リスクベース・アプローチ

2022年6月開催 FATF全体会合での決定事項について


 2022年6月開催 FATF全体会合での決定事項について

2022年6月14日~17日にベルリンにてFATF全体会合が開催されました。本会合は、ドイツのMarcus Pleyer博士が議長を務める最後の会議となりました。 
 
「I. FATF基準への対応」では、本会合での議論の対象となった、昨年11月にオンサイト審査を行ったドイツとオランダの審査結果について、また強化モニタリングの対象国について取り上げます。 
次に、「II. 戦略的取り組み」で、今回の全体会合で最終決定された事項について取り上げます。 

CDLニュースレター第11号_図1

図1:ドイツ第4次相互審査結果概要 

 また、以下について、具体的な改善ポイントとして挙げられています。日本と同様に、受益者(実質的支配者)情報の収集、効果的な(リスクベースによる)監督が課題として挙げられています。 

CDLニュースレター第11号_図2

図2:ドイツ第4次相互審査結果主な課題 

2. オランダの第4次相互審査結果(2021年11月オンサイト審査) 
オランダもドイツと同様に第4次相互審査が完了し、9月に最終レポートが公表されます。詳細は、最終レポートを見ないと分かりませんが、ドイツより取り組みが進んでおり、評価が良かったようです。 

CDLニュースレター第11号_図3
図3:オランダ第4次相互審査結果概要 
 
オランダのAML/CFT制度の主な長所として、以下が挙げられています。データの活用が進んでいるところや、日本で低い評価となっていたNPOに対するリスク管理に関して評価されていることが分かります。
 
CDLニュースレター第11号_図4
図4:オランダAML/CFT制度の主な長所 
 
一方で、以下のような課題も指摘されています。日本と同様に実質的支配者情報へのアクセスやリスクベースの監督については、オランダでも課題となっているようです。
 
CDLニュースレター第11号_図5
図5:オランダ第4次相互審査結果主な課題 
 
3. 強化モニタリング 
以下は、本会合で新たに強化モニタリングの対象に変更があった国・地域です。この変更に応じて、自社のリスク基準を修正する必要があるかもしれません。 
 
CDLニュースレター第11号_図6
図6:強化モニタリング対象となる国・地域の変更 
 
II. 戦略的取り組み 
以下の戦略的取り組みについて全体会合で議論がされて、最終決定されました。
 
1. 情報共有とデータ保護に関するガイドラインの発行の決定 
本ガイドラインは、FATFとそのグローバル・ネットワークのメンバーが、国内のデータとプライバシー保護の義務を果たしながら民間部門の情報共有を拡大した際の気づきや教訓をまとめており、7月20日に発行されています。 
 
2. 不動産のためのリスクベース・アプローチ・ガイダンスの発行の決定 
本ガイダンスは、不動産セクターに携わる人々がマネーロンダリングとテロ資金調達を防止するためのリスクベースの対策を実施するのを支援することを目的としたもので、7月26日に発行されています。 
 
3. 暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書の発行決定 
この報告書は、特に、VASP(暗号資産交換業者)が仮想資産の送金に際して送金元と受取人の身元に関する情報を収集または送信することを求めるFATFのトラベルルールの実施に焦点をあてています。 報告書では、一定の進展が続いているものの、すべての国が「トラベルルール」の導入を開始しているわけではなく、各国におけるトラベルルールの導入と執行が緊急に必要であることを強調しています。報告書は、6月30日に発行されています(次号で紹介予定)。 
 
4. 実質的支配者情報へのアクセス改善 

(1)法人向け受益者情報についてのFATF基準導入のためのガイダンス  
今回の全体会合で、各国が、改訂されたFATFの要求事項を遵守するためのガイダンス作成の進捗状況について確認しました。代表団は、2022年10月にガイダンスを最終化する前に、対象となるステークホルダーから意見を求めることに合意しました。 
 
(2)信託やその他の法的取極めに関する受益者情報についてのFATF基準の強化 
FATFは、信託やその他の法的取極めに適用される勧告25を強化するための改正を検討しています。FATFは、ホワイトペーパーを公開し、特に法的取極め、リスク評価と外国信託の範囲、受託者の義務、受益者の定義、受益者情報収集のアプローチ、適切、正確かつ最新の情報、透明性への障害に関する意見を求めています。(意見募集は8月1日18時(中央ヨーロッパ時間)に終了) 
 
(3)グローバル・ネットワーク強化のための戦略的ビジョンの実施 
FATFは、マネーロンダリング、テロリスト及び拡散資金に対処するための制度を強化することに共同合意した206の国・地域のグローバル・ネットワークのための2022年3月の戦略的ビジョンを実施するための一連のアクションを承認しました。FATFは、FATFスタイルの地域機関に対し、現行の相互評価ラウンドをタイムリーに、質の高い報告書とともに完了するための支援を継続し、2025年に開始される予定の次期相互評価ラウンドの準備のために共同して作業することに合意しました。 
 
今号では、6月14~17日に開催されたFATF全体会合の結果について内容を見ていきました。次号では、上記全体会合で最終決定された「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」の内容を見ていきます。 
 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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