KYCC代表の飛内様、KYCC CTOの林様、CDL代表の山崎が、KYCC様主催で「企業間取引におけるコンプライアンスの現状と今後」をテーマにオンライン対談を行いました。
下記3つの課題について前編と後編に分けて対談の様子を掲載します。
今回は前編をお届けします。
<登壇者>
KYCコンサルティング株式会社 代表取締役 飛内 尚正 様
中央大学卒業後、海上自衛隊幹部自衛官として勤務後、20年以上国内の危機管理会社にて数多くの企業不祥事、事件・事故対応、反社対応、マネロン対応、労務紛争対応等の企業危機管理実務とそれらの未然防止のコンサルを経て、2018年、KYCコンサルティング(株)を設立。
日本に健全な経済取引を実現するため、KYC・コンプライアンスに特化したリスクマネジメント事業の展開を行っている。
KYCコンサルティング株式会社 CTO 林 高行 様
東京工業大学大学院国際開発工学修了後、Citibank, N. A.を経てみずほ証券リスク統括部にて金融派生商品の定量分析業務に従事。IT、金融工学を領域とし、多くの顧客の支援を経験。
SaaS事業運営の経験も活かし、技術のみならず、事業全体とテックとの橋渡しとしてその融合に強みを持つ。
コンプライアンス・データラボ株式会社 代表取締役 山崎 博史
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。 公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS) 、公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS) 、公認情報システム監査人(CISA) 、米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)
<対談テーマ>
「企業間取引におけるコンプライアンスの現状と今後」
(前編)
(対談動画の前編はこちらからご視聴いただけます。音が出ますので音量にご注意ください。)
ポイント1:
「企業間取引において特に重点的にみるべきポイントとは?」
・KYCC 飛内様
「企業間取引において特に重点的にみるべきポイントとは」と題しまして、まずは「法人格調査」について、私から現状を案内させていただきたいと思います。
現時点で、例えば、KYC、KYBにおいて、チェックすべき内容と申しましては、過去の犯罪歴がある、あるいは入札停止などの法人としてのなんらかの罰則である、といったものに該当していないか、このようなところがメインになってくるかと思います。
あわせて、実在性の確認というところも重要視されている企業様も増えてまいりました。一方で海外に目を向けますと、SDGs、ESG等の企業としての取り組み度合。あるいは、現代の奴隷制度など、企業の健全性を測る指標というものが非常に広範囲に渡っているというのが、海外水準でもございます。
一方で、実質的支配者調査というものがございます。いわゆる、UBOに関して調査をします、というところも非常に重要視されてきました。この点について、山崎様ぜひコメントを頂戴できればと思います。
・CDL 山崎
はい、ありがとうございます。山崎と申します。私の方から実質的支配者の点でお話させていただきます。
まず、背景として、いまマネーロンダリングの規模が、グローバル全体でGDPの2%~5%といわれております。実際、為替のレートで変動はしますが、大体約240兆円~600兆円といわれております。ものすごい額の金額がマネーロンダリングされています。
一方でその犯罪収益、犯罪資産というのが、差し押さえや凍結されている割合が全体の0.2%という統計もあります。ものすごい大きな金額が凍結、差し押さえされずにそのまま犯罪者の中で使われているというのが今の状況かなと思います。
一つの大きな要因は、犯罪者は自らを隠して犯罪を行うということが定石になっており、よく使われるのが法人です。法人を使って自らを隠すということがよくされているということです。
FATFも、そこを問題視しており、この実質的支配者と呼ばれる、その法人の背後に支配者がいないか、これを明らかにしてマネロンリスクがあるかないか、そういったところを判断することを求めております。
こちらはFATFの勧告24に記載されていますが、金融庁のカイドラインでもそこは求めています。一方で先ほど申したように、犯罪資産を捕捉できていない状況の中で、FATFとしてもその実質的支配者の特定を厳しく求めるようになっております。
これが前年度、改訂されたFATF勧告24の内容に繋がっていることになります。金融機関の皆さんはもうすでになじみがあるところで、実質的支配者の調査は、もう行っているかと思うのですが、さらに厳しい調査が求められるというところと、金融機関以外でもこの実質的支配者調査が厳しく求められるようになることが考えられております。
・KYCC 飛内様
実質的支配者調査については、私どものお客様にとっても非常に重要なポイントになっております。こちらの実質的支配者を特定して且つ健全性をもっているものなのかどうか、このような部分については今後益々健全な経営を志向する会社としてはマストな事項になっているのかなと思っております。
ポイント2:「KYBを取り巻く環境の変化」
・KYCC 飛内様
続きまして、次のテーマでこざいますが、「KYBを取り巻く環境の変化」についてお話をさせていただければと思います。まず、一番目のトピックスは違法取引。この内容の変化について林さんいかがでしょうか?
・KYCC 林様
はい、違法取引の内容の変化については、FATFの動きと合わせて、確認してゆくことが大切と思います。
さかのぼること1990年ぐらいまで、日本での犯罪取引は、マネーロンダリングが主要で、主に反社会勢力が主体で、現在の国際的な組織による犯罪ほどのことはなかったようでございます。
一方、その頃のFATFの動きを見てみますと、違法取引の焦点も薬物の密売組織を対象としたマネロンを主体的な取締りの対象としておりました。ところが、2000年頃から、大規模なテロ組織が勃興するようになり、大規模テロが発生するようになりました。
大きなものとしては、皆さんもご存知かと思うのですが、2001年頃に発生した米国同時多発テロ事件がございます。これを受けて、FATFではテロリズムの実行、テロリストの活動支援のためのテロ資金供与に関する勧告というものが策定されました。
そこからさらに10年ほど経って、2012年には大量破壊兵器の拡散行為の支援対策概念もFATFに追加されました。このように、1990年頃からの違法取引の内容を見ると、かつてのような反社会的組織によるものに加えて、より国際的で大規模な組織の活動のための資金源として違法取引が行われるようになってきた、と言う背景があると思います。
こういった背景を踏まえて、日々の取引において、KYB、Know Your Businessを行うということは、普段ニュースでしか見られないような、一見すると少し遠いお話のような犯罪に対する収益を防ぐとても大切で、企業においては必須ともいえる事業活動の一つと言えるようになってきているのかなと思います。
・KYCC 飛内様
はい、ありがとうございます。
一方、テクノロジーは日々進歩しておりますが、こういった違法取引のプロセスも同時に迅速化しているというような認識でおります。また、冒頭申し上げたような調査範囲が異常に広がっているという環境も踏まえて、こういった技術環境の変化による企業として取り組むべきことについて林さんいかがでしょうか?
・KYCC 林様
はい、私はよく何か物事を捉えるときに、環境の変化というものを考えることがとても大切だなと思っており、技術環境の変化もその一つとして取りあげさせて頂きました。
一つには、インターネットの普及とサーバーのスペックの大きな向上によって、私たちの生活は格段に便利になったかと思います。そして、日常的に行われる取引においても、決済手段というのは非常に多様化しており、またコロナ禍ということもあって、人を介さない、システムのみの取引というのも可能になってきています。これは一般的にいうとその技術環境変化による良い側面かと思います。
一方、負の側面としてはやはり違法取引によって、犯罪組織に、収益が渡るまでのスピードも以前より速くなってしまったと言うことがあげられるかと思います。そのため、KYBにおいてもなるべく取引の初期段階、尚且つ以前行われていたような、人による目視のチェックではなくて、これまでのプロセスより劇的に早いスピードでのKYBが求められるようになってきているという背景があると思います。これが一点目の違法取引プロセスの迅速化に関するものであります。
二つ目の調査データの爆発的な増加に関して、先ほど申し上げましたようなインターネットの普及に関するところですが、KYBを行うためには確認対象の元データが必要です。
以前は新聞といくつかの週刊誌のみであったものが、現在は無数のインターネットメディアが存在するようになっており、爆発的に調査するべきデータ量が増えるようになってきました。
データ量が増えるということだけでも大きな変化ですが、それに加えて、以前は先ほど冒頭飛内が申し上げましたとおり反社会勢力に関する情報が主だったのが、現在は指名停止情報、ネガティブ情報など、ニュースメディアだけではなく、官公庁とか都道府県などから発出されるインシデント情報なども確認が必要となっており、データの量だけではなく、種類自体も増加の一途をたどっているといった状況が昨今起こっております。
・KYCC 飛内様
はい、そういった環境変化を受けて行政もけして手をこまねいている訳ではいないという状況が見てとれます。いわゆる規制が様々強化されております。一方で、隠蔽する側についてもテクノロジーのアドバンスは日々行われていると。そのあたりの巧妙化について山崎様いかがでございますでしょうか?
・ CDL 山崎
はい、まず簡単に実質的支配者とは何かと言ったところをお話させていただくと、いま犯収法や関連のQ&Aで、いろいろ実質的支配者の確定方法が載せられていますが、簡単に言うと25%超の議決権を持つ個人となります。25%超持つ個人ですが、それが直接保有しているのかもしくは間接的に保有しているのかといったところで、間接も含めて議決権を25%超持っている個人は実質的支配者と定義されております。
25%超の実質的支配者がいない場合は取引ですとか、出資、融資、そういったところを通じて支配、その関わりを支配的にコントロールできるといったような方が実質的支配者。そこもいなければ代表者というような要件があります。結構、複雑なものになっております。
一番難しいのが間接的に25%超保有している人物が誰かといった計算が非常に難しくなっています。法人を使って悪いことをする人はどういうことをするかというと、これはもう10年くらい前から、ヨーロッパでは問題視されているのですが、例えば株を持ち合いする、そして個人が一部だけを持つといったようなスキームもあって、そうすると個人の持ち分が非常に低く見える、といったところがあります。
あとは、シンプルですが、多階層に渡る資本構造をもつ企業です。自社に対して親会社がいて、また親会社がいて、究極的に支配する個人がいるといったところ。こういったスキームを作られると、なかなか当該企業を支配している人が誰か、実質的支配者が誰か、といった特定ができなくなります。
一方で、いま法律で要求されている実質的支配者の確認というのは、申告ベースになっていますので、当該企業に対して実質的支配者を申告してくださいという形で情報を得ると、本当にそれが正しいのか、どういった資本系列で、どういったスキームになっているかが分からず実質支配者情報だけをもらうことになります。
ただ、もちろんこれだと本当に正しい実質的支配者かどうかが分からないので、FATFからも指摘が入っていますが、しっかり実質的支配者を検証する必要があり、金融機関もそれをどうやって検証するかで非常に頭を悩ませているところかと思っております。
(後編へ続く)