FATF

暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書について(2)


暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書について(2)

前号では、6月に公表された「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」の「セクション1:公的機関における暗号資産及び暗号資産交換業者(VAs及びVASPs)に関するFATF基準の実施状況」、「セクション2:FATFトラベルルールの実施状況」の内容をご紹介しました。今号では、続編として、「セクション3:市場動向と新たなリスクに関する最新情報」、「セクション4:次のステップ」の内容を見ていきます。 

セクション3:市場動向と新たなリスクに関する最新情報 
 
FATFは2021年7月に第2回12カ月レビューを公表して以来、分散型金融(DeFi)、非代替性トークン(NFT)、非ホスト型ウォレットなどの新しい暗号資産の動向を引き続き監視・議論し、2021年10月にはFATFの基準がこれらの問題にどのように適用するかに関する更新ガイダンスを発表しました。昨年来、各国はDeFi及びNFTのリスクが高まっていることを感じているが、FATF基準の実施が困難な状況と認識しています。 
 
分散型金融(DeFi) 
DeFiの市場は、昨年著しい成長を見せました。FATFにおいても、まだDeFiの成長がどのように金融犯罪に影響するか確定的なことは言えませんが、不正利用の脅威は依然として続いています。 
 
昨年のDeFi市場における注目すべき変化は、以下のように挙げられています。 
 

CDLニュースレター第13号_図1

図1:2021年DeFi市場における注目すべき変化 
 
FATF基準は、ソフトウェアには適用されないとされていますが、DeFiにおいては、取決めやプロトコルに対して影響力を持つ人物に適用されます。そのため、各国は、どのDeFi 関係者が規制されるべきかを特定すること、及びそのような関係者がFATF基準非準拠の国、地域に移動した場合にも、FATFのトラベルルール及びその他のFATF基準を一貫して執行することが課題となります。 
 
非代替性トークン(NFT) 
NFTの市場も拡大していることが明らかになっています。DeFi同様に、金融犯罪への影響について、確定的なことは言えないのですが、犯罪者がマネーロンダリングやウォッシュトレード*3などの不正な金融活動にNFTを悪用する可能性があることが示唆されています。 
*3売り手と買い手が同じ、あるいは両者が共謀して意図的に取引量の水増しをする行為 
 
NFT市場の注目すべき動きとして、以下が挙げられます。 
CDLニュースレター第13号_図2
 
図2 NFT市場の注目すべき動き
 
最近のFATFでの議論において、国・地域によってNFTの定義や機能が異なるため、AML/CFT規制を実際に適用する方法を決定するが難しいことを確認しています。 
 
NFTは、FATF基準の目的からすると、一般的には暗号資産とはならないかもしれません。しかし、NFTが暗号資産と同じ機能(支払または投資の目的で使用)を果たす場合、各国は暗号資産に関するFATF基準をNFTに適用する必要があります。NFT市場およびその機能/形態の急速な発展を考慮し、FATFはこの問題を引き続き監視し、新たな実施上の問題や各国のアプローチについて議論していくとのことです。 
 
その他の市場動向(P2P*5、ステーブルコイン*6など) 

FATFは、ピアツーピア(P2P)決済ステーブルコインに関連するリスクも引き続き監視していくとのことです。FATFガイダンス(2021年10月公表)で強調しているように、犯罪者が、非ホスト型ウォレットやFATF基準に準拠していない暗号資産交換業者を利用し、FATF勧告の外側で取引を行うリスクが確認されています。現在のところ、FATFはFATF基準の即時更新の必要性を認識していませんが、新たなリスクを引き続き監視していく予定です。 
 
*5複数のコンピューター間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつで、対等の者同士が通信をすることを特徴とする通信方式、通信モデル、あるいは通信技術の一分野を指す 

*6 価格の安定性を実現するように設計された暗号資産(仮想通貨) 
 

セクション4:次のステップ 
 
FATFは、この報告書の結果に基づき、VACG*7、グローバルネットワークのメンバー、および民間セクターによる行動の優先順位を以下のように定めています。 
 
*7Virtual Asset Contact Group:暗号資産・暗号資産交換業者に関するFATF基準の採択(2019年6月)を受け、業界との対話および基準遵守に向けた業界の取り組みのモニタリングのために、FATFの政策企画部会(PDG)傘下に設立された組織 
 
 
勧告15/解釈ノート15への準拠 
i. FATFとFSRBの両メンバーは、暗号資産及び暗号資産交換業者のマネーロンダリング/テロ資金供与リスクの評価と、これらのリスクを軽減するための措置の適用に優先的に焦点を当て、FATF勧告15及び解釈ノート15への準拠を加速させるべきである。これには、関連法の成立と効果的な執行の両方が必要となる。 
 
FATFトラベルルール 
ii. トラベルルールの法律を導入していない国は、できるだけ早く導入すべきであり、FATFの管轄区域は、実施を促進し、経験や事例を共有することによって、率先して模範を示すべきである。 
 
iii. FATF及びVACGは、共通の実施上の課題及び事例に関する国・地域間の議論を促進することにより、FATFトラベルルールの国境を越えた実施を引き続き促進し、2023年6月までに実施の進捗を再度レビューするべきである。 
 
iv. FATF基準を遵守するための広範な努力の一環として、民間セクターは、トラベルルールの技術的ソリューション間の相互運用性を促進する努力を強化し、国内要件の相違に対応するための柔軟性を確保するべきである。 
 
市場の発展 
v. VACGは、FATF基準がDeFi及びNFTにどのように適用されるかを含め、引き続き市場動向を監視し、リスク、緩和策及びそのような問題に対する各国のアプローチを理解するために会員及び民間部門に関与するべきである。さらに、FATFは今後1年間、各国と協力して、暗号資産及び暗号資産交換業者を通じたランサムウェアによる支払いや関連するマネーロンダリングに共通する傾向について認識を高めていく。 
 
今号では、「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」の中で、「セクション3:市場動向と新たなリスクに関する最新情報」、「セクション4:次のステップ」について内容を見ていきました。次号では、2022年9月7、8日で開催される「ACAMS 第13回 日本 マネー・ローンダリング/金融犯罪対策コンファレンス」の参加レポートをお送りします。
 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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