FATF

FATF新議長就任 ~声明から見る今後のマネロン対策


「CDLブログ」では、コンプライアンス・データラボ代表取締役の山崎博史を含む国内外のコンプライアンス専門家とブログ編集部が、お客様のコンプライアンス管理にまつわる国内外の最新情報や解説記事を執筆して毎週金曜日にお客様へお届けします。 

平素よりお世話になりありがとうございます。「CDLブログ第49号」をお届けします。 
今年で35周年を迎えたFATF(金融活動作業部会)。議長国交代に伴い新議長が就任し、今後2年間の優先事項が公表されました。その概要について紹介します。

 

 目次  

1.FATF新議長就任 

2.優先事項

 2-1.金融包摂(Financial Inclusion)の推進

 2-2.第5次相互審査の成功

 2-3.グローバル・ネットワークの結束強化 

 2-4.財産回復、実質的支配者、暗号資産に焦点を当てたFATF基準の効果的な実施の支援 

 2-5.テロ資金供与と拡散金融 

3.2022-2024優先事項との比較 

4.まとめ

 

 

 

 

1.FATF新議長就任 

 

2024年7月にFATFの議長国が、シンガポールからメキシコに代わりました。議長は、Elisa de Anda Madrazo氏が就任しています。任期は2年です。議長就任にあたり、この2年間での優先事項が公表されましたので、その内容を見ていきます。 

PRIORITIES FOR THE FINANCIAL ACTION TASK FORCE UNDER THE MEXICAN PRESIDENCY OBJECTIVES FOR 2024-2026 
https://www.fatf-gafi.org/content/dam/fatf-gafi/FATF/Mexico-Presidency-Priorities.pdf.coredownload.inline.pdf 

 

 

2.優先事項 

2-1.金融包摂(Financial Inclusion)の推進 

金融包摂とは、世界銀行では、以下のように説明しています。 
「金融包摂とは、個人や企業が、取引、支払い、貯蓄、信用、保険など、ニーズに合った有用で手頃な金融商品やサービスを、責任ある持続可能な方法で利用できるようにすることである。」 

出典:Worldbank Group Financial Inclusion overview 
https://www.worldbank.org/en/topic/financialinclusion/overview 

また、「貧困、難民などに関わらず、すべての人が経済活動に必要な金融サービスを利用できるようにする取り組み」との説明もあります。 

 どうしても金融犯罪対策を進めていくと、リスクのある相手に対して、金融サービスの提供を制限しなくてはならない場面が出てきますが、FATFでは、金融犯罪対策と金融包摂は両立するとしています。金融サービスを制限することは、正当に資金を必要としている人に資金が渡らないだけでなく、現金での取引や闇金融の利用などが広がり、マネーローンダリングやテロ資金供与のリスクを高めることが懸念されます。メキシコの新議長は、「AML/CFTに対するリスクベース・アプローチを強化し、金融包摂を推進する」ことを目指すとしています。 

 

 

2-2.第5次相互審査の成功

新議長の下、7か国で新たなラウンドの相互審査(第5次)が採択される予定です。その中で優先事項は、「より焦点を絞ったリスクベースで、タイムリーに相互審査を実施し、各国がそのプロセスを理解し、準備できるようにすること」とされています。第5次相互審査は、さらに有効性を重視するため、評価手法、手順、優先順位付けの基準などが改訂されています。新議長は、この新しい基準での審査の質、一貫性を確保するため、FATFやグローバルネットワークに必要なトレーニングを推進していくとのことです。 

 

 

2-3.グローバル・ネットワークの結束強化 

新議長は、「FATFとFATF型地域体(FSRB: FATF-Style Regional Bodies)間の協力と協調を維持・強化し、相互審査の新しいラウンドに移行する際の結束力を強化することを目指す。」と発言しています。金融犯罪は、規制や管理が緩いところを狙って行われます。グローバル全体で対策を強化しないと、金融犯罪対策の実効性が向上しません。新議長は、FSRBメンバーに、基準設定やリスク類型化の作業へオブザーバーとして参加してもらうなど、FATFの重要プロジェクトや作業部会へ関与してもらい、FATF基準の遵守を広げていきたい考えを示しています。 

 

 

2-4.財産回復、実質的支配者、暗号資産に焦点を当てたFATF基準の効果的な実施の支援 

新議長は、財産回復、実質的支配者、暗号資産に関して、以下のようにコメントしています。 

「財産回復、実質的支配者、および暗号資産に関するFATF基準は本質的な重要性を有しており、それらの相互関係は、犯罪が報われないことを確実にするための重要な基盤を形成している。」 

日本においても、財産回復、実質的支配者、暗号資産においては、2024年~26年の行動計画に組み込まれており、FATFの方針と符合します。以下に、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」の一部を抜粋します。 

 

マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度] 
-財産回復 
IO.8 犯罪収益の没収
3)財産回復に係る勧告4及び38の改訂対応 
  • 財産回復に係る勧告4及び勧告38の改訂並びにそれを受けたメソドロジーの改訂を踏まえ、政府内で諸外国の制度調査等を行うとともに、国内における対応を協議のうえ、必要に応じ措置を講じる
-実質的支配者 
IO.5 法人等の悪用防止 
(1)法人の実質的支配者情報に関する制度の改善と実効性向上 
  • 法人の実質的支配者情報に関する制度整備に向けた検討を推進しながら、株式会社が自らの実質的支配者情報を特定するため、株主である他の株式会社の実質的支配者リストを活用する方策を検討し、所要の措置を講じる。併せて、株式会社をはじめとする法人が自身の実質的支配者情報を把握することの重要性を周知する

  •  実質的支配者リスト制度の実効性を高めるため、引き続きその積極的な活用を政府として推進するとともに、金融機関等による直接の確認等の検討を含む制度の利便性向上や商業登記制度との連携による実質的支配者リスト制度の活用場面の確保にも取り組み、所要の措置を講じる。 
(2) 法人の実質的支配者情報への当局によるアクセス強化 
  • 特定事業者が保持する実質的支配者情報を十分、正確、最新な状態に保つための措置を行うとともに、当局による当該情報への効率的なアクセスを確保する仕組みを検討し、導入する。
  • 公証人が定款認証を通じて保有する実質的支配者情報への当局による照会についての対応を一層迅速化する。 
-暗号資産 
IO.3 マネロン・テロ資金供与対策に係る金融機関・暗号資産交換業者(VASPs)の監督・予防措置 
(2)監督当局による金融機関等に対するリスクベースアプローチに基づく検査監督の実践等 
  • マネロン・テロ資金供与対策に関するノウハウの共有や共同研修の実施などの監督当局間連携の取組を推進するとともに、リスクベースアプローチに基づくメリハリのある検査監督の取組を実践する。ブロックチェーンや暗号資産等を活用した技術による新たな金融商品・サービスを提供する金融機関等において、必要なリスク低減措置等が実施されるよう取り組む。また、金融機関等の取組を改善させるため、効果的かつ抑止力のある措置を実施する。
出典:マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度) 
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20240417.html 

 

「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」の「IO.5法人等の悪用防止」に関しては、私の過去のブログもご参照ください。 

政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(1) 
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20240531 

 

政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(2) 
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20240621 

 

政府「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について(3) 
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20240726 

 

 

2-5.テロ資金供与と拡散金融 

5つ目の優先事項は、「テロ資金供与と拡散金融」が挙げられています。ロシア-ウクライナや中東情勢の悪化などに伴い、テロ資金供与、拡散金融対策の重要性はますます高まっています。新議長は、「テロ資金供与と拡散金融の防止と対策は、FATFの責務の重要な部分である。テロ資金供与リスクに関する理解を深め、アップデートするための作業を支援し、相互審査および関連するフォローアップ・プロセスにおいて、テロ資金供与対策の実施が適切に評価されるようにする。」としています。 

日本においても、行動計画にて「遅滞なき資産凍結等の実施強化のため、迅速な制裁対象者情報の通知やベストプラクティスの共有など、関係省庁及び特定事業者との連携の枠組みを強化する。」としています。日々国際情勢が変化する中、リスク関連情報が共有されることになりますが、その情報を受けて、特定事業者は適切な対応が取れるように準備していかなくてはなりません。 

 

 

3.2022-2024優先事項との比較 

 

ここでシンガポール議長国の下の2022年から2024年の優先事項を振り返ります。 

2022-2024年の優先事項 
  • 資産回収の強化:犯罪収益の追跡と回収の向上 
  • サイバー犯罪関連の不正資金対策:オンライン詐欺やフィッシング活動に対する対策 
  • グローバルなAML(アンチマネーロンダリング)措置の効果向上:AML対策の強化 
  • FATFスタイル地域機関(FSRBs)とのパートナーシップ強化:地域機関との協力強化 

2022-2024年のFATFの優先事項では、受益者所有権(法人や信託の実質的支配者)の透明性を向上させるための基礎的な制度が整備されました。主に既存の基準を基に、各国が自主的にその制度を維持・改善することが期待されていました。具体的には、実質的支配者の特定や情報の登録が求められおり、その徹底度にはばらつきがありました。また、情報の更新やアクセスのスピードが十分でないケースが多く見られ、犯罪者が匿名性を利用して資産を隠すリスクが依然として改善されませんでした。 

先に紹介した2024-2026年では、受益者所有権に関する透明性を強化するために、より厳格な新しい基準が導入されています。これにより、2022-2024年とは次のような違いが明確化されています。  

登録の義務化と厳格化: 以前よりも強制力のある登録制度が導入され、すべての法人・信託が実質的支配者の情報を正確に登録し、定期的に更新することが義務付けられています。これにより、法人が虚偽の情報を提供することを防ぎ、正確な実質的支配者情報が提供されることが期待されています。 
当局のアクセス権の強化: 新基準では、政府機関や金融機関が迅速に実質的支配者情報にアクセスできる体制が強化されます。これにより、資産の隠蔽やマネーロンダリングが発覚しやすくなり、捜査が円滑に進むように改善されることが期待されます。 
国際協力の強化: 国をまたがる犯罪への対応を強化するため、情報の共有やアクセス体制の国際的な連携の拡充を求めています。これにより、犯罪者が異なる国の法人を利用して受益者を隠すことが難しくなります。 
 
新優先事項は、新たに法的義務としての登録制度や迅速なアクセス体制が導入され、より国際的な結束を強く求めています。 
 

 

 

まとめ 

今回のブログでは、FATF新議長就任の声明から優先事項を紹介しました。これからの2年間は、FATFの第5次対日相互審査(2027年夏ころに始まり、18ヵ月の検査期間を経て、2029年2月の総会で議論される予定です。)の開始時期と重なり大変重要な期間になります。CDLでは、継続して新議長がどのようなリーダーシップを発揮していくのか注目していきます。 

  

◆「コンプライアンス・ステーション UBO(実質的支配者)」              無償トライアルのお知らせ  

国の行動計画において2024年3月を期限とする「継続的顧客管理の完全実施」や「既存顧客の実質的支配者情報の確認」への対応のため、「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」へのお問合せが増えています。  

「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」は、国内最大級の企業情報データベースを基に、犯収法に沿ってオンラインで瞬時にUBO情報を提供するサービスです。DM調査で思うようにUBO情報が得られない、DM調査等のコストを削減したいなど、課題がありましたら、是非コンプライアンス・ステーションUBOの利用をご検討ください。  

「コンプライアンス・ステーションUBO(実質的支配者)」については以下のリンクから詳しくご確認いただけます。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000094258.html               2023年6月15日発表のプレスリリース)

なお、ご興味のあるお客様へ実際のデータを使った無償トライアルをご提供しています。 
ご希望のお客様はお気軽に下記リンクより、お問い合わせ、お申し込みください。 

 
資料請求

無償トライアル申込 

 
著者のご紹介     

   コンプライアンスデータラボの社長である山崎博史 

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

 富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)

 

Copyright Compliance Data Lab, Ltd. All rights reserved.        
掲載内容の無断転載を禁じます。 

Similar posts

ブログ購読申込

コンプライアンス・データラボ代表取締役の山崎博史を含む国内外のコンプライアンス専門家やデータマネジメントのスペシャリストが、お客様のコンプライアンス管理にまつわる国内外の最新情報やトレンド、重要な問題を解説します。当ブログを通じて最新のベストプラクティスやガイドラインの情報も提供します。
 
ブログの購読をご希望の方は下記のリンクより、フォームに必要事項を入力してご登録ください。
配信は毎週金曜日を予定しています。購読料は無料です。