FATF「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」
前号では、2023年6月に公表されたFATF「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」について紹介しました。今号では5月31日公表されたカタールのFATF-MENAFATF相互審査報告書について紹介します。
※MENAFATFは、中東、北アフリカのFATF型地域体です。FATF勧告を基に相互審査を実施しています。
図1:FATF-MENAFATF Qatar Mutual Evaluation Report
カタールはマネー・ローンダリングとテロ資金供与に対応するためのシステムについて、実質的に改善し、FATFの要求事項に対する法令整備状況は非常に強固なものとなっている、と評価されています。しかし、テロ資金供与に対する刑事司法において、いくつかの大きな改善を行う必要がある、とも指摘されています。以下に、相互審査報告書から評価点と課題について挙げていきます。
カタールFATF-MENAFATF相互審査結果
法令整備状況は、非常に良い評価となっていますが、その有効性には課題がある面が見られます。
法令整備状況
有効性の評価
主な評価点と課題
- カタールが直面しているマネー・ローンダリングとテロ資金供与のリスクについて十分な理解を有しているが、より複雑な形態のマネー・ローンダリングとテロ資金供与については理解を深める必要がある。
- マネー・ローンダリングとテロ資金供与のリスク評価と金融セクターの監督にリスクベースのアプローチを導入している。非金融部門に対するリスクベースの監督は改善しつつあるが、初期段階にある。
- 統合された登録簿構築が完成間近であり、実質的支配者情報の収集において、前向きかつ持続的な進展を見せている。しかし、収集された情報が正確かつ最新のものであることを保証するための管理はまだ十分ではない。
- 資⾦情報機関 (FIU)は環境が整っており、幅広い情報にアクセスし分析できる状態になっている。しかし、その高度な分析能力は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を特定するために最大限に活用されていない。
- マネー・ローンダリングの捜査と訴追は依然として低水準にとどまっており、当局は、複雑なスキームや専門的なスキームに対する捜査を継続的に改善すべきである。
- 少数のテロ資金供与の有罪判決や起訴を行っているが、カタールのリスクプロファイルと、起訴や有罪判決を受けたテロ資金供与活動の種類と範囲の間には大きな矛盾がある。
- 犯罪収益や資産を含む多額の資金を効果的に没収している。
- カタールは国際協力を優先しているが、相互法的支援と犯罪人引渡しのためのカタールの制度全体を改善するためにはさらなる進展が必要である。
- テロ資金供与に関連する標的型金融制裁を実施するための強固な枠組みを有しており、これを利用して多額の資産を押収したが、拡散金融制裁の実施にさらに注力する必要がある。
今号では、5月31日に公表されたカタールのFATF相互審査報告書について紹介しました。次号は、6月に公表されたMAS(Monetary Authority of Singapore)の「法人悪用によるMF/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用 (Effective Use of Data Analytics to Detect and Mitigate ML/TF Risks from the Misuse of Legal Persons)」に関するレポートの内容を紹介します。
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