストラリア・ニュージーランド銀行)が、過失および不正行為により過去最高額となる2億4,000万豪ドルの罰金を科されました。
この罰金は、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が単独の企業に科したものとしては、同国史上最大の額となりました。
ANZ銀行は、オーストラリアの企業監督機関であるASIC(豪証券投資委員会)から2億4,000万豪ドルの制裁金を科されました
今回の最大の違反行為は、ANZ銀行がオーストラリア連邦政府債券140億豪ドル分の債券の金利リスクを調整する「デュレーション・マネージャー」として、オーストラリア財務管理局(AOFM)の代理で業務を担っていたことに起因します。ANZ銀行は、AOFMによる債券売却の直前に、異常な量の債券先物を売却していたことを認めており、その結果、価格が0.02%下落し、政府がこの140億豪ドルの債務に対して支払う金利が上昇しました。この行為により、オーストラリア政府は2,600万豪ドルの損失を被ったとされています。
罰金のうち1億1,500万豪ドルは、深刻な顧客対応の不備に関連しています。ANZ銀行は約500件の生活困窮支援申請に対し、最大で2年間も対応を怠っていた一方で、多くの申請者に対して強引な債権回収を行っていました。
また、同行は金利に関して故意に虚偽かつ誤解を招く説明を行っていたことが判明しており、約23万人の顧客に影響を与えていました。
銀行業はオーストラリアの国内総生産(GDP)の7.5%を占めており、業界は「四大銀行」と呼ばれる主要4行によって支配されています:
これら4行でオーストラリアの銀行市場の約70%を占めています。第5の銀行であるマッコーリー・グループは、ANZ銀行よりわずかに規模が小さいものの、近い将来その順位が入れ替わる可能性もあります。
ANZ銀行は過去10年間で、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)から11回の制裁を受けています。
オーストラリアの主要銀行は、消費者および規制当局の双方からの信頼がすでに非常に低く、2019年の「銀行ロイヤル・コミッション」によって提出された膨大な証言や文書がそれを裏付けています。
2017年10月、オーストラリア連邦議会は「銀行・年金・金融サービス業界における不正行為に関するロイヤル・コミッション(Banking Royal Commission:BRC)」を設立しました。2017年から2019年に行われたこの調査は、オーストラリア最高裁判所の元判事が委員長を務め、複数の銀行による一連の不祥事や不正行為を受けて開始されたものです。発端は2008年、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)に寄せられた内部告発で、同国最大の銀行であるコモンウェルス銀行に関連する金融アドバイザーによる不正行為の隠蔽が指摘されました。
2019年2月に公表された銀行ロイヤル・コミッション(BRC)の最終報告書は非常に厳しい内容で、オーストラリアの銀行は「強欲」のみに動機づけられ、他のすべての責任を顧みず「販売」にのみ注力していると断じました。
「銀行業界王立委員会」の最終報告書は、2019年に公表されました
銀行ロイヤル・コミッション(BRC)は多くの勧告を行っており、主なものは以下の通りです:
銀行ロイヤル・コミッション(BRC)の勧告のうち、いくつかは法制化されたものの、多くは未だ実施されていません。しかし、BRCの後には、オーストラリアの銀行が世論の批判に応え、「体質を改善」し、今後は顧客に対してより誠実な対応をするだろうという明確な期待がありました。ところが、最近のANZ銀行への制裁やその他の不祥事を見る限り、そうした変化は実現されておらず、2019年以降も企業文化や銀行業務の慣行にはほとんど改善が見られないことが示唆されています。
オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、銀行を含むすべてのオーストラリア企業を監督する権限を持つ、オーストラリア政府の機関です 。
2025年9月15日、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)のトップであるジョー・ロンゴ氏は、異例の措置として記者会見を開き、ANZ銀行を公然と非難しました:
「ANZ銀行は何度も期待を裏切ってきました。何度も、オーストラリア国民の信頼を踏みにじってきたのです。同行の各部門で確認された問題は、広範な不正行為、繰り返される失敗、そして顧客が銀行に寄せる信頼を軽視する、到底容認できない姿勢の混在です。金融サービスにおいて“信頼”は中核です。顧客も、政府も、規制当局も、銀行が約束を守り、適切な行動規範を維持することを信じられなければなりません。今日、多くのオーストラリア国民がANZに対する信頼を疑問視するのは、当然のことです。」
2億4,000万豪ドルの制裁金は、ASICをはじめとするオーストラリアの規制当局が、国内の銀行業界に対してついに我慢の限界に達し、もはや象徴的な措置ではなく、実質的な影響力を持つ罰則を科す姿勢に転じたことを示していると言えるでしょう。
著者のご紹介
ウオリック・マセウス
ウオリック・マセウス(Warwick Matthews)
最高技術責任者 兼 最高データ責任者
複雑なグローバルデータ、多言語MDM、アイデンティティ解決、「データサプライチェーン」システムの設計、構築、管理において15年以上の専門知識を有し、最高クラスの新システムの構築やサードパーティプラットフォームの統合に従事。 また、最近では大手企業の同意・プライバシー体制の構築にも携わっている。
米国、カナダ、オーストラリア、日本でデータチームを率いた経験があり、 最近では、ロブロー・カンパニーズ・リミテッド(カナダ最大の小売グループ)および米国ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)のアイデンティティ・データチームのリーダーとして従事。
アジア言語におけるビジネスIDデータ検証、言語間のヒューリスティック翻字解析、非構造化データのキュレーション、ビジネスから地理のIDデータ検証など、いくつかの分野における特許の共同保有者でもある。