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FATF『不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス』の内容について(3)


 「FATF『不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス』の内容について(3)」 

前々号(16号)、前号(17号)に続き、「FATF不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス」の内容をお伝えします。本ガイダンスの内容は、今号が最後となります。今号では、不動産業者が実施すべきカスタマー・デュー・デリジェンスの内容をご紹介します。 

CDLニュースレター第18号_図1

図1: FATF不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス 
 
カスタマー・デュー・デリジェンス(CDD) 
 
カスタマー・デュー・デリジェンスについて、以下を踏まえて、施策を定め、実行し、適時見直しを行うべきとされています。 
 
・不動産の専門家は、取引が行われる前に、各顧客及び不動産の実質的支配者の真の姿を知っているという確信を形成しなくてはならない 

・CDDは、顧客と実質的支配者の本人確認と検証、及びビジネス関係の継続的な目的と意図された性質、資金源を詳述する情報を得ることにより、専門家が確信をもってリスク評価できるようにしなくてはならない 

・不動産取引に関与する弁護士と公証人は、取引の決済先について特定のチェックを行うことも選択できる(例えば、買い手のために働いているが、売り手と買い手が関連当事者であると思われる場合、不動産の売り手について調査を実行するなど) 

・銀行は顧客のオンボーディング(新規取引)、住宅ローンの承認、資金の送受信の際に CDDを行うべきであり、DNFPBや不動産業者による措置を補完する規制上の義務に従って独自のディリジェンスを行うことができる。また、銀行とは別に、住宅ローン貸付業者もこれらの業務を行うことがある 

・必要なCDDのレベルを決定するために、不動産専門家は、顧客と取引に関連する ML/TF リスクを特定し評価することができなければならない 

・身元の証跡は多くの形態をとりうるが、リスク評価では、顧客の身元確認と検証のために得て、 不動産の専門家が承認した文書と情報を必要とする。本人確認書類は、それぞれの国で認められている信頼あるものであるべきである 

・顧客リスクの評価は、より高いリスクを持つ人々に対してより大きなチェックを必要とする 

・リスク評価は、買い手と売り手といった異なる立場でのリスクの違い、 及び融資か現金かといった取引の性質の違いを考慮すべきである 

・CDDは顧客確認プロセス以上のものを含み、不動産業者は以下のことを確実にするため、すべての関連情報を収集し、評価しなければならない 

 -すべての顧客とその代理人と称する者の本人確認 
 -実質的支配者の本人確認 
   -追加的な取引も含め、想定される取引の性質、顧客の状況や業務内容に対する十分な理解 
   -資金の出所 

・不動産分野に効果的なAML/CFTの枠組みを導入するためには、買い手と売り手の双方がリスクベースのCDD措置の対象となることが重要である 
 
簡素な顧客管理措置(SDD) 
不動産分野においても、簡素な顧客管理措置(SDD)は許されているが、以下を実行することを求められています。 

・顧客及び取引が ML/TF リスクの程度が低いことが合理的に立証された場合、正当な理由があれば簡素な顧客管理措置(SDD)を実施することができるが、SDDを適用する根拠は、業務の方針と手続きを明確に文書化されるべきである 

・SDD の措置は、国によるリスク評価(NRA)や金融機関のリスク評価によって推奨される場合に適用されるべきである。これには、他の関係者が顧客の身元を確認できる場合や、リスクのある金額が低い場合、 財産、場所、取引システムが単純でリスクが低いと認識されている場合などがあるが、これらに限定されない 

・SDD対応には、以下を含むことが出来る 
  -ビジネス関係が確立された後に顧客と実質的支配者の本人確認をする。(しかし、取引が完了する前に確認を完了する) 
 -本人確認、検証、またはモニタリングのために必要とされる情報の範囲を変更する 
 -本人確認、検証、またはモニタリングのために取得する情報の情報源を、第三者のものから顧客申告に変更する 
 -CDD情報の更新やモニタリングの程度や頻度を減らす 
   -適切性が確認され、現地の規制枠組みにより認められる場合、代理で弁護士または他の有資格者により実施されるデュー・デリジェンスに頼ること 
  -SDDを適用する場合、全ての不動産専門家は、取引関係に関連する ML/TF リスクが低リスクであると合理的に説明できる十分な情報を得たことを確認しなければならない 

・SDD 措置を実施しても、不動産業は疑わしい取引の報告を免除されない 
 
厳格な顧客管理(EDD) 
顧客、第三者、または商取引が高いML/TFのリスクがあると判断された場合、不動産の専門家は、そのリスクと比例したレベルの厳格な顧客管理(EDD)を適用しなければならない、とされています。そして、EDDを適用する根拠は、事業の方針及び手続の中で明確に文書化することが求められています。 
 
不動産業者は、地理的リスク、顧客リスク、取引リスクのいずれかが存在する場合、特に以下の場合、EDDの適用を検討すべきであるとされています。 

・顧客が高リスクの司法管轄区とつながりがある 
 
・顧客がPEP、またはPEPの家族もしくは近しい関係者である 

・複雑な資本構造を意図的に用いて、実質的な所有権を分かりにくくしている 

・顧客が現金を主に取り扱う業務に携わっている場合、または支払原資の透明性を欠いた現金及び/または暗号資産による取引の決済を要求している場合 

・不動産専門家が顧客から十分な情報を受け取れない場合。その際は、以下のことを行わなければならない 
 -顧客の富の源泉または資金の源泉を確認するために合理的な手段を講じる 
 -以前に入手した情報の信憑性または妥当性に懸念が生じた場合、更なるCDD情報を含む顧客に関する追加情報を要求する 
 
不動産取引は、ほとんどの場合が一回限りの特殊な取引であり、継続的なモニタリングの対象とはならないことを考慮すると、このリスクに応じた厳格な顧客管理は、非常に重要な点となるとされています。 
 
実質的支配者 
実質的支配者についても、以下を行うべきとされています。 

・法人の所有権及び支配構造を理解するために必要なあらゆる手段を講じる 

・関連する ML/TF リスクに応じて、受益者に関して必要とされる検証の程度を評価する。適用される追加的な手続き、受益者を特定するためにとられた措置、及び本人確認において生じた問題点を文書化する 

・公的に、もしくは金融機関、DNFBP が入手可能な実質的支配者情報を十分に調査する 

・CDD情報の不足により受益者の本人確認ができない場合、不動産専門家または事業内の関連する従業員(マネーローンダリング報告責任者に限らない)が疑わしい取引報告を行うための明確かつ一貫した方針の策定と関連するトレーニングを実施する 
 
不動産業者にとって、実質的支配者の確認は、新しい概念かと思いますが、金融機関同様の確認が求められていることが分かります。 
 
以上、3号に渡って「不動産分野向けリスクベース・アプローチガイダンス」の内容をご紹介しました。次号では、2022年11月22日にEU司法裁判所が、EU各国に実質的支配者名簿の公開を義務付ける第5次EU指令の規定を無効としたニュースについて取り上げたいと思います。 
 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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