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FATF『不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス』の内容について(2)


FATF『不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス』の内容について(2)

前号に続き、「FATF不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス」の内容をお伝えします。不動産分野は、DNFBP(指定非金融業者及び職業専門家)に含まれ、FATF勧告の対象となっています。

FATF第4次対日審査では、勧告22(DNFBPにおける顧客管理)、23(DNFBPによる疑わしい取引の報告義務)、28(DNFBPに対する監督義務)などDNFBPに関する勧告において、PC(Partially Compliant:一部履行(不合格水準))との評価を受け、国の行動計画でもそのフォローアップに対する行動内容が示されています。今後、DNFBPにおけるマネロン等への対策が強く求められる中、FATFではどのようなことを求めているのか、当ガイドラインから見ていきます。  

 

CDLニュースレター第18号_図1

図1: FATF不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス 
 
民間業者向けのガイダンス 

ガイドラインの中のPart 3において、民間業者向けのガイダンスが示されていますので、その内容をみていきます。以下で紹介する観点は、不動産業者だけでなく、不動産業者や不動産購入者と取引がある金融機関の方にも参考になるかと思います。 
 
まず、リスク評価は、以下の観点で行われるべきとされています。 

地理的なリスク:営業地域、FATFやその他の地域・国家当局によって高リスクとされた国など 
顧客リスク:取引における関係者とその実質的な所有者におけるリスク 
取引リスク:資金調達の方法およびデリバリー・チャネルを含むリスク 
 
取引リスクの部分は、製品・サービスリスク(プロダクトリスク)として表されることがありますが、上記の考え方は、金融機関における観点とほぼ同じです。また、金融機関におけるガイドラインと同様に、業界における一般的なリスク評価をそのまま適用するのではなく、自社のビジネス形態、規模、周辺環境等を考慮に入れ、独自の評価をすることが求められています。 
 
上記のそれぞれのリスクにおいて、具体的にどのような視点でリスクを特定していくべきかガイドラインで示されていますので、以下に紹介します。 
 
地理的なリスク: 
・その国のAML/CFT体制の有効性及びその体制に欠陥があるか 
・当該国における不動産に関連する脅威と脆弱性の水準と性質 
・適切なAML/CFTの法律や規制がないとされた国の法律の透明性と既存の法的枠組みの遵守の度合い 
・国連などの国際機関による制裁、禁輸、または同様の措置の対象国であるか 
・不動産の所在地 
・買主と売主がどこにいるか、その国でのビジネスの性質と目的 
・資金が海外から調達され、直接顔を合わせることなくビジネス関係が行われているか 
 
顧客リスク: 
・買主又は売主が、例えば汚職、組織犯罪又は重大な詐欺に加担している、又は指定されたテロ組織が活動しているテロ活動に資金や支援を提供しているなど、信頼できる情報源によって特定される高リスクの国の出身であるか 
・顧客が金融制裁の対象リストに記載されているか、または国連などの国際機関が発行する制裁、禁輸または類似の措置の対象になっているか 
顧客がML/TFリスクに関連する業界や産業とつながりがあるか 
・説明のつかない、あるいは確認できない異常な資金源であるか 
・ビジネス関係の始まりやその後の取引において、顧客の行動に一貫性がない、通常ではない状況での対面接触を避けるなどがあるか 
・個人の身元や関与を隠したりするために仲介者や法人を利用しているか 
・不動産購入のために外国企業を利用しているか 
・顧客が異常なまでに取引の早急な成立を求めていないか 
・顧客のプロフィールが、取引の不動産価値に合っているか 
・同じようなプロフィールを持つバイヤーが集団で新築物件や建設前の物件を購入しているか(組織的な住宅ローン詐欺) 
・顧客が、必要な情報や書類の提供を拒否したり、ためらったりする。あるいは虚偽または不正確な情報を提供しているか(例:不正確な住所・ビジネスアドレスの使用、など) 
・顧客の行動パターンが突然変わり、今までなかったような、未知の第三者、弁護士、公証人、金融機関のような第三者を関与させたりしているか 
・顧客企業の企業構造、並びにその所有権及び支配権が、取引の目的上、異例と思われるか 
顧客の評判及びプロフィール、並びに所有者又は実質的支配者について、信頼できる情報源からネガティブなメディア報道又はその他のネガティブな情報があるか 
・所有者、実質的支配者又は密接な関係があると公に知られている者が、何らかのML/TF 活動で有罪判決を受けたか、又はその疑いを持たれているか 
・過去に顧客や実質的支配者に関して疑わしい取引報告書を提出したり、取引関係の過程で顧客や実質的支配者の誠実さや動機に疑問を呈する情報があったりするか 
 
取引リスク: 
・買主または売主に代わって、第三者や海外の口座、または高リスク国として特定された国の個人または事業体を使用して資金を授受しているか 
・取引の一部の透明性を低下させるような暗号資産による決済を提案されたか 
・複雑なローンやその他の異常な資金調達手段(支払先や種類が多様で説明がつかない)を使用しているか 
・約束手形、為替手形、信用状、為替証書、有価証券、その他金融システム外で債務者が現金で支払うことができる譲渡可能な商品を使用しているか 
・説明不可能な、または突然の資金調達の変更があったか 
・現金での手付金や一回限りの多額の現金取引など、売主と買主の間で直接現金のやり取りがあるか 
・正当な理由がない場合、または買主が異常に大きな現金または外貨取引の資金源を開示しない場合に、現金または外貨で一部または全額を決済しているか 
・売主または買主の取引費用や請求書が、取引に関係のない第三者や通常とは異なるルート(例:無関係の金融機関)で支払われているか 
・複数の物件を同時に売買、再販、交換したり、同一物件を短期間に連続して売買したり、説明のつかない価値の変動があったか 
・以前に販売された物件が、明らかな資金源なしに改修され、再度販売されているか 
明らかな経済的合理性のない取引、特に明らかな損失があるか 
・複雑な所有構造を示す取引や、実質的支配者が不明確な取引であるか 
・特定可能な事業活動に従事していない取引に関与している投資会社や不動産管理会社 
・取引完了直前や説明がつかない所有者の変更がないか 
・物件価値の過大もしくは過小評価がある取引の早急なクロージングを要求されたか 
・売却や賃貸の代金を、リスクの高い地域や、明らかに取引と無関係な第三者に送金するよう顧客から依頼されたか 
・顧客が不動産事業者に依頼し、顧客口座に多額の資金を預け、元の取引とは異なる銀行口座への払い戻しを要求しているか 
・不動産の間接的な譲渡、金銭の授受のない個人または法人間の譲渡、および不動産に対する持分権の設定に関わる取引であるか 
 
以上、今号では、「不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス」におけるリスクの特定・評価のための観点についてご紹介しました。次号では、引き続き当ガイドラインの内容から、不動産分野で求められるカスタマーデューデリジェンスの部分をご紹介したいと思います。 
 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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