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シンガポール金融管理局=MASレポート「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用」について(1)


シンガポール金融管理局=MASレポート
 
「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用」について(1)

 前号では、カタールのFATF-MENAFATF相互審査報告書について紹介しました。今号では本年(2023年)6月に公表されたMAS (Monetary Authority of Singapore:シンガポール金融管理局)の「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用 (Effective Use of Data Analytics to Detect and Mitigate ML/TF Risks from the Misuse of Legal Persons)」に関するレポート(前半)について紹介します。 ​​​​​​​

 

CDLニュースレター第36号_図1-1
図1: MAS Effective Use of Data Analytics to Detect and Mitigate ML/TF Risks from the Misuse of Legal Persons
 
シンガポールは、金融センターとしての地位を維持するためには、法人の悪用を防ぐ必要があると考えており、 過去数年にわたり金融業界と連携して、当該リスクへの認知向上とリスクの低減に向け取組みを進めてきました。そして、データ分析の活用により、特にフロント/シェルカンパニーの検知に大きな進展を得られることが出来ました。 
 
このレポートでは、その成果の説明と具体的な事例なども紹介されています。 
 
法人悪用リスク 
 
レポートでは、法人悪用リスクについて、以下のように説明されています。 

・犯罪者は、不正に入手した資産の所有権をレイヤリング*や隠蔽し、資金を洗浄するためにフロントカンパニーやシェルカンパニーを設立し、法人を悪用し続けている。 
※レイヤリング:何層もの複雑な金融取引を行うことで、犯罪収益の源泉を隠す手法 

・シェルカンパニーは事業活動も目的も持たない。一方で、フロントカンパニーは一見合法的な事業を営んでいるように見えるが、実際には不正な活動を偽装し、隠蔽する役割を果たしている。 

・コーポレート・サービス・プロバイダー(法人登記支援等)は、フロント/シェルカンパニーの設立を支援するために犯罪者によって利用されていることが判明している。 

・犯罪の巧妙化に伴い、金融機関は継続的に検知能力を向上させる必要があり、またこの分野における新たなリスクの類型を理解する必要がある。これには、伝統的な閾値ベースのモニタリングを超え、隠れたつながりやML/TFリスクを検出するためにデータ分析を適用することが含まれる。 

 

官民パートナーシップ 
MASとAML/CFT Industry Partnership (ACIP*) は、法人悪用防止にデータ分析を取り入れることを促進するため、様々なレポートやワークショップを行っています。 
※ACIP:シンガポールで2017年にAML/CFT対策のために設立された官民パートナーシップ 
 
主な活動 
・ACIP 法人悪用防止ベストプラクティス公表 (2018年5月) 
・ACIP データ分析ベストプラクティス公表(2018年11月) 
・MAS 法人悪用防止ガイダンス公表(2019年6月) 
・進化するフロント/シェルの類型、ケーススタディ、フロント/シェルカンパニーを検出するためのデータ分析の方法論について、業界とワークショップやミーティングを実施 
 
活動の成果 
上記活動の成果として以下が挙げられています。 
 
STR(疑わしい取引の届出)件数の増加 
MASが2019年6月に法人悪用防止ガイダンスを公表した後、金融機関による法人不正利用の可能性に関連して提出されたSTRが増加し、これは金融機関によるリスク認識と検知が向上したことを示しているとのことです。 
 
データ分析活用の増加 
データ分析活用の増加により、潜在的なフロント/シェルカンパニーの発見につながったとのことです。一部の銀行は、データ分析ツールを継続的なモニタリング・コントロールに組み込んでいます。 
 
リスクの積極的検知とエスカレーション 
金融機関は、悪質な行為者の新たな類型やネットワークを積極的に特定し、当局に警告することができるようになってきたとのことです。新たに発生する犯罪類型は、より広範な業界に注意を喚起する仕組みになっています。 
 
今号では、6月に公表されたMAS「法人悪用によるML/TFリスクの検知と低減のための効果的なデータ分析の利用」に関するレポート(前半)を紹介しました。次号では、当レポート後半で紹介されている具体的な事例について取り上げます。 

 

著者紹介

山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 
 
 

 

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