FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の内容について(1)
前号まで、FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の”ドラフト”の内容をご紹介してきましたが、3月10日に正式なガイドラインが公表されましたので、今号からその内容を紹介します。ドラフト版で紹介済みの範囲はまた改めて正式版との差分を見ますが、今号からは、ドラフト版で取り上げていない章を中心に紹介します。今号は「9. 企業アプローチに基づく企業の義務」の内容を紹介します。
ガイドライン全体構成
以下は、ガイドラインの目次です。この中から今号では、「9. 企業アプローチに基づく企業の義務」について見ていきます。
1. はじめに
2. 法人に関連するリスクの把握と評価
3. 基本情報
4. 実質的支配者情報
5. 実質的支配者に対する多面的アプローチ
6. 適切な実質的支配者情報 ←(ドラフト版を)前号、第24号で紹介
7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段 ←(ドラフト版を)前号、第24号で紹介
8. 最新の基本情報および実質的支配者情報 ←(ドラフト版を)前号、第24号で紹介
9. 企業アプローチに基づく企業の義務 ←今号、第25号で紹介
10. 登録簿アプローチ ←次号、第26号で紹介
11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴
12. 追加的補助手段
13. 情報へのアクセス
14. 無記名株式および無記名新株予約権の悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム
15. ノミニーアレンジメントの悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム
16. 制裁措置
17. 実質的支配者の義務と他の勧告(電信送金や仮想資産の要件)との関係
18. 関連する規制制度の適用性
19. 国際協力
9. 企業アプローチに基づく企業の義務
企業アプローチでは、各国は企業に対し、以下の措置を講じることを要求すべきである、とされています。
a) 企業自身の実質的支配者に関する適切、正確かつ最新の情報を入手し、保管すること。
b) 実質的支配者を特定するために、管轄当局に適時に情報を提供することを含め、可能な限り管轄当局に協力すること。
c) 金融機関/DNFBPと協力し、会社の実質的支配者情報に関して適切、正確かつ最新の情報を提供すること。
また、各国は、このアプローチを実施するにあたり、以下の点を考慮する必要がある、とされています。
a) 企業が収集する実質的支配者情報が適切、正確かつ最新であり、当該情報が管轄当局によって適時にアクセス可能であることを保証するメカニズム(例えば、確立した手続き/手順)が存在するか。会社は、株主から最新の情報を要求する権限(いつでも受益権情報を要求できる権限を含む)を有するか。
b) 株主は、株式を代理で保有する者の名前を開示することを要求されるか。所有権や支配権に変更があった場合、株主や受益者は、一定期間内に会社に通知することが要求されるか。会社は、実質的支配者情報を定期的に検証し、見直し、確認することが要求されているか。
c) 義務(例えば、実質的支配者情報を収集し、適切、正確かつ最新の状態に保つこと)を履行しなかった場合、 会社とその代表者に対して、効果的、比例的かつ説得力のある制裁があるか。
d) 管轄当局は、企業の協力を求める権限を有し、非協力に対して、効果的、相応かつ説得力のある制裁を科すことができるか。実質的支配者情報は、設立国においてアクセス可能であることが要求されるか。設立国に物理的な拠点のない企業はどのように扱われるのか。
e) 当局は、企業が協力しない場合に、金融機関/DNFBP がどのような措置を取ることを期待するかについて、明確なガイダンスを提供したか(例:非協力者を関連当局に報告、取引をしない、継続しない)。
f) 企業は、自らの義務及びこれらの義務を果たすために必要な資源について、どのように認識することになるのか。企業の義務を説明する適切なガイダンスがあり、このガイダンスは一般に公開されているか。企業がその義務を理解し、遂行するための適切な施策はあるか。
現在、日本の企業は、株主名簿の保持が義務付けられていますが、今後は、実質的支配者についても義務付けられるようになるかもしれません。また、多くの金融機関で、情報を開示しない企業(DM等でのアンケートなどへの未回答社)に対する対応に苦慮されていますが、当局から明確なガイドラインが出されるかもしれません。このガイドラインの基となっている最新のFATF勧告24は、2025年から始まる第5次相互審査から適用されるため、このガイドラインに記載されていることが、どのように国内で実行されていくのか注目したいと思います。
今号では、3月10日に公表されたFATF「実質的支配者に関するガイドライン」の中の「9. 企業アプローチにおける企業の義務」について紹介しました。次号は、「10. 登録簿アプローチ」の内容をみていきます。
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