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中国「第3回重点フォローアップレポート」の内容について


 中国「第3回重点フォローアップレポート」の内容について 

2022年11月29日に中国のFATF第3回重点フォローアップレポート(FUR)が公表されました。中国は、2019年に第4次相互審査の結果が公表され、第1回、2回のFURがそれぞれ2020年と2021年に公表されました。今回のFURでは、勧告6(テロリストの資産凍結)、7(大量破壊兵器の拡散に関与するものへの金融制裁)、24(法人の実質的支配者)の進捗状況について評価がされたので、その内容をみていきます。

 

CDLニュースレター第20号_図1

 
勧告6(テロリストの資産凍結) 

第4次相互審査において、中国は、以下のようないくつかの不備により、勧告6でPC(Partially Compliant:一部履行)と評価されました。
 
・法人や団体が指定団体に資金を提供することを禁止する法規制がない。
 
・テロ対策法や通達の凍結要件は範囲が完全ではなく、金融機関やDNFBP(指定非金融業者・職業専門家)にのみ適用されている。
 
・法規制は遅延のない、事前通知なしの凍結を認めていない。
 
・全体的な制度において、国連安保理の定める制裁指定基準など、勧告6が求める対応に欠如がある。 
 
第4次相互審査以降、中国では以下のような対応を取りました。 

・国連安全保障理事会決議(UNSCRs)で定められた指定基準に基づいて、対象を特定するメカニズムの導入 

・個人・団体の資金やその他の資産のリスト解除・凍結解除の手続きに関して、2022年4月にワーキンググループ規則と手続き(WGRP)を発行
 
・外務省は2022年3月、国連安保理制裁委員会に指定案を提出するために詳細を規定した「国連安保理標的金融制裁実施手順(MFA手順)」を発行 
 
上記の対応は評価された一方で、TFS(特定対象金融制裁)を遅滞なく実施するための法的根拠はまだなく、法人や団体が指定された団体に資金を提供することを禁止する法規制もないと指摘されています。そのため、勧告6については、第4次相互審査の評価から変更なく、PCのままとなりました。 
 
勧告7(大量破壊兵器の拡散に関与するものへの金融制裁) 

第4次相互審査において、中国は勧告7 で NC(Non-Compliant:不履行)と評価されました。以下がその主な理由です。 

・法人や団体が指定された団体に資金を提供することを禁止する法規制がない。 

・通達(Notice)187/2017 における凍結要件は範囲が不完全で、金融機関やDNFBP(指定非金融業者・職業専門家)にのみ適用されている。
 
・法規制は遅延のない、事前通知なしの凍結を認めていない。 

・枠組みは概して勧告7が求める詳細がいくつか欠如している。 
 
今回のFURでは、第4次相互審査以降、以下のように改善が見られるがまだ欠陥は残っていると評価しています。 

・新WGRPにおいて、すべてのAMLJMC(AML閣僚級合同会議: AML Joint Ministerial Conference)メンバーは、拡散金融(PF)を含むUNSCRのTFSを実施することが求められると規定された。 

・第4次相互審査の時点では、MFAは中国人民銀行(PBC)が発行した通達187/2017に基づき、義務づけられた事業者に対策を求める制裁通達を発行している。これらの通達は積極的に施行されているが、全てのセクターをカバーしているわけではなく、関連する制裁措置の網羅性には依然としてギャップがある。 

・指定された人物や団体が指定の基準を満たさない、もしくは、満たさなくなった場合に、安全保障理事会にリスト解除要求を提出する手続きを公にしている。 

・2022年4月にWGRPを発行することにより,個人及び団体の資金又はその他の資産の凍結を解除する手続を整備してきた。 

・口座がTFSの対象となる前に発生した契約、協定、義務に関する手続を導入していた。 

・中国銀行とその支店は、AML/CFT監督当局としての法的権限に基づき、PF関連のTFS遵守について義務付けられた企業を監督しているが、FATFの基準の範囲内のすべてのセクターをカバーしておらず、制裁の網羅性にもギャップが残っている。 

・MFA通達やWGPRの要件は別として、TFSを遅滞なく実施する一般的な法的要件や、法人・団体が指定団体に資金を提供することを禁止する法的規定(禁止事項)はまだ存在しない。 
 
改善は見られるものの残された欠陥は中程度とみなされ、勧告7については、PCと再評価されました。 
 
勧告24(法人の実質的支配者) 

中国は、第4次相互審査において、CDDの一部として収集する場合を除き(ただしCDD要件は完全に遵守されていない)以下のような欠陥が見られるため、勧告24はNC(Non-Compliant:不履行)と評価されました。 

・実質的支配者情報を収集、維持、利用可能にする要件がない。
 
・無記名株式、ノミニー、取締役に対する措置も不足している。
 
・実質的支配者情報が利用できない/入手困難/共有困難で国際協力が限られている。 

中国は第4次相互審査以降、以下の対応をとりました。 

・様々な種類の法人を特定し、その登録・創設プロセスを記載した法令を制定している(憲法(2018年改正)、民法(以下、CC)(2020年改正)、会社法(2018年)、外国投資法(FIL)(2019年)、市場法人登録規則実施要件(以下、IRRM)(2022年))。
 
・マーケットエンティティか非マーケットエンティティを扱うかどうかで、プロセスは異なる。マーケットエンティティのみが実質的支配者情報を報告しなければならない。実質的支配者情報の収集、維持、または利用可能な状態にすることが要求されており、マーケットエンティティが実質的支配者情報の報告を怠った場合には制裁が課される。 

・無記名株、ノミニー、取締役に対する措置はまだなく、リスク評価もない。 
 
上記の対応は、中程度の欠陥として、勧告24については、PCと再評価されました。 
 
今号では、中国のFATF第3回重点フォローアップレポート(FUR)の内容を取り上げました。次号では、FATFが公開した「実質的支配者に関するガイドライン」のドラフトの内容についてご紹介します。 
 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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