CDLニュースレター

外国資本による不動産取得と法人悪用リスク

作成者: 著者 ブログ編集部​|Dec 11, 2025 10:59:59 PM

日本国内で、外国資本による不動産取得を巡る議論が一気に加速しています。 表面的には外国人による購入をどう規制するかというテーマですが、この問題をより複雑にしている背景は「法人を隠れ蓑にした実質的な不動産所有」の浸透です。 本稿では、足元の政策動向と過去報道で顕在化した具体的な事案をおさらいしつつ、不動産取引に関わる犯収法特定事業者が、今後どのような顧客管理体制を構築していくべきかを考えます。

 

 

 目次

 

 

外国資本による不動産取得規制を巡る動向 

202512月、自民党のプロジェクトチームは、外国人による不動産取得を巡る規制について、年内にも提言を取りまとめる方針を示しました。野党各党も独自の法案を提出しており、この問題が際立って注目されていることがうかがえます。背景には、防衛施設周辺や国境離島、水源地など安全保障上重要なエリアで、外国資本による買収が進んでいるとの問題意識があります。​一方で、日本では憲法上の財産権保護との関係から、「外国人であること」を直接の理由として一律に不動産取得を禁止することは難しいとされてきました。そのため、2022年に施行された「重要土地等調査法」も、防衛施設等周辺や国境離島などの特定区域に対象を限定し、利用状況の調査や届出を通じた安全保障上のリスク管理というアプローチをとっています。​ 

 

 

繰り返し指摘されてきた法人を隠れ蓑とした不動産所有の実態 

2025年に大きく報じられたのが、カンボジアのコングロマリット「プリンス・ホールディング・グループ」の会長チェン・ジー氏に関する事案です。同氏は米司法省から国際詐欺と資金洗浄で訴追され、米財務省から制裁指定も受けている人物ですが、そのチェン氏が東京都港区北青山の高級マンションを居住地として確保していたことが、共同通信の報道により明らかになりました。​これによると、チェン氏は2022年に日本法人を設立し、その登記情報から、当初はプノンペンの本社ビル隣接地を本店所在地としていたものの、2024年には所在地を港区北青山の高級マンションに移転していたことが確認されています。 専門家は、制裁対象となっている人物が日本法人を足掛かりに都心の一等地に生活拠点を移した可能性を指摘し、日本の法人制度や不動産取引ルールが「合法的な滞在・隠れ蓑」として利用されかねないと警鐘を鳴らしています。​ 

時を遡ると2024年のロイター報道2023年の産経新聞コラムでは、宗教法人の買収を通じて日本国内に法人を確保し、税制優遇や透明性の低さを組み合わせたスキームが指摘されています。 神社仏閣などが後継者難を背景に売却対象となり、宗教的目的ではなく、法人と優遇措置を狙った海外資本の関与が疑われるケースが報じられました。​ 

こうした事例は、不動産そのものの取得に加え、「不動産+法人」を組み合わせることで、表向きは日本の法人・日本人代表者による所有に見せかけつつ、背後では外国勢力や国際犯罪組織が実質的に支配するという構図が現実のものになりつつあることを示しています。​ 

 

 

「外国人名義」から「法人の背後」へ――リスク認識の転換 

従来、日本国内の議論は「外国人が土地を買っているかどうか」という名義ベースの視点に偏りがちでした。 しかし、プリンス会長の事案のように、日本法人を設立して登記上は日本法人名義としつつ、実際には制裁対象者が居住・支配するケースが顕在化したことで、「法人の背後に誰がいるか」という、より本質的な視点が不可欠であることが浮き彫りになりました。​特に、外形的には日本人名義の役員・代表者が立っている場合でも、背後で意思決定や支配を行う人物が外国に存在すれば、AML/CFTの観点からは高リスクと評価せざるを得ないでしょう。 

当ブログシリーズの隠れたヒット作「地面師から学ぶ、マネーロンダリングの手法とその対策(CDLブログ47号)」で触れられている通り、不動産売買は一般的に高額でありながら相対取引である性質上、取引前のデュー・ディリジェンスを怠ってしまうケースがあります。実際、宅建業者は犯収法上の特定事業者として顧客管理義務を負っており、事業者の数が多いにも関わらず、2024年の疑わしい取引の届出は僅か年25件にとどまるなど、運用の実態は窺い知れない状況です。実際、FATF第4次相互審査の評価は、宅建業者を含むDNFBPs/Designated Non-Financial Businesses and Professions(特定非金融業者及び職業専門家)領域の取組みに対して厳しい指摘を示しており、2028年に予定されるFATF5次相互審査までの改善が期待されています。 

 

出所:令和6年犯罪収益移転防止に関する年次報告書(警察庁、2024年) 

 

 

今後の展望と実務的なインプリメンテーション 

これらの状況を踏まえると、宅建業者に求められる対応は、少なくとも次のような方向に収束していく展開が予想されます。 

  • 取引当事者が法人の場合、登記簿やオープンデータだけでなく、株主・役員・グループ企業情報などを踏まえた、実質的支配者の確認が標準化される方向に進む。 
  • 国際的な制裁対象や、国際的な詐欺・マネーロンダリングに関与したとされるグループとの関係性について、制裁リストや行政処分、ニュースを用いたネガティブチェックの重要性が高まる。​ 
  • 防衛施設周辺や重要インフラ、水源地、観光地など、政策的に注視されているエリアの取引については、重要土地等調査法と連動した追加的なチェック項目が整備されることが想定される。​ 

 

 

「法人の背後にいる人物をデータで把握し、継続的に更新する」仕組みは実務上不可欠となりますが、この仕組みを取引相手である顧客申告のみに依存することは、リスクそのものと言わざるを得ないでしょう。 

 

 

 

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