FATFレポート

「環境犯罪について - FATFレポート『Money Laundering from Environmental Crime』の解説(2)」


 「環境犯罪について - FATFレポート『Money Laundering from Environmental Crime』の解説(2)」 

 
 前号、今号では、政府の「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」の中でも挙げられていた環境犯罪について、昨年公表されたFATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」の内容を取り上げています。前号では、レポートの中の「チャプター1:イントロダクション」、「チャプター2:環境犯罪による資金の流れの概要」を見ていきました。 
 
前号(第9号)のバックナンバーはこちらからご覧いただけます。 
第9号「環境犯罪について - FATFレポート『Money Laundering from Environmental Crime』の解説(1)」 
 
今号では、本レポートのチャプター3以降から、いくつかポイントを挙げ、内容を要約し紹介します。 
前号の範囲: 
チャプター1:イントロダクション 
チャプター2:環境犯罪による資金の流れの概要 
 
今号の範囲: 
チャプター3:環境犯罪によるマネーロンダリングの事例分析 
チャプター4:環境犯罪によるマネーロンダリングの撲滅のための課題と良い事例 
チャプター5:結論と優先順位の高い対応 

 
チャプター3:環境犯罪によるマネーロンダリングの事例分析 
犯罪者は、環境犯罪からの収益を洗浄するために、主に現金で取引を行う業種(輸出に関連することが多い)を利用したり、貿易ベースの不正を数多く働いていることが分かりました。違法伐採と違法採掘の場合、各国はオフショアセンターにあるフロント企業、第三者取引、共謀した仲介者(弁護士、精錬業者)を利用し、支払いの隠蔽と利益の洗浄を行っていることが確認されています。 
 
犯罪者は、環境犯罪に関連した不自然な資金を洗浄したり、犯罪への利用を可能にしたりするため、世界のあらゆる地域にある金融センターを利用しています。また、地域金融センターは、特に鉱工業品について、貿易の仲介役としてカミングリング(違法な木材、貴金属や宝石、廃棄物などを合法なものと混ぜること)を促進することもあります。新しい技術(暗号資産やピアツーピア取引など)による金融捜査事例の報告は各国からありませんでしたが、新技術の使用に関する事例情報がないからといって、犯罪者がそのような技術を使用していないとは限りません。 
 
事例:廃棄物分野においてフロント企業を通じて活動する組織的犯罪ネットワーク 
この調査は、十分な組織構造や経済活動の情報がない、金属や廃棄物処理分野で事業を行う会社の資金の流れが記載された疑わしい取引報告書(STR)から始まりました。その他の疑わしい点は、以前の株主が2015年に検察官によって調査されていたこと、新しい株主が市場価値よりも著しく低い価格で会社を購入したこと、規制の厳しい業界で事業を行うための知識やスキルを十分に持っていなかったこと、などが挙げられます。 
 
調査の結果、過去に税犯罪、違法な金属廃棄物処理、マフィアの不正収益の洗浄などの疑いがあったイタリア企業による銀行送金が確認されました。これらの企業の中には、東アジア諸国との廃棄物の国際輸送を行う犯罪組織に関連した企業もありました。出荷書類は、貨物が廃棄物ではなく、商品と原材料で構成されているように改ざんされていました。 
 
イタリア連邦捜査局の分析によると、これらの企業の実質的所有者は、プリペイドカードでの資金のやり取りや、現金を引き出すための幅広い個人ネットワークを持っていることが判明しました。これは、報告された会社の口座明細の主な引き落としが、現金の引き出しと外国企業に関連する銀行振り込みであったため判明しました。関与した資金は、合計で約1420万米ドル(1200万ユーロ)にのぼりました。 
 CDLニュースレター第10号_図1_環境
図1:有害物質を含む電子機器等の不法投棄イメージ 
FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」より引用 
 
チャプター4:環境犯罪によるマネーロンダリングの撲滅のための課題と良い事例 
環境犯罪を特定し、阻止する上で、各国はさまざまな課題に直面しています。これには、環境犯罪に関連する資金の流れに対する効果的な理解と啓発のギャップ、当局内および当局間の連携のギャップ、資金の流れに関する国際協力の低さ、レッドフラッグ(高リスク判定基準)を策定するためのリスク指標の理解不足、予防措置を実施するための民間部門の能力不足が含まれます。 
 
これらの課題を克服するために、調査に参加した各国は多くの優れた対策を紹介しました。その中には次のようなものがありました。 
a. 環境とAMLを管轄する当局が連携してリスクアセスメントを実施 
b. 明確で一貫性のある法的枠組み(海外で発生した環境犯罪に対するマネーロンダリングの刑事罰化を含む)の整備 
c. 国内協力のためのガイド策定 
d. 海外で発生した環境犯罪の資金を追跡・回収するための合同タスクフォースと情報交換の実施 
e. 民間セクターとの協議によるレッドフラッグの策定 

 
事例:メディアモニタリングとニュース報道による発見 
いくつかの FIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)は、STRの大半は NPOの調査に関わるメディアの記事がきっかけであったとコメントしています。東南アジアのある主要なグローバル金融センターでは、環境犯罪に関連するSTRの大半(100 件未満)が、ニュース報道の結果であったとのことです。 
 
あるFIUは、違法な森林伐採に関連する 1 億 1,000 万ドル以上の案件を国の検察当局に送致したことを強調しました。このFIUは、オフショア金融センターにおけるプロのマネーロンダリングネットワークを調査するNGOがメディアに発表した情報により、この事件を発見しました。 
 
欧州のある国は、廃棄物管理に関する企業の所有権や活動の詳細を示すSTRを受け取っており、それはこれらの企業による違法行為の可能性に関するニュース記事によって発覚しました。 
 
事例:金融機関におけるリスク意識の強化 
アフリカに拠点を置くある金融機関は、環境犯罪、特に野生生物の違法取引と違法伐採による不正資金リスクに対応するため、内部統制とリスク意識の改善のための取組みを開始しました。これには、取引業務担当者のリスクに対する意識の改善や、カスタマーデューデリジェンス(顧客管理)による潜在的な問題の発見が含まれます。 
 
この金融機関は、重要な課題の1つは、合法的な取引と違法な取引を区別できるようにすることであり、それにはしばしば異なる情報源からの多様なデータを照合する必要があることが分かりました。これらの課題に対処するために、金融機関は、違法伐採/採掘製品の原産国と需要国の間で行われている原材料の取引に関与している顧客に注意を払い、原材料の取引に関するさらなる裏付け文書(ワシントン条約許可証、木材が合法的に伐採され取引されていることを確認する証明書など)を取得することを検討しています。 
 
CDLニュースレター第10号_図2_アマゾン
 
図2:アマゾンでの違法伐採の監視イメージ 
FATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」より引用 
 
チャプター5:結論と優先順位の高い対応 
ほとんどの国は、海外で発生したものも含め、環境犯罪がもたらすマネロンリスクを国のリスクアセスメントの中で考慮していません。しかし、貴金属、宝石、木材、廃棄物の違法取引は世界的な規模で行われています。 
 
優先順位としては、まず第一に、国内に天然資源産業を持たない国であっても、環境犯罪がもたらすマネロンリスクを考慮するようにすべきです。そのためには、環境犯罪・保護当局や林業・鉱業の許認可を管轄する当局など、従来のAML/CFT関係者以外からのインプットが必要かもしれません。 
 
第二に、各国は環境犯罪によるマネーロンダリングを阻止するための効果的な手段として、FATF基準の完全な実施を確実にすべきです。これには、AML/CFT当局が、環境犯罪からの資産を調査・追跡するための十分な権限と実行能力を持つようにすることが含まれます。理想的には、環境犯罪捜査官と連携し、関連する金融犯罪を検知・追求する能力を向上させることが必要です。 
 
第三に、各国はリスク情報を共有するための官民対話や、サプライチェーンとその資金の流れに関するチェックを強化するための組織または業界主導の取組みを確立・強化することを検討すべきです。これらの取組みは、疑わしい金融取引に対する認識を高め、商品の正当性を証明する手段を見つけることによって、カミングリング(違法な木材、貴金属や宝石、廃棄物などを合法なものと混ぜること)に対処するための重要な役割となります。 
 
今号では、昨年公表されたFATFレポート「Money Laundering from Environmental Crime」の中から、「チャプター3:環境犯罪によるマネーロンダリングの事例分析」、「チャプター4:環境犯罪によるマネーロンダリングの撲滅のための課題と好例」、「チャプター5:結論と優先順位の高い対応」の内容をご紹介しました。
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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