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平素よりお世話になりありがとうございます。「CDLブログ第49号」をお届けします。
2024年7月にFATFの議長国が、シンガポールからメキシコに代わりました。議長は、Elisa de Anda Madrazo氏が就任しています。任期は2年です。議長就任にあたり、この2年間での優先事項が公表されましたので、その内容を見ていきます。
PRIORITIES FOR THE FINANCIAL ACTION TASK FORCE UNDER THE MEXICAN PRESIDENCY OBJECTIVES FOR 2024-2026
出典:Worldbank Group Financial Inclusion overview
https://www.worldbank.org/en/topic/financialinclusion/overview
どうしても金融犯罪対策を進めていくと、リスクのある相手に対して、金融サービスの提供を制限しなくてはならない場面が出てきますが、FATFでは、金融犯罪対策と金融包摂は両立するとしています。金融サービスを制限することは、正当に資金を必要としている人に資金が渡らないだけでなく、現金での取引や闇金融の利用などが広がり、マネーローンダリングやテロ資金供与のリスクを高めることが懸念されます。メキシコの新議長は、「AML/CFTに対するリスクベース・アプローチを強化し、金融包摂を推進する」ことを目指すとしています。
新議長の下、7か国で新たなラウンドの相互審査(第5次)が採択される予定です。その中で優先事項は、「より焦点を絞ったリスクベースで、タイムリーに相互審査を実施し、各国がそのプロセスを理解し、準備できるようにすること」とされています。第5次相互審査は、さらに有効性を重視するため、評価手法、手順、優先順位付けの基準などが改訂されています。新議長は、この新しい基準での審査の質、一貫性を確保するため、FATFやグローバルネットワークに必要なトレーニングを推進していくとのことです。
新議長は、「FATFとFATF型地域体(FSRB: FATF-Style Regional Bodies)間の協力と協調を維持・強化し、相互審査の新しいラウンドに移行する際の結束力を強化することを目指す。」と発言しています。金融犯罪は、規制や管理が緩いところを狙って行われます。グローバル全体で対策を強化しないと、金融犯罪対策の実効性が向上しません。新議長は、FSRBメンバーに、基準設定やリスク類型化の作業へオブザーバーとして参加してもらうなど、FATFの重要プロジェクトや作業部会へ関与してもらい、FATF基準の遵守を広げていきたい考えを示しています。
新議長は、財産回復、実質的支配者、暗号資産に関して、以下のようにコメントしています。
「財産回復、実質的支配者、および暗号資産に関するFATF基準は本質的な重要性を有しており、それらの相互関係は、犯罪が報われないことを確実にするための重要な基盤を形成している。」
日本においても、財産回復、実質的支配者、暗号資産においては、2024年~26年の行動計画に組み込まれており、FATFの方針と符合します。以下に、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」の一部を抜粋します。
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度]
「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」の「IO.5法人等の悪用防止」に関しては、私の過去のブログもご参照ください。
政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(1)政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(2)
政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(3)
5つ目の優先事項は、「テロ資金供与と拡散金融」が挙げられています。ロシア-ウクライナや中東情勢の悪化などに伴い、テロ資金供与、拡散金融対策の重要性はますます高まっています。新議長は、「テロ資金供与と拡散金融の防止と対策は、FATFの責務の重要な部分である。テロ資金供与リスクに関する理解を深め、アップデートするための作業を支援し、相互審査および関連するフォローアップ・プロセスにおいて、テロ資金供与対策の実施が適切に評価されるようにする。」としています。
日本においても、行動計画にて「遅滞なき資産凍結等の実施強化のため、迅速な制裁対象者情報の通知やベストプラクティスの共有など、関係省庁及び特定事業者との連携の枠組みを強化する。」としています。日々国際情勢が変化する中、リスク関連情報が共有されることになりますが、その情報を受けて、特定事業者は適切な対応が取れるように準備していかなくてはなりません。
ここでシンガポール議長国の下の2022年から2024年の優先事項を振り返ります。
2022-2024年のFATFの優先事項では、受益者所有権(法人や信託の実質的支配者)の透明性を向上させるための基礎的な制度が整備されました。主に既存の基準を基に、各国が自主的にその制度を維持・改善することが期待されていました。具体的には、実質的支配者の特定や情報の登録が求められおり、その徹底度にはばらつきがありました。また、情報の更新やアクセスのスピードが十分でないケースが多く見られ、犯罪者が匿名性を利用して資産を隠すリスクが依然として改善されませんでした。
先に紹介した2024-2026年では、受益者所有権に関する透明性を強化するために、より厳格な新しい基準が導入されています。これにより、2022-2024年とは次のような違いが明確化されています。
登録の義務化と厳格化: 以前よりも強制力のある登録制度が導入され、すべての法人・信託が実質的支配者の情報を正確に登録し、定期的に更新することが義務付けられています。これにより、法人が虚偽の情報を提供することを防ぎ、正確な実質的支配者情報が提供されることが期待されています。
当局のアクセス権の強化: 新基準では、政府機関や金融機関が迅速に実質的支配者情報にアクセスできる体制が強化されます。これにより、資産の隠蔽やマネーロンダリングが発覚しやすくなり、捜査が円滑に進むように改善されることが期待されます。
国際協力の強化: 国をまたがる犯罪への対応を強化するため、情報の共有やアクセス体制の国際的な連携の拡充を求めています。これにより、犯罪者が異なる国の法人を利用して受益者を隠すことが難しくなります。
新優先事項は、新たに法的義務としての登録制度や迅速なアクセス体制が導入され、より国際的な結束を強く求めています。
まとめ
今回のブログでは、FATF新議長就任の声明から優先事項を紹介しました。これからの2年間は、FATFの第5次対日相互審査(2027年夏ころに始まり、18ヵ月の検査期間を経て、2029年2月の総会で議論される予定です。)の開始時期と重なり大変重要な期間になります。CDLでは、継続して新議長がどのようなリーダーシップを発揮していくのか注目していきます。
国の行動計画において2024年3月を期限とする「継続的顧客管理の完全実施」や「既存顧客の実質的支配者情報の確認」への対応のため、「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」へのお問合せが増えています。
「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」は、国内最大級の企業情報データベースを基に、犯収法に沿ってオンラインで瞬時にUBO情報を提供するサービスです。DM調査で思うようにUBO情報が得られない、DM調査等のコストを削減したいなど、課題がありましたら、是非コンプライアンス・ステーションUBOの利用をご検討ください。
「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」については以下のリンクから詳しくご確認いただけます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000094258.html (2023年6月15日発表のプレスリリース)
なお、ご興味のあるお客様へ実際のデータを使った無償トライアルをご提供しています。
著者のご紹介
コンプライアンス・データラボ株式会社
代表取締役、CEO
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。
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