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FATF「実質的支配者に関するガイドライン」のドラフトの内容について(4)


 FATF「実質的支配者に関するガイドライン」のドラフトの内容について (4) 

昨年3月のFATF全体会合で、勧告24の改訂が決定されたのを受け、現在「実質的支配者に関するガイドライン」の改訂が進められています。ドラフトがすでに公表されており、昨年12月6日を期限にパブリックコメントの募集がされていました。前号ではガイドラインの中の「5. 実質的支配者情報に対する多面的アプローチ」の内容を紹介しました。今号では、「6. 適切な実質的支配者情報、7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段、8. 最新の基本情報、実質的支配者情報」の内容をみていきます。 

CDLニュースレター第21号_図1-1

図1:FATF Guidance on Beneficial Ownership Recommendation 24 – Public Consultation 

 
ガイドライン(ドラフト)全体構成 

以下は、ガイドライン(ドラフト)の目次です。この中から今号では、「6. 適切な実質的支配者情報、7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段、8. 最新の基本情報、実質的支配者情報」について見ていきます。 

 
1. はじめに 
2. 法人に関するリスクの理解と評価  
3. 基本情報  
4. 実質的支配者情報  
5. 実質的支配者情報に対する多面的アプローチ ←前号、第23号で紹介
6. 適切な実質的支配者情報 ←次号、第23号で解説予定←今号、第24号で紹介
7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段 ←今号、第24号で紹介
8. 最新の基本情報、実質的支配者情報 ←今号、第24号で紹介
9. 企業アプローチにおける企業の義務 
10. 登録簿アプローチ 
11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴 
12. 追加的補助手段 
13. 情報へのアクセス 
14. 無記名株式および無記名新株予約権の悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
15. ノミニーアレンジメントの悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
16. 制裁措置 
17. 実質的支配者の義務と他の勧告(電信送金や仮想資産の要件)との関係 
18. 関連する規制制度の適用性 
19. 国際協力 
 
6. 適切な実質的支配者情報 
勧告24解釈ノートでは、各国に対し、会社登記簿に提供される情報 、及び勧告24解釈ノートの第7項で言及される利用可能な情報(実質的支配者登録簿、公的機関が保有する情報、金融機関及びDNFBPsによるCDDの情報など)を含め、基本情報や実質的支配者情報が適切であることを保証するメカニズムを持つことを求めています。 
 
実質的支配者である自然人の身元に関して、解釈ノートは、各国が記録を検討すべき情報の例(姓名、国籍、生年月日、国民識別ID、税務登録番号など)を示しています。勧告24解釈ノートでは、上記の情報について、いかなる基準やランク付けも行っていませんが、 ある情報は個人を特定するために必要であると考えられ、また、 ある情報は個人の身元をさらに確認するために有用であると考えられています。 
 
7. 正確な情報- 実質的支配者情報の検証手段 
実質的支配者を特定した後、その特定された情報は検証が必要とされています。検証は、実質的支配者情報が正確であることを保証するために、国が様々な段階で適用すべきチェックやその他のプロセスの組み合わせにより実施され、多面的アプローチの全てに適用されます。 
 
実質的支配者情報の検証は、通常、提出された文書(株券、株主名簿、取締役会決議、委任状など)のレビューを含みます。また、実質的支配者情報の検証には、リスクの度合いに応じて、関連する政府/その他の利用可能なデータベースとの手動または自動のクロスチェックも含めることができます。 
 
検証の手段はアプローチ毎に異なるかもしれませんが、異なるアプローチに適用される実質的支配者を特定するための基準が、関連する要件と整合性がとれていることが重要です。 
 
検証措置は以下の2つの要素から構成されます。 
 
本人確認:実質的支配者として記録された自然人の本人確認のために、適切な措置が取られるべきである。 

地位の検証:実質的支配者として記録された自然人の地位を確認するために、適切な措置がとられるべきである。 
 
実質的支配者の検証は、ゼロリスクのアプローチを意味するものではありません。それは、最終的な所有権と支配に関する情報が信頼できるものであり、明らかな誤り、虚偽または矛盾が組織的に発見され、修正されるという、信頼性を高めることを目的としたプロセスです。 
 
各国は、検証に対してリスクベースのアプローチを採用すべきです。リスクが高い場合(例:複数の法域にまたがる複雑な構造を有する企業、ノミニー取締役又は株主の存在、リスク評価において高リスクと特定された企業、不正確な受益情報を報告した履歴がある企業、又は十分な文書が得られない場合)、検証措置の範囲及び/又は頻度を高めるべきです。法的所有者、取締役及び受益所有者がすべて同一人物である零細企業のような場合、国は、リスクに基づいて、検証措置を調整する(例えば、本人確認のみを要求する)ことができます。 
 
8. 最新の基本情報および実質的支配者情報  
 勧告24解釈ノートでは、各国は、基本情報及び実質的支配者情報が可能な限り最新のものであり、変更や古い情報の特定後、合理的な期間(例えば 1 ヶ月以内)で更新されることを保証するメカニズムを持つべきであるとしています。 
 
本基準は、各国が、自国のリスクや状況に応じて、また、制度やその他の国内事情を考慮して、実質的支配者情報を更新するための適切な「合理的期間」を決定できるように、ある程度の柔軟性を持っています。 
 
各国は、この要求事項を実施する上で現実的な問題に直面する可能性があり、実質的支配者情報が最新に保たれることを確実なものにするために、より多くの時間が必要となるかもしれません。 
 
情報が最新な状態に保たれることを確保するためのベストプラクティスとして、各国は、企業が保有する情報のレビューや検証など、リスクベースのアプローチで定期的に実質的支配者情報を検証することを要求することがあります。このような定期的な検証の要求は、企業構造における実質的支配者の変化を明らかにすることに寄与し、企業が不注意でこれらの変化を認識し報告しなかった場合などに有効に働きます。 
 
今号では、FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の中の「6. 適切な実質的支配者情報、7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段、8. 最新の基本情報、実質的支配者情報」について紹介しました。次号は、「9. 企業アプローチにおける企業の義務」の内容をみていきます。 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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