2024年1月1日から米国にて、企業の実質的支配者情報の報告制度が始まりました。今号と次号にて、その内容をご紹介します。
本制度は、2021年に制定された企業透明化法(CTA)に基づいており、米国で事業を行う企業に対し、最終的にその企業を支配、所有する個人(実質的支配者)をFinCENに報告することを求めるものです。
報告義務がある企業は、以下の2種類です。
報告義務が免除される会社、団体等も規定されています。政府機関や、特定の要件を満たす上場企業、非営利団体、特定の大規模な事業会社など23種類の会社・団体が免除の対象となっています。
報告会社は、実質的所有者である各個人について、以下を提供する必要があります。
また、会社設立等申請者 (Company applicant)に関しても、上記と同様の情報を提供する必要があります。
報告期限は、以下の3つのパターンがあります。
1度報告すると実質的支配者に変更がない限り、報告は不要です。ただし、変更があった場合は、30日以内に情報を更新する必要があります。
登録された実質的支配者情報には、連邦政府、州政府、地方政府、および部族政府当局者がアクセス可能です。また、米国連邦政府機関を通じて要請を提出した特定の外国政府当局者が、国家安全保障、情報、および法執行に関連する活動のために実質的支配者情報にアクセスできます。
金融機関は、特定の状況において、報告会社の同意を得て、実質的支配者情報にアクセスすることができます。
実質的支配者の登録簿に関しては、欧州が先行して導入が進んでいましたが、FATFの指摘を踏まえて、米国でも制度が開始されました。
ほとんどの企業が実質的支配者情報を報告する義務を負い、そのデータに関係当局や金融機関がアクセス可能になったことは大きな前進と思われます。一方で、金融機関は、報告会社の同意を得ないと情報にアクセス出来なかったり、報告された実質的支配者情報をどのように検証するのか不透明であったりなど、運用上の課題が出てくることも推測されます。
日本では、実質的支配者リスト制度が運用されており、今後改善が必要になってくるかと思いますが、どのように改善していくのが良いのか、欧米での先行事例が参考になります。弊社でも引き続き、欧米での実質的支配者登録簿の状況を追っていきます。
次回の私のブログでは、本ブログの続編として、米国金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の実質的支配者報告制度における「実質的支配者の定義」についてご紹介します。
著者紹介
コンプライアンス・データラボ株式会社
代表取締役、CEO
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。
・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)
・公認情報システム監査人(CISA)
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)
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