実質的支配者

「海外の公的機関における実質的支配者に関する取り組み(シンガポール編)」


「海外の公的機関における実質的支配者に関する取り組み(シンガポール編)」

 今号は日本と同じアジアのシンガポールの制度をご紹介します。 
 
ACRA Register of Registrable Controllers (RORC)制度 
シンガポールでは、実質的支配者に関して、シンガポール登記局(以下ACRA)のRegister of Registrable Controllers (以下RORC)制度が運用されています。 
 
RORC制度とは 
RORC制度の導入は、信頼できる金融ハブとしてのシンガポールの評判を維持し、企業体の所有権と支配権の透明性をさらに高めるためのACRAの継続的な取り組みの一部です。 
 
以下は概要です。 
 
CDLニュースレター第6号_図1_ACRA
 
図1:ACRA Register of Registrable Controllers (RORC)制度概要 
 
本制度は、前号で紹介したUKのPSCs制度と同じように、すべての企業に実質的支配者情報の登録簿へ登録と更新を義務付けるものです。UKと大きく異なる部分は、一般の企業、個人は、登録された実質的支配者(RORC)にアクセスできないところです。あくまで当局が犯罪捜査などで活用することを目的としています。 
 
RORCの定義 
登録簿への登録が必要なRC(Registrable Controller: 実質的支配者)は、以下のように定義されています。 
 
(a)法人の株式の25%超を有する 
(b)法人の議決権の25%超を有する 
(c)法人に対し重要な影響又は支配権を行使する権利を有する 

 
こちらは、個人だけでなく法人も対象となります。法人も対象となると、間接保有は考慮されないのか?と疑問を持つかもしれませんが、実質的支配者と当該企業の間にいる法人も自社のRCの登録が必要なため、当局では法人株主を追っていくと最終的な個人の受益者にたどり着くことができる仕組みになっています。 
 
以下のケースでは、個人Xは企業Yを間接的に25%超保有しているのですが、企業YのRCは企業Zとなり、個人Xは企業ZのRCとして登録されます。 
 
CDLニュースレター第6号_図2_RC
図2:登録が必要なRCの例 *ACRAホームページより引用 
 
ガイダンスでは、その他複雑な例を含むRCの紹介がされていますので、ご興味ある方は以下のサイトをご参照ください。 
https://www.acra.gov.sg/compliance/register-of-registrable-controllers/help-resources 
 
 
RORC申告内容 
RORCの申告内容は、以下のようになります。こちらは、ほぼUKと同様の内容となっています。 
 
CDLニュースレター第6号_図3
図3:RORC申告内容 
 
一般企業が取得可能な情報 
冒頭で説明したように、一般企業や個人はRORC制度により登録された情報にアクセスすることは出来ません。しかし、RC以外の企業登録簿には有料ですが誰でもアクセスできるようになっています。 
 
CDLニュースレター第6号_図4
図4:一般企業、個人が取得できるレポートのサンプル 
 
レポートには、社名、住所、業種、資本金などの企業基本情報に加え、株主の情報も記載されています。1件5.5シンガポールドルから取得可能です。 
 
株主情報の記載があるため、多段階に渡る資本系列もレポートをつなぎ合わせていくことで全体像を把握することが出来ます。ただ、新規顧客の確認などで1件ずつチェックするには問題ないかもしれませんが、既存顧客を一括で情報更新するなどの場合、このレポートを1件ずつ取得する運用は現実的ではないかもしれません。 
 
まとめ 
シンガポールでは、FATF勧告の要件を満たすような、実質的支配者のデータベースが構築されています。すべての企業が実質的支配者情報の登録と更新を義務付けられ、捜査当局がその情報にアクセスできることは、FATFが求めるところかと思います。しかしながら、一般企業はその情報へアクセスすることは出来ず、企業登録簿の情報や独自の調査から実質的支配者を特定しなくてはなりません。企業登録簿には、株主情報が含まれているので、日本よりは実質的支配者に関する情報は得やすいと思われますが、金融機関等では、相応の負荷がかかっていることが推測されます。 
 
前号で、UKのPSCs制度を紹介しましたが、日本の今後の方向性を考えたとき、いきなりUKのように一般の企業、個人もアクセス可能なフルオープンな仕組みが導入されるとは考えづらく、まずはシンガポールのような捜査当局向けに閲覧を限定したデータベース構築が進められるのではと推測しています。 
 
いずれにしても、今後の政府の取組みに注目していきたいと思います。
 

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