実質的支配者

米国FinCEN「実質的支配者報告制度」開始 について(2)


2024年1月1日から米国にて、企業の実質的支配者情報の報告制度が始まりました。今号は、本制度における「実質的支配者の定義」をご紹介します。 

 

CDLブログ第22号_FInCEN
図1: 米国金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)Beneficial Ownership Information 


FinCEN実質的支配者
の定義 

FinCEN「Small Entity Compliance Guide」では、実質的支配者について以下のように説明されています。 

実質的支配者とは、以下のような個人を指します。 

直接的または間接的に、 

  • 報告会社に対して実質的な支配力を行使している。 または、  
  • 報告会社の所有権の25%以上を所有または支配している。 

FinCEN「Small Entity Compliance Guide」(以降SECGとする) 

(https://www.fincen.gov/sites/default/files/shared/BOI_Small_Compliance_Guide.v1.1-FINAL.pdf)から抜粋、筆者により翻訳 

 

実質的な支配とは 

SECGでは、以下の4つの基準を満たす個人全てが実質的支配者としています。実質的支配者の数に上限はなく、該当するすべての個人を特定しなければならないとされています。 

  1. 上級取締役 

2. 特定の取締役または取締役の過半数を任命または解任する権限を持っている者 

3. 重要な意思決定者 

4. その他の実質的支配力を持っている者 

 

上級取締役には、社長、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)などが例として挙げられています。また重要な意思決定者には、ビジネス、ファイナンス、組織、それぞれについて重要な意思決定者が該当するとされています。そして、「その他実質的支配力を持っている者」も対象とされており、かなり幅広く実質的支配者が定義されていて、かつあいまいな部分も多くなっています。 

CDLブログ24号_図2_Chart3_Substantial_control_indicators

図2:Substantial control indicators 

FinCEN「Small Entity Compliance Guide」から引用(https://www.fincen.gov/sites/default/files/shared/BOI_Small_Compliance_Guide.v1.1-FINAL.pdf) 

 

所有権とは 

上記のように、実質的支配者のもう1つの要件として「所有権の25%以上を所有または支配している」があります。SECGでは、所有権について以下のように説明がされています。  

「報告会社は、会社の所有権の25%以上を所有または支配する全ての個人を特定する必要があります。 所有権とは、資本、株式、議決権、資本持分または利益持分、転換可能金融商品、オプション、その他上記のいずれかを売買するための拘束力のない特権、その他所有権を確立するために使用される金融商品、契約、その他の仕組みのいずれかを指します。」 

FinCEN「Small Entity Compliance Guide」から引用、筆者による翻訳
 

CDLブログ24号_図3_Chart4_Ownership_interests

3Ownership interests 

FinCEN「Small Entity Compliance Guide」から引用(https://www.fincen.gov/sites/default/files/shared/BOI_Small_Compliance_Guide.v1.1-FINAL.pdf) 

 

上記のように、FinCENが定義する実質的支配者は、非常に幅広く、あいまいな部分も多く存在しています。幅広く当該企業に影響を持つ個人を把握できる一方、報告企業は、自社の実質的支配者を正しく把握し、報告することが難しいと思われます。また、意図的に犯罪者を隠匿するような報告も可能になり、それを見抜くのも困難になると思われます。今後、本制度が運用される中でどのような課題が出てきて、どのように改善していくのか注目です。 

次回の私のブログでは、「金融庁マネロンガイドラインFAQ改訂とpKYC (Perpetual KYC)」についてご紹介する予定です。 

 

著者紹介

hiro

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

 富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)  

 

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