FATF「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」
前号では、FATF全体会合で合意されたFATF勧告8(非営利団体 (NPO) 悪用防止)のパブリック・コンサルテーションについて紹介しました。今号では2023年6月に公表されたFATF「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」について紹介します。
図1:FATF TARGETED UPDATE ON IMPLEMENTATION OF THE FATF STANDARDS ON VIRTUAL ASSETS AND VIRTUAL ASSET SERVICE PROVIDERS
FATFがマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)に関する国際基準を、暗号資産(VA)と暗号資産交換業者(VASP)に適用してから4年が経過しました。適用後から今までの相互審査やフォローアップの内容や、2023 年3月に実施した勧告 15(新技術の悪用防止)の実施に関する調査の結果が、本レポートにまとめられています。
主な結果は、以下のようになっています。
FATFの相互審査報告書及びフォローアップ報告書
・FATFの相互審査報告書及びフォローアップ報告書において、98件中73件の法域(75%)が、FATF勧告15に対し、一部適合(PC)又は不適合(NC)となった。
図2: FATF勧告15の遵守状況
勧告15の実施に関する調査(2023年3月実施)-151法域が回答
・3分の1以上(52法域)がリスク評価を実施していない。
・60%(90法域)がVA/VASPを許可する一方、11%(16法域)が禁止すると決定。残りの29% (45法域)は、VA/VASP規制するかどうか、またどのように規制するかをまだ決めていない。
・50%以上(VA/VASPを禁止している国を除く135法域中73法域)は、トラベルルールの実施に向けた措置を講じていない (本調査に回答していない54法域は、この措置を講じていないグループに含まれる可能性が高いので、実際はさらに高い割合になると思われる)。
・VA/VASPを高リスクと評価しつつ禁止アプローチをとらない法域の3分の2(38法域中25法域)は、トラベルルールを実施する法律を未だ成立させていない。
※本調査後に、EUがVASPに関する規制の枠組みを構築し、トラベルルールを実施する法律を可決したため、現在トラベルルールを実施する法律を可決した法域は58となっている。
・VASPに対して、トラベルルール遵守に重点を置いた指摘や指導・処分を発出したり、行政対応やその他の監督措置を取ったりしているのは、わずか21%(62 法域中 13)である。
上記のように、トラベルルールの実施について、各国で足並みが揃っていない現状が判明しています(いわゆるサンライズ問題※)。
※サンライズ問題とは:トラベルルールを導入している国が、導入していない他国VASPをトラベルルールの実施上どのように扱えば良いかが不明確な状態が、当該国の規制導入まで継続する問題。
また、調査結果とは別に、北朝鮮やISIL、アルカイダ、過激派右翼グループにより暗号資産が資金調達に利用されるなど、暗号資産による大量破壊兵器拡散やテロ資金供与リスクの増大についても問題視されています。
今年5月に、北朝鮮系のハッカー集団が2017年以降に日本から奪取した暗号資産の額が7億2100万ドル(約980億円)に上り、世界全体の被害の3割を占めると報道がありましたが、日本はそのようなリスクを抱えている認識を高め対応することが必要になります。
今号では、先月公表されたFATF「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」について紹介しました。次号は、5月31日公表されたカタールのFATF相互審査報告書について紹介します。
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