リスクベース・アプローチ

「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の内容について(1)」


 「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の内容について(1)」

 
 
前号では、5月19日にマネロン・テロ資金供与・拡散金融政策会議で決定した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」の中から、日本のリスクと国際情勢について取り上げました。今号では、「取り組むべき4つの柱」と「具体的な対策」について、内容を見ていきます。 
 
5月19日にマネロン・テロ資金供与・拡散金融政策会議で決定した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」が発表されました。今号と次号の2回にわたり、その内容を見ていきます。 
 
マネロン・テロ資金供与・拡散金融政策会議とは 
マネロン・テロ資金供与・拡散金融政策会議は、2021年8月末に公表されたFATF第4次対日審査報告書の内容を受けて、政府一体となってマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に取り組むために設置されました。マネロン等の対策については、縦割り行政の問題が指摘されておりましたが、関係行政機関の緊密な連携を確保するために政策会議が設置されています。以下が、構成員です。幅広く関連する省庁から幹部が出されていることが分かります。この政策会議で決定されたことは、各省庁で推進されていくことと思われます。 
 
CDLニュースレター第7号_図1
図1:マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議の構成員 
 
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針 
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議は、過去に3回(2021年8月、2022年1月、5月)開催され、基本方針を策定しました。基本方針は以下の5つの項目でまとめられています。 
1.マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の意義 
2.本文書策定の経緯・目的 
3.我が国を取り巻くリスク 
4.取り組むべき4つの柱 
5.具体的な対策 

 
この中から、金融機関、DNFBPs*1にとってポイントと思われる内容をピックアップしてご紹介します。 
*1 DNFBPs (Designated NonFinancial Businesses and Professions指定非金融業者・職業専専門家)は、カジノ、不動産業者、貴金属商、宝石商、弁護士、公証人その他の独立法律専門家及び会計士などの業種 
 
我が国を取り巻くリスク 
我が国を取り巻くリスクとして、以下が挙げられています。次号でご紹介しますが、今後リスクベース・アプローチが今まで以上に強化される方向です。政府が分析したリスクを理解することは、リスクベースの対応を取っていく中で重要になってきます。  
 
CDLニュースレター第7号_図2
 図2:我が国におけるリスク 
※「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の概要」より抜粋 
 
顧客属性では、反社、国際テロリスト、外国PEPsが高リスクとされています。こちらは、自社では情報収集や更新が難しい部分であるため、商用データベースの活用が効率的です。また、高リスクの取引形態で挙げられている「外国との取引」に関連して、「非居住者」も高リスクとされています。 
 
さらに、「実質的支配者が不透明な法人等」も高リスクとして挙げられていることは、注目しなければなりません。CDD*2を通じて法人顧客の実質的支配者の確認を行っていく中、自社調査や外部データにおいて実質的支配者の特定が困難である場合は、高リスクとして対応が必要になるかもしれません。 
 
*2 CDD(Customer Due Diligence 顧客管理)は、リスク低減措置の中核的な項目であり、特に個々の顧客に着目し、自らが特定・評価したリスクを前提として、個々の顧客の情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れ 
 
また、具体的に、リスクのある商品・サービスが挙げられています。こちらは、概ねFATF第4次対日審査報告書で最重要(Most significant)もしくは重要(Significant)とされた業種と一致しています。政府の行動計画で、「リスクベースでの検査監督を強化する」と明記されていますので、ここで挙げられた商品・サービスを取り扱う企業は、当局から厳しい目で見られることを想定した対応が必要になるかもしれません。 
 
国際情勢 
国際情勢の分析では、イスラム国(ISIL)、アルカーイダなどの国際テロ組織の活動や、北朝鮮による弾道ミサイル発射、サーバー攻撃、ロシアのウクライナ侵攻などが挙げられ、テロ資金供与、大量破壊兵器の開発、保有、輸出等に対する資金供与(以下「拡散金融」)、経済制裁の必要性が記載されています。また、FATFで取り上げられている課題として、新たな技術(暗号資産、ステーブルコイン)、法人等を悪用したマネロン等が挙げられています。 
 
さらに、FATFでも最近レポートを出され注目している環境犯罪について、個別で挙げられていることは注目すべきところかと思います。あまり知られていないのですが、環境犯罪は、薬物、偽造品、人身売買に次ぐ第4の国際犯罪となっています。年間5~7%の成長率で、推定規模は年間2兆円を超えるとの報告もあります。 
 
現在はあまり厳しく規制されていないため、国内の店頭でよく見られるエキゾチックアニマル(海外から輸入され、飼育されている犬や猫以外の動物)なども、違法取引によるものが含まれているかもしれません。この辺りは、複雑なサプライチェーンにより日本に入ってきている可能性があり、検知が難しい部分となります。今後、環境犯罪に関する規制動向には注意が必要と思われます。 
 
CDLニュースレター第7号_図3
図3:国際情勢をめぐるリスク、国際的な課題 
※「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の概要」より抜粋 
 
今号では、政策会議による「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」の中で、日本のリスクと国際情勢について取り上げました。
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

Copyright Compliance Data Lab, Ltd. All rights reserved.  
掲載内容の無断転載を禁じます。

 

 

Similar posts

ブログ購読申込

コンプライアンス・データラボ代表取締役の山崎博史を含む国内外のコンプライアンス専門家やデータマネジメントのスペシャリストが、お客様のコンプライアンス管理にまつわる国内外の最新情報やトレンド、重要な問題を解説します。当ブログを通じて最新のベストプラクティスやガイドラインの情報も提供します。
 
ブログの購読をご希望の方は下記のリンクより、フォームに必要事項を入力してご登録ください。
配信は毎週金曜日を予定しています。購読料は無料です。