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FATF全体会合(2023年6月21日~23日開催)の内容について


 FATF全体会合(6月21日~23日開催)の内容について

前号では、3月10日に公表されたFATF「実質的支配者に関するガイドライン」から「17. 実質的支配者の義務と他の勧告(電信送金や暗号資産の要件)との関係」を紹介しました。今号では6月21日~23日で開催されたFATF全体会合の内容を紹介します。 

CDLニュースレター第32号_図1

図1:FATFウェブページ Outcomes FATF Plenary, 21-23 June 2023 

シンガポールのT. Raja Kumar議長の下での3回目のFATF全体会合がパリで開催されました。 
以下に主な内容をまとめて紹介します。
 
ロシアの処分 
・ロシアのウクライナ侵攻は、FATFの原則である、世界金融システムのセキュリティ、セーフティ、インテグリティの確保と、FATF加盟国によるFATF基準の実施と、国際協力や相互尊重へのコミットメントに反するものであり、ロシアの加盟停止処分は継続する。 

・FATFは、国際金融システムを保護するため、すべての国・地域がロシアに対する措置を続ける。そして、それを回避するような現存のリスクと新たなリスクに警戒すべきであることを改めて表明する。 
 
FATF基準の遵守 

ルクセンブルクの相互審査の評価
 

・FATFは、ルクセンブルクの相互審査報告書について討議し、これを採択した。 

・全体会合は、ルクセンブルクがFATFの要求事項を技術的に高いレベルで遵守しており、そのAML/CFT体制が良好な成果を上げているとの結論に達した。 

・ルクセンブルクの評価内容は、以下の通りです。 
-自国が直面するマネーロンダリングとテロ資金供与のリスクについて十分に理解している。 

-金融情報の活用や実質的支配者情報へのアクセス、国際的なカウンターパートとの建設的な協力など、政策・運用の両レベルで強固な国内協力と協調を実現している。 

-国のリスクプロファイルに沿った、より複雑なマネーロンダリング事案の検出、調査、訴追の改善など、特定の分野における対策の強化に重点を置く必要がある。 

-非金融部門に対するリスクベースの監督を強化し、テロ資金供与のリスクに関する理解をさらに深め、官民両部門に普及させ、金融および非金融部門に対するコンプライアンス違反に対して、比例的かつ説得力のある制裁を適用すべき。 

-FATFは、品質と一貫性のレビューの後、9月に報告書を公表する予定である。 
 
高リスクおよびその他のモニタリング対象国・地域 

強化モニタリングの国・地域  
・新たに、カメルーン、クロアチア、ベトナムが強化モニタリング対象国となった。 
 
行動要請対象の高リスク国 
新たに、追加された国・地域はなし。 
 
第5次FATF相互審査 
・FATF加盟国は、第5次相互審査の準備を継続した。 
・参加者は、次ラウンドの各相互審査が 、経験豊富なAML/CFT専門家からなる十分な訓練を受けた評価チームによって確実に実施されるために、審査者トレーニングプログラムに関する最新情報を入手した。
・FATFは、次回の相互審査のためのFSRB(FATF-style regional bodies:FATF型地域体)による準備についても議論した。 
 
戦略的イニシアティブ 

暗号資産/VASPに関するFATF基準の実施に関するFATF目標アップデート 
・FATFが暗号資産および暗号資産サービス・プロバイダーに関する基準を強化してから4年が経過したが、これらの措置の世界的な実施は依然として不十分である。 

・FATFの相互審査とフォローアップレポートによると、ほぼ4分の3の国・地域がFATFの要求事項に部分的にしか準拠していない、もしくは準拠していない。 

・多くの国・地域が基本的な要求事項をまだ実施しておらず、調査回答者の半数以上が、制裁を受けた個人または団体への資金移転を防止するためのFATFの重要な要求事項である、「トラベル・ルール」の実施に向けた措置を講じていない。
 
・このような規制の欠如は、犯罪者が悪用できる重大な抜け穴を生み出している。 

・暗号資産に関する世界的な規制のギャップを埋めることは、緊急の優先事項であり、FATFはすべての国に対し、暗号資産サービス・プロバイダーにAML/CFT規則を遅滞なく適用するよう求める。 

・FATFは6月27日に、これらの抜け穴を塞ぐため、トラベル・ルールを含む暗号資産とVASPに関するFATF勧告を速やかに実施するよう各国に促す報告書を公表する。 

・報告書は、大量破壊兵器開発計画の資金調達に利用されている北朝鮮の不正な暗号資産関連活動や、分散型金融、ピアツーピア取引などによる新たなリスクにも焦点を当てている。 
 
財産回復 
・FATFは、犯罪者から不正に搾取された財産を回復するため、各国の対策を強化するという優先課題に沿って、財産回復に関するFATF基準の改訂作業を継続している。 

・FATFは、犯罪収益の凍結、差押え、没収を、国内および国際協力を通じて効果的に行うために各国が使用すべき新たなツール群を提供することを目指している。 

・今回の全体会合では、FATFが2023年10月にて承認を目指している勧告4(犯罪収益の没収・保全措置)と38(法律上の相互援助)の改訂に向け重要なマイルストーンが達成された。 
 
腐敗防止のための活動  
・FATFの活動は、腐敗防止に貢献しており、この分野における他の国際機関の活動を補完している。 

・全体会合は、国連腐敗防止条約(UNCAC)の関連条項の実施を各国に求める勧告36(国連諸文書の批准)の評価を容易にする内部ツールを採択し、グローバル・ネットワーク全体における評価の一貫性を向上させた。 

・FATFメンバーは、投資スキームによる市民権および居住権の悪用に関する進行中の作業の進捗状況についても最新情報を得た。 
 
FATF基準の誤った実施による意図せざる結果  
FATFは、2021年以降、ディリスキング、金融排除やNPOへの不当な措置など、FATF勧告の不正確な実施や一貫性のない実施がもたらす意図せざる結果をなくすことに注力してきた。 
 
テロ資金供与のためのNPOの悪用との闘い  
・2021年10月、FATFは、意図せざる結果に関する最初の棚卸しと分析フェーズを完了し、潜在的な政策立案を含む、さらなる作業を進めていくことを決定した。 

・今回の全体会合では、代表団が、潜在的なテロ資金供与からNPOを保護することを目的とした勧告8(非営利団体(NPO)悪用防止)の改訂の可能性を含む、その作業の進捗状況について議論した。 

・この改訂は、一部の国において、NPOに対する措置が過剰に適用されているという問題に対処することを目指すものである。 

・代表団は、FATFベストプラクティス「非営利組織の悪用との闘い」の改訂についても議論した。 

・FATFベストプラクティスの改訂は、国、金融機関、NPOが、合法的なNPO活動を妨げたり、意欲を削いだりすることなく、潜在的なTFのリスクからNPOを保護するために、リスクベースの措置を効果的に実施できるようにすることを目的としている。  

・全体会合は、ベストプラクティス文書の改訂版と、勧告8の改訂案についてパブリック・コンサルテーションを実施することに合意した。 

・FATFは、この問題に関する更なる意見を歓迎し、2023年10月の総会でこの改訂を最終決定する予定である。 
 
意図せざる結果の評価 
・FATFの相互審査プロセスは、FATF勧告の誤った実施を特定し、これに対処する上で極めて重要な役割を果たしています。 

・全体会合は、2022年3月に採択された第5回相互審査の方法論の修正に合意した。 

・この修正により、次ラウンドの各審査において、意図せざる結果、特にFATF勧告の不正確な実施が考慮されることになる。  
 
今号では、6月21日~23日に開催されているFATFの全体会合の内容について紹介しました。次号は、全体会合で合意された、FATF勧告8(非営利団体(NPO)悪用防止)のパブリック・コンサルテーションについて紹介します。 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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