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「環境犯罪について - FATFレポート『Money Laundering fromEnvironmental Crime』の解説」


 「環境犯罪について - FATFレポート『Money Laundering fromEnvironmental Crime』の解説」  

 
 前号、前々号では、5月19日にマネロン・テロ資金供与・拡散金融政策会議で決定した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」についてご紹介しました。今号、次号では、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」の中でも挙げられていた環境犯罪について、昨年公表されたFATFレポート「Money Laundering fromEnvironmental Crime」の内容を見ていきます。 
 
前号、前々号(第7, 8号)のバックナンバーはこちらからご覧いただけます。 
第7号「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の内容について(1)」 
 
第8号「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針の内容について(2)」 
 
FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」は、以下の5つのチャプターで構成されています。 
チャプター1:イントロダクション 
チャプター2:環境犯罪による資金の流れの概要 
チャプター3:環境犯罪によるマネーロンダリングの事例分析 
チャプター4:環境犯罪によるマネーロンダリングの撲滅のための課題と好例 
チャプター5:結論と優先順位の高い対応 

 
今号では、チャプター1と2から、いくつかポイントを挙げ、内容を要約し紹介します。 
 
チャプター1:イントロダクション 
環境犯罪は、世界で最も収益性の高い犯罪のひとつと推定され、毎年約1100億~2810億米ドルの犯罪収益を生んでいます。このレポートで取り上げている3つの重点分野は、森林犯罪、違法採掘、廃棄物違法取引で、全体の66%を占めます。環境犯罪は、金銭的コストだけでなく、地球、公衆衛生と安全、人間の安全保障、社会・経済発展など、広範囲にわたって影響を及ぼします。また、環境犯罪は汚職を助長し、麻薬取引や強制労働など他の深刻な犯罪と融合しています。このように多額な犯罪収益が生み出されているにもかかわらず、ほとんどの国で、環境犯罪の法整備が十分にされていません。 
 
FATFでは、国と民間部門に対し環境犯罪によるマネーロンダリング等に対して有用なフレームワークを提供しています。以下は、FATF要求事項と勧告との関係です。 
 
CDLニュースレター第9号_図1_環境犯罪
 
図1:環境犯罪に関するFATF要求事項と関連勧告 
 
これらは、FATFグローバルネットワークのすべての国が実施を約束している事項です。 
 
チャプター2:環境犯罪による資金の流れの概要 
環境犯罪による資金の規模に関する推定は様々ですが、その収益が年間数千億ドルに上り、すべての地域に影響を及ぼしていることを示すエビデンスがあります。 
 
環境犯罪は一般的に資源が豊富な途上国や中所得国で発生し、収益は経済規模の大きな先進国でもたらされます。 
 
犯罪グループは、人身売買、麻薬取引、汚職、脱税などの犯罪と並行して、環境犯罪に関与している可能性があり、その場合、環境犯罪が生み出す資金の流れは、より大きな犯罪ネットワークの中で統合されることになります。 
 
犯罪ネットワークは汚職によって成り立っていることが多く、環境資源チェーンにおける規制監督の弱さを利用して犯罪を行っています。環境犯罪に共通する重要なテーマの一つは、犯罪者がサプライチェーンの早い段階で「カミングリング(Comingling)」(違法な木材、貴金属や宝石、廃棄物などを合法なものと混ぜること)を実施していることです。このような行為は、合法的な資金の流れと違法な資金の流れを区別することを困難にするため、国内だけでなく国境を越えてAML当局と特別な訓練を受けた環境調査官の間で綿密な連携が必要になります。このような犯罪では、公的要人(PEPs)(しばしば賄賂や汚職に関連する)、複雑な企業構造の使用、仲介者(例:会計士、弁護士など)が重要な役割を担っています。 

 
CDLニュースレター第9号_図2_環境犯罪
図2:違法採掘のための犯罪サプライチェーンの例 
※FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」から抜粋 
 
地域の傾向 - 南米における環境犯罪 
地域の傾向の例として、南米において、環境犯罪に関与する犯罪者は、他の犯罪に用いられる既存の密輸・マネーロンダリング等のネットワークから、多数の経由国、大量の現金輸送、汚職、貿易詐欺、複雑な企業構造を利用しています。調査の結果、南米地域の犯罪者はしばしばカリブ海の島々に法人を設立し、製品の製造に関わる買い手と直接やり取りをしていることが明らかになりました。その後、すべての資金はこれらの複雑な企業構造を通過することになります。これらの資金は、経由地の管轄区域に残されたままとなるか、または供給国へ戻っていきます。 
 
しかし、以下の図のように、南米のある地域では、製品および資金の流れがオフショアの企業構造を介さないで動いていることが確認されました。この地域では、製品および資金が供給国(下記B国)から供給先(A国)へ直接移動し、その後供給国へ戻ることが確認されました。オフショア的な要素はないものの、特定非金融業および専門職(DNFBP)(主に会計士)が真の受益者を特定せずに設立した国内のペーパーカンパニーのネットワークを通じて資金が隠蔽されていたため、複雑さに変わりはありませんでした。
 
CDLニュースレター第9号_図3_環境犯罪
図3:違法採掘・森林伐採のための犯罪サプライチェーンの例 
※FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」から抜粋 
 
環境犯罪は単独で行われるものではなく、それが生み出す資金の流れは他の犯罪行為と関連していることが多いです。以下の図は、環境犯罪と強制労働を目的とした人身売買との関係や武力紛争への支援など、関連している犯罪のいくつかを表しています。 
 
CDLニュースレター第9号_図4_環境犯罪
図4:犯罪エリアの関連性 
※FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」に基づき筆者が編集
 
 
今号では、昨年公表されたFATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」の中から、「チャプター1:イントロダクション」と「チャプター2:環境犯罪による資金の流れの概要」の内容をご紹介しました。
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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