実質的支配者リスト制度の内容
今号では、FATF勧告24に関連して1月31日に創設、運用開始された、「実質的支配者リスト制度」の内容を見ていきます。
制度概要
法務省のウェブページを見ると、実質的支配者リスト制度について、以下のように説明されています。
「本制度は,株式会社(特例有限会社を含む。)からの申出により,商業登記所の登記官が,当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて,所定の添付書面により内容を確認し,その保管及び登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。」
この一文からも分かるように、株式会社からの申出(任意)により成り立っている仕組みとなっています。そして、顧客の実質的支配者情報の確認が必要な金融機関等は、その株式会社が申出した情報を直接参照することは出来ず、当該企業からその情報を得なければなりません。
以下は、金融機関等が顧客(株式会社)から実質的支配者(BO)リストを入手するまでの流れです。
図1:実質的支配者リスト制度の全体概要
(1)株式会社(利用者)は、商業登記所にBOリストの写し交付の申出をします。
(2)商業登記所で登記官が申出内容を確認し,問題がなければ,実質的支配者リストを保管します。
(3)株式会社(利用者)は、金融機関等にBOリストの写しを提出します。
利用することが出来る法人
利用対象は、株式会社(特例有限会社含む)のみとなり、その他の法人は対象外です。
また、実質的支配者が議決権を50%超(第1順位)、もしくは25%超(第2順位)を保有する場合のみ対象となり、その他(第3順位、第4順位)は本制度の対象外となります。
図2:実質的支配者リスト制度の対象範囲
申出の手順・内容
申出を行い、実質的支配者リストの保管及び写しを交付する流れは,次のとおりです。申出をする際は、申出書とともに実質的支配者リスト、添付書面の提示が必要となります。
図3:実質的支配者リストの申出から確認・交付、利用までのプロセス
以下は、法務省のホームページで公開されている実質的支配者リストのサンプルです。実質的支配者が、当該企業を間接保有している場合は、図4の実質的支配者の本人確認事項等の記入と、図5の支配関係図の提示が求められます。複雑な資本系列を持つ企業グループの場合、図5のような図は、資本関係を理解するのに大変役立つと思います。
図4:実質的支配者の本人特定事項等
図5:実質的支配者の支配関係図
図4、図5の内容を検証するために、添付書面の提示が求められます(図6参照)。添付が必須な書面は、申出会社の株主名簿です。また、実質的支配者リストの記載と株主名簿の記載とで内容が合致しない場合※1には,その理由を記載した代表者作成に係る書面等の添付を求められています。
※1会社法第109条第2項の規定による定款の定めにより議決権を行使することができない者がいる場合や会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有しない者がいる場合など (法務省実質的支配者リスト制度Q&Aより)
添付が任意となる書面は、支配法人の株主名簿、合致していない場合の理由を明らかにする書面、本人確認の書面、となっています。これらの書面が任意となっているため、実質的支配者が当該企業を間接保有しており、かつ任意の書面の提示がない場合、当該企業が申出した実質的支配者の真偽を検証することが難しくなります。この辺りは、顧客から実質的支配者リストの写しを入手しリスクを判断する際に注意が必要です。
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現在の本制度の利用状況 私がヒアリングした限りになりますが、本制度の利用については、様子見としている企業が多い印象です。一部の金融機関では、新規顧客の口座開設の際に、実質的支配者リストの写しを求めることを始めているようですが、任意であったり、証跡を求めるいくつか選択肢の中の1つとしていたりします。また、リスクが高いと判断された顧客に対して、EDD※2のための情報の1つとして検討している、といったことも聞かれます。 ※2 Enhanced Due Diligence:取引に際して取得する基本的な情報に基づき、マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断された顧客に対して、より厳格な顧客管理をすること やはり上述のように、すべての企業が対象ではなく、また任意の制度となっているため、金融機関等においてこの制度に全面的に依存することは難しく、既存のCDD※3のための情報収集の1つの手段としかできない状況となっています。この制度は、FATF対応も鑑みて、カバー範囲の拡大や検証の強化がされていくと推測されますが、大幅に金融機関等のCDDの負担を下げるようなものになるには、しばらく時間がかかると思われます。 ※3 Customer Due Diligence 顧客管理:リスク低減措置の中核的な項目であり、特に個々の顧客に着目し、自らが特定・評価したリスクを前提として、個々の顧客の情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れ
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