FATFレポート

第3回 FATF第4次対日審査フォローアップレポート解説


今号では、2024年10月10日に公表された、第3回FATF第4次対日審査フォローアップレポートの内容について紹介します。 

 FATF第4次対日審査フォローアップレポート

 

 

 

 

図1: FATF 3rd Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより引用 

https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Mutualevaluations/japan-fur-2024.html 

 

今回公表されたレポートは、2021年6月のFATF全体会合で採択され、同年8月に公表された第4次対日相互審査レポートでの法令整備状況(Technical Compliance)に関する指摘事項の対応状況に関する評価の第3弾です。本レポートでは、有効性評価(Effectiveness)に関する指摘事項への対応については対象とされていません。 

 

 

目次

 

 

 


法令整備状況に関する指摘事項 に関する評価とその内容

以下が今回の評価です。  

    法令整備状況に関する指摘事項 

フォローアップ前

→本フォローアップ 

勧告7(大量破壊兵器の拡散に関与するものへの金融制裁) 

PC→LC 

勧告8(非営利団体(NPO)悪用防止) 

PC→LC 

勧告12(PEP(重要な公的地位を有するもの)) 

PC→LC 

勧告22
(DNFBP(特定非金融業者及び職業専門家)における顧客管理)
 

PC→LC 

勧告23(DNFBPによる疑わしい取引の報告義務) 

PC→LC 

勧告25(法的取極めの実質的支配者) 

PC→LC 

PC (Partially Compliant:一部履行)→LC(Largely Compliant:概ね履行) 

 

 以下では、今回対象とされた勧告の評価内容を紹介します。 

 

勧告7 大量破壊兵器の拡散に関与するものへの金融制裁 

以下の点について、前向きな対策が取られていると評価されています。 

・遅滞なく資産凍結することを可能にする行政手続の改正 

・日本居住者間の国内取引(当事者の一方が指定されている場合)への資産凍結要件の適用 

FATFの定義に沿ったすべての「資金またはその他の資産」の凍結義務 

・指定された個人または団体、またはその指示を受けて行動する個人および団体の資金またはその他の資産への制裁適用可能性 

また、FATFが求める資産凍結の範囲において義務化できているか一部不透明である、との指摘がありましたが、日本において重大なリスクとなっている北朝鮮との取引について、積極的に追加的措置を行っていると評価され、LC(Largely Compliant:概ね履行)となっています。 

 

勧告8 非営利団体(NPO)悪用防止 

前回(2023年10月)のフォローアップレポートにおいては、NC(Non-compliant:不履行)からPC (Partially Compliant:一部履行)に再評価されていました。本レポートでは、FATFの定義に該当する可能性のある法人化されていないNPO(例えば、特定の自然災害に対応するための一時的な寄付集め)のリスクについて特定がされたことを評価しています。一方で、以下については、いまだ不十分との評価となっています。  

(a)特定されたリスクに対応するため、適切かつ効果的な措置を講じるための法規制の見直し 

(b)当局が使用するリスクマトリックスに不備があるため、リスクに基づくモニタリングができない 

(c)情報共有や、調査の過程で虐待が疑われる特定のNPOのTF(テロ資金供与)情報にアクセスするための非LEA(法執行機関)の権限に課題がある 

(FATF 3rd
Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより抜粋、翻訳) 


上記のような改善すべき点はあるものの、リスクが高い地域で活動する
NPOは相対的に少数で、そのNPOは重点的に監視されているとして、LCと評価されています。 

 

勧告12 PEP(重要な公的地位を有するもの) 

日本の国内PEPの扱いが議論になっていましたが、本レポートでは以下のように報告されています。 

 「金融庁の監督下にある金融機関は、国内のPEPs及び国際機関から重要な機能を委託されている者を特定のカテゴリーの顧客として認識し、よりリスクの高い関係においては、海外のPEPsと同じ措置を適用することが求められるようになった。」 

 また、生命保険金の受取人に関して、PEP要件に関する規定はないが、全体的なデューデリジェンスの強度を考えると軽微な不備とされています。上記を鑑みて、LCと評価されています。 

 

勧告22 DNFBP(特定非金融業者及び職業専門家)における顧客管理 

第4次対日審査報告書が公表されて以降、日本政府は行動計画でDNFBPにおける対策と監督の強化を掲げ対応を進めてきました。その点、本レポートでも以下のように評価されています。 

MER(相互審査報告書)以降、日本は、DNFBPに対するCDD(顧客管理)義務を拡大し、弁護士その他の専門家に対して勧告15に定める要件の遵守を義務付けるため、規則・規制に大幅な変更を加えた。加えて、DNFBPのための新たなガイドラインは、CDD要件の適用根拠を強化した。」 

(FATF 3rd Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより抜粋、翻訳) 


弁護士に対する要件や、勧告11, 12, 15に関しては、「不備が残るが軽微」として、全体的な評価は
LCとなっています。 

 

勧告23 DNFBPによる疑わしい取引の報告義務 

以下のように日本の取組みについて評価されています。 

MER以降、日本は、DNFBPがSTR(疑わしい取引)を報告することや、グループ全体の内部統制を適用することなどの新たな要件を含むDNFBPに関する対策に大きな改正を加えた。」 

(FATF 3rd
Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより抜粋、翻訳 )

不備に関しては、以下が挙げられています。 

  • 弁護士や司法書士が監督当局に報告したSTRが速やかにFIU(資金情報機関)に伝達されるかどうかが明確でない 
  • DNFBPにおけるFATFが特定した国以外の高リスク国に対する対策を適用するための一般的な要件がない 
  • 弁護士に対するティピングオフ(顧客への情報漏洩)要件や守秘義務要件がない
(FATF 3rd Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより抜粋、翻訳) 


しかしながら、これらの不備は軽微として、全体的な評価はLCとなっています。
 

 

勧告25 法的取極めの実質的支配者 

勧告25に関しては、前回フォローアップレポートおいて、PC→PCと評価据え置きとなっていました。今回は、以下のように改善点が評価さています。 

 FUR2(第2回フォローアップレポート)以降、日本は、特定されたギャップのいくつかを是正するための措置を講じた。2023年6月1日に発効した日本の枠組みの変更に基づき、受託者が取引関係を結ぶ際、または閾値を超える取引を行う際に、受託者の地位を金融機関に開示する明確な義務が設けられた。 

(FATF 3rd
Japan Follow-up Report & Technical Compliance Re-Ratingより抜粋、翻訳) 


一方で、DNFBPに対する義務にしては、不備があるとの指摘は残っています。しかしながら、日本における信託は非常に小規模な分野であることを考慮すると、残存している不備は軽微とのことで、全体的な評価はLCとなっています。
 

 

 

日本の法令整備状況 

結果、今回の日本の法令整備状況は、以下の通りです。 

 C(Compliant:履行):勧告 

LC:35勧告 

PC:0勧告 

NC(Non-compliant:不履行):0勧告 

NA(Not Applicable:適用外):1勧告  

 

PC、NCの勧告がなくなりました。 

次回の日本からの改善状況の報告は、第5次対日相互審査の時に行われます。 

以下は、今回のフォローアップ後の日本の法令整備状況の評価一覧です。 

  日本の法令整備状況

図2: Technical compliance ratings, October 2024 

https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Mutualevaluations/japan-fur-2024.html 

 

 

 まとめ

今回のフォローアップレポートにより、不合格水準と言われる、PCおよびNCの数が0となりました。しかしながら、第5次相互審査では、有効性評価に重点が置かれることや、改正された勧告1,4,15,24,25などへの対応を考えると、今後も対策を続けていかなくてはなりません。多くの金融機関では、ガイドラインの内容を規程に落とし込むところまでは、ほぼ完了しているかと思われますが、今後は有効性を高めることが求められます。DNFBPにとっては、第5次相互審査から金融機関と別々に評価されますので、より厳しい目が向けられます。まだ第5次対日審査までは、時間があるように見えますが、新たな運用を取り入れPDCAを回し有効性を高めることを考えると、あっという間に時間は過ぎてしまいます。今から計画的に第5次相互審査に耐えられるような態勢を整えていくことが肝要とみられます。 




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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000094258.html               2023年6月15日発表のプレスリリース)

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   コンプライアンスデータラボの社長である山崎博史 

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

 富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)

 

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