シンガポール金融管理局=MASレポート「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用」について(3)
前号では、本年(2023年)6月に公表されたMAS (Monetary Authority of Singapore:シンガポール金融管理局)の「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用 (Effective Use of Data Analytics to Detect and Mitigate ML/TF Risks from the Misuse of Legal Persons)」に関するレポート後半で書かれている4つのデータ分析事例から2つの事例を紹介しました。今号では残りの2つの事例について紹介します。
決済ルートで異常なフローを検出
以下は、データ分析により、特定の決済ルートにおいてマクロレベルでの異常フローが検出され、業界レベルで勧告が発出された事例です。
決済ルートでの異常フローを検出したプロセスは以下の通りです。
・銀行Cは、マクロ/国レベルの決済フロー監視のためのデータ分析の利用を検討した。この試験的な試みから、X国の銀行口座ネットワークからシンガポールへの異常かつ大規模な資金フローが急増していることを特定した。
・資金の送金元はX国に拠点を置く事業体であった。ネットワークリンク分析ツールを用いて同行は、X国からの送金に関連する別のネットワークに、同じ事業体が多数出現していることも検出した。
・このことはACIP※に知らされ、これらの疑わしいネットワークの重要な特徴を広く業界に警告するための勧告が出され、金融機関によるSTRの提出につながった。
※ACIP:シンガポールで2017年にAML/CFT対策のために設立された官民パートナーシップ
こちらは、マクロレベルのモニタリングツールを使用することで、銀行が日常的に行っている個別口座レベルでの顧客モニタリングではわからないような異常なフローの発見につながった良い事例となりました。
共通の個人に関連する疑わしい事業体を検出
以下は、データ分析を使用することで、シェルカンパニーのネットワークを運営する個人に関連する事業体を迅速に特定することができた事例です。
シェルカンパニーのネットワークを運営する個人に関連する事業体を特定したプロセスは以下の通りです。
1. 銀行Dは、共通の住所などシェルカンパニーの特徴を示す企業体に注目した。
2. 次に、共通の個人Aとの関連性を確認した。
3. 個人Aに関連する他の法人を発見するため、様々な調査を実施した。
データ分析を利用した成果は以下の通りです。
・D銀行はまず、共通の個人Aに関連するシェルカンパニーの特徴(共通の住所、新たに設立された会社など)を示す事業体を多数特定した。これらの事業体は、顧客のプロファイルと一致しない取引を行っていることが判明した。
・その後、同行はデータ分析を活用して、共通の住所を持つ事業体、個人Aとつながりのある過去および現在の事業体、共通の電子デバイスを使用する事業体を探し出した。その結果、銀行は既知の事業体を超えた、より大きなネットワークを発見した。
・同行はSTRを提出し、ネットワークに関与する事業体の大半との取引を停止させた。
・データ分析の利用により、既存の業務管理(BAU)が補強され、銀行が迅速にリスク軽減措置を講じるために、既知の悪質な行為者に関連する新たな事業体を迅速に特定することが出来ました。
今号では、6月に公表されたMAS「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用」に関するレポート後半から2つの事例を紹介しました。
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