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FATF「実質的支配者に関するガイドライン」のドラフトの内容について


 FATF「実質的支配者に関するガイドライン」のドラフトの内容について 

昨年3月のFATF全体会合で、勧告24の改訂が決定されたのを受け、現在「実質的支配者に関するガイドライン」の改訂が進められています。ドラフトがすでに公表されており、昨年12月6日を期限にパブリックコメントの募集がされていました。今号より数回に分けてそのドラフトの内容を紹介していきます。今回は、ガイドラインの中の「法人に関するリスクの理解と評価」の内容をみていきます。 

 

CDLニュースレター第21号_図1-1

図1:FATF Guidance on Beneficial Ownership Recommendation 24 – Public Consultation 

 
ガイドライン(ドラフト)全体構成 

以下は、ガイドライン(ドラフト)の目次です。今号では、「2. 法人に関するリスクの理解と評価」について見ていきます。

 
1. はじめに 
2. 法人に関するリスクの理解と評価  ←今号、第21号で解説
3. 基本情報  ←次号、第22号で解説予定
4. 実質的支配者情報  ←次号、第22号で解説予定
5. 実質的支配者情報に対する多面的アプローチ 
6. 適切な実質的支配者情報 
7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段 
8. 最新の基本情報、実質的支配者情報 
9. 企業アプローチにおける企業の義務 
10. 登録簿アプローチ 
11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴 
12. 追加的補助手段 
13. 情報へのアクセス 
14. 無記名株式および無記名新株予約権の悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
15. ノミニーアレンジメントの悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
16. 制裁措置 
17. 実質的支配者の義務と他の勧告(電信送金や仮想資産の要件)との関係 
18. 関連する規制制度の適用性 
19. 国際協力 
 
法人に関するリスクの理解と評価 
 
FATFは、各国に対し、法人に関するリスクの理解と評価を求めています。 

(1)国内法人 

国内法人に関しては、以下のようなメカニズムを持つべきとされています。 

a) 当該国における法人の様々な種類、形態及び基本的な特徴を特定し、説明する。 
b) 以下のプロセスを特定し、説明する。 
(i) 法人設立 
(ii) 法人に関する基本情報及び実質的所有権情報を取得し、記録 
c) 上記の情報を一般に公開する。 
d) 異なるタイプの法人に関連する ML/TF のリスクを評価し、特定されたリスクを管理・ 軽減すること。 
 
c)は、当ガイドライン10章で説明されている「登録簿アプローチ」を示していますが、「EU司法裁判所が、EU各国に実質的支配者名簿の公開を義務付ける第5次EU指令の規定を無効と判決」でご紹介したように、EU司法裁判所において「実質的支配者情報の一般公開を義務付ける規定は無効」との判決が下されましたので、正式なガイドライン発行時にこの文言に変更が加わるかは注目です。 
 
(2)海外法人 

勧告24の改訂では、海外法人に対するリスク評価について強化されています。ガイドラインでは、「自国と十分な関係を有する外国法人に関連して自国がさらされている ML/TF のリスクを特定、評価し、特定したリスクを管理・軽減するために適切な措置をとるべきである」としています。「自国と十分な関係を有する」部分については、以下のような具体例が挙げられています。 

a) 国内に恒久的な施設、支店、または代理店がある。 

b) 自国において重要な事業活動を行っている。重要な事業活動は、金額的な基準で定義してもよいし、その国の特定の状況に適した他の基準で定義してもよい。 

c) 自国における AML/CFT 規制の対象となる金融機関または DNFBP と、重要かつ継続的な取引関係を有している。ここでいう重要とは、関連市場の規模および/または関連市場における事業活動の影響、 あるいは法人が事業を行っている分野/部門に関連したものである可能性がある。 

d) 高額な商業用または住宅用不動産の所有、証券市場投資、その他の資産など、国内に重要な不動産またはその他の投資を行っている。ここでいう重要とは、国内の不動産/対応する資産市場の平均価格、または保有する不動産の量に照らして判断することができる。 

e) 自国に職員を雇用している、または税務上の居住者である(例:当該国に実質的な経営・管理拠点がある)。 

今後、金融機関およびDNFBPにおいては、国内顧客に関連する海外法人の存在の確認やそのリスク評価を強く求められるようになるかもしれません。 
 
今号では、FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の中の「法人に関するリスクの理解と評価」について紹介しました。次号は、「3. 基本情報、4. 実質的支配者情報」の内容をみていきます。 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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