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日本経済新聞のFATF対日審査結果、金融庁・日銀による地銀一斉調査の記事を受けて


新型コロナウィルスの流行のため、2019年秋に実施されたFATF対日相互審査の結果報告書を討議、採択する全体会合が延期されていましたが、ようやく今年6月に開催され、その内容が8月に公表されることが決まりました。

 

先行して、日本経済新聞では、審査の結果により日本は「重点フォローアップ国」(不合格)となったと報道されました。多くの金融機関の関係者にとって、この「重点フォローアップ国」となったこと自体は、想定内だったかと思います。しかしながら、その指摘内容、そしてその指摘を受けて、法改正を含め当局がどのような対応を取るかは、非常に気になるところです。

 

ここでは、最近の新聞記事や、過去の当局のセミナー講演内容から、今後の当局の動きを推測し、審査結果公表前に対応できることを考えてみたいと思います。

 

FATF対日審査における指摘事項

2021年7月3日、日本経済新聞にて「縦割り行政の限界露呈 資金洗浄の国際審査「不合格」」との記事がリリースされました。その中で、日本が「重点フォローアップ国」となったことに加え、政府の対応、および金融機関の対応についての課題が以下のように挙げられていました。

 

政府の対応における課題:

・金融機関のマネロン対策を調べる検査や行政処分といった対応に課題

・マネロン関連の違法行為に対する罰則の厳格化

 

海外では、マネロンに関する規制違反に対して巨額な罰金が科せられています。

主な罰金事例:

・2020年 コメルツバンク(約50億円)-英国FCA

・2020/2019年 ウェストパック銀行(約1,000億円)-豪州AUSTRAC

・2018年 ING(約1,000億円) -オランダ検察

・2014年 BNPパリバ(約9,000億円) -米国司法省

・2012年 HSBC(約2,000億円) -米国当局

日本の罰則強化の必要性は、以前より指摘されていましたが、今後、日本も欧米並みの罰則規定ができるのでしょうか。8月に公表されるFATFの指摘内容や、今後の政府の対応が気になるところです。

 

金融機関の対応における課題:

・顧客情報や取引内容の把握といった継続的な顧客管理

 

顧客管理は、マネロン対策の中核となる部分であり、前回の第3次対日相互審査でも、指摘を受け犯収法の改正に至った経緯があるため、具体的にどのような指摘が入ったのか注目していきたいです。

 

金融庁セミナー講演内容

継続的な顧客管理については、過去の金融庁の講演で、以下が課題として挙げられていました。

・速やかな全顧客情報の更新及び更新した最新の情報に基づく顧客リスク評価の実施

・顧客リスク評価に基づく継続的な顧客管理措置の実施

・実質的支配者の確認(顧客申告に依存しない)

 

金融機関にとって、過去に開設した口座情報の更新は大きな課題となっています。大手金融機関では、顧客にDMを送ったりWebで入力を求めたりしているようですが、コストがかかる割に回収率が悪く、費用対効果を出せていないという話をよく聞きます。しかしながら、金融庁は、この情報更新は最初の一歩にすぎず、「更新した情報に基づき顧客リスク評価を実施すること」が目的と強調しており、要求のハードルは高いです。

 

また、2つ目の「顧客リスク評価に基づく継続的な顧客管理の実施」では、リスクが高い顧客と低い顧客でモニタリングの頻度を変えたり、収集する情報を変えたりして、継続的に顧客管理をしていくことが求められています。

 

そして最後の「実質的支配者の確認(顧客申告に依存しない)」は金融機関にとって最も難しい部分ではないでしょうか。日本では上場企業を除き法人の株主情報は、基本公開されていません。ただ、FATF勧告では、実質的支配者を含む顧客の情報は、(顧客からの情報を)確認するだけでなく、合理的な措置をもって照合しなければならない、とされています。金融庁は、FATFの勧告を意識して、「顧客申告に依存しない」と言及していると思われますが、現在の日本の限られた公的情報の中でどのように対応していけばよいか、多くの金融機関が頭を悩ませているのではないでしょうか。

 

金融庁・日銀による地銀マネロン対策一斉調査

日本経済新聞の別の記事で「地銀のマネロン対策、一斉調査 金融庁・日銀」(7月14日)が取り上げられました。金融庁と日銀が連携して、今夏、地域金融機関のマネロン対応の状況を調査するとのことです。

 

金融庁の過去の講演内容を鑑みると、実質的支配者を含む顧客情報の確認、継続的顧客管理のところは、調査項目の1つとして挙げられるのではと推測しています。

 

では、どのように準備すれば良いのでしょうか?

まだ十分に対応が出来ていない金融機関は、これから調査までに継続的顧客管理の態勢を整えるのは難しいかと思われます。しかしながら、「何も出来ていません」、「対応の目途もたっていません」となると当局の印象も良くないでしょう。まずは現状を把握し、課題を明確にし、解決に向けて取り得る手段を明確にするところまでは、準備しておきたいところです。

 

外部データの活用

実質的支配者に関する公的に使えるデータが限られている中、外部データの活用は非常に有効な手段の一つです。当社では、外部データを活用した、実質的支配者情報の更新及び顧客申告データの検証をサポートしています。

 

実質的支配者の確認および顧客申告に依存しない検証、またその取得した実質的支配者情報の更新について、課題をお持ちの方は、金融庁や日銀の調査前に、外部データの活用を検討することにより、課題解決の方向性だけでもつけておくと良いのではないでしょうか。

ご質問等は、気軽に以下のお問合せフォームよりご連絡ください。

 

以上

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