海外事例

香港金融管理局「AML Regtech:Network Analytics (May2023)」について(2)


今号では、香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics (May2023)」の中から、ケーススタディ(事例研究)を紹介します。 

CDLブログ第2号_図1図1: 香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」 より引用 

 
本レポートでは、ケーススタディの紹介について、以下のように目的が書かれています。 

レグテック・ソリューションの機能が進化し続ける中、銀行もネットワーク分析を含む新しいテクノロジーを取り入れることで、(機能の進化に)遅れずについていく必要があると考えられます。このような状況の変化の中で不変なことは、Regtechの導入に「万能 (one-size-fits-all)」なアプローチは存在しないという明確な見解です。

そこで、本稿は、「AML/CFT Regtech: Case Studies and Insights」と同様、ベストプラクティスを示すことを目的としたものではなく、読者がネットワーク・アナリティクスが自行にとって適切かどうかを検討するきっかけになればと考え、同業他社の銀行が歩んできた道のりや経験を共有することを目的としています。」 

香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」P15より抜粋、翻訳 

 

「万能 (One-size-fits-all)」なアプローチは存在しない」というのは、マネロン・テロ資金供与等の対策全体に言えることで、様々なガイドラインで言及されています。今回紹介するケーススタディも、そのまま自社に導入するものではなく、この最先端の取組みを参考に、自社にとって最適な対策はどのようなものか、その対策に必要なものは何か、など考えるきっかけになればと思っています。 



<ケーススタディの紹介> 

事例1 

銀行Aでは、外部情報を使ったネットワーク分析を行いました。以下は、その概要です。

CDLブログ第4号_図2 図2:香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」P17より抜粋 

 まずは、自社の顧客データと外部情報のマッチングを行い、その後のネットワーク分析の基となる事象を特定しています。そして、その事象に対して、関連する取引相手や属性などを紐づけしています。最終的に、隠れた関係性や取引パターンが可視化され、特定可能になったとされています。 

CDLブログ第4号_図3-1図3:香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」P17より抜粋 

ネットワーク分析では、共通のIPアドレスを使用していることから共通の場所にいる顧客を特定出来たり、住所が同じことにより隠れた関係性が特定出来たりしたとのことです。そして、最終的には、一見対象となる事象と関係なく見える顧客間での資金移動が、実は対象の事象と関連したものということが判明しています。多くの犯罪者は、自らを法人や取引などで隠して、資金を移動します。あらゆるデータを紐づけて、ネットワーク分析をすることにより、今まで見えなかったリスクが浮かび上がってくることが期待できます。 

 一方で、このような新しい取組みは、まずはスモールスタートで始めることが良いと考えられます。そのスモールスタートで成果を確認し、その後取組みの範囲を広げていくのが、無駄なコストを極力抑えつつ確実に効果を上げる秘訣となります。その成果を確認するためにも、プロジェクト開始時に成功基準を設けることが大切になります。当レポートでも、今回の取組みの成功要素が以下のように書かれています。 

「銀行Aの導入から得た重要な教訓は、プロジェクト開始時に明確な成功基準を設定することの重要性です。(中略)具体的な成果に後押しされた銀行Aは、モバイルデバイス情報やその他の内部データを取り込むことで、ネットワーク分析の適用範囲を詐欺関連の調査にまで拡大することを検討しています。同行はまた、ネットワーク分析を利用して、社内の監視リストに基づき、リスクの高い顧客を選別して監視するオプションも検討しています。」 

香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」P17より抜粋、翻訳 

 

今回のネットワーク分析の手法についてはもちろんのこと、このような新しい取組みを進めるにあたってのアプローチについても、参考にしていただけたらと思います。 

11月10日(金)に更新予定の次号の私のブログでは、引き続き香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics (May2023)」の中から、ケーススタディ(事例研究)を紹介する予定です。

 

著者のご紹介

hiro

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

 富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)  

 

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