今号から数回に渡り、2023年5月に香港金融管理局により公表された「AML Regtech: Network Analytics」の内容を紹介します。
図1: 香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics」 より引用
香港においても、金融犯罪は、金融システムに重大なリスクをもたらし続けています。技術の進歩に応じて、犯罪組織は新たな犯罪手口を開発しており、金融関係者は、それに対応するためにAML(アンチマネーロンダリング)システムを進化させていかなければなりません。香港では、現在、関係者が一丸となって絶えず変化する脅威に対応するため、取組みを進めています。香港金融管理局(HKMA)は、AMLシステムの中心である銀行部門のために、または銀行部門自身によって、どのように対策ツールを開発すべきかを決定し、革新的なソリューションやプラットフォームを推奨するという重要な役割を果たしています。
今回のレポートでは、ネットワーク分析についての取組みについて、その効果や事例が示されています。
ネットワーク分析に関する取り組みとその効果
詐欺は2022年においてもマネーロンダリングの最も一般的な犯罪であり、香港の銀行部門にとって大きな脅威となっています。以下は、2022年の詐欺事件の状況と、2022年と2021年の比較です。
2022年の詐欺事件の状況:
- 2022年は、27,923件の詐欺事件が記録されている
- 2021年と比較して45%増加している
- おおよそ48億香港ドル(約910億円)の金銭的損失があった
2022年と2021年の比較
- 新たな疑わしい事業体、口座の特定が62%増加した
- インテリジェンスによるSTR(疑わしい取引の届出)が319%増加した
- 差押え、押収した犯罪収益の額が113%増加した
香港では、AMLレグテックの推進により、その利用状況は、2019年の34%から2021年に60%まで増加しています。また、FMLIT(Fraud and Money Laundering Intelligence Taskforce)参加行の60%がAMLにネットワーク分析を導入しており、その結果、AMLの機能がエコシステム全体で向上しているとのことです。
そのネットワーク分析の導入の成功要因については、以下が挙げられています。
- スモールスタート
- 明確な成功基準
- 他分野の協力
- 外部の専門家
- 今すぐ始める
今号では、5月に公表された香港金融管理局「AML Regtech: Network Analytics (May2023)」の冒頭部分をご紹介しました。10月27日(金)に更新する私のブログでは、当レポート内の「ネットワーク分析の事例紹介の内容」を見ていきます。
著者のご紹介
コンプライアンス・データラボ株式会社
代表取締役、CEO
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。
・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)
・公認情報システム監査人(CISA)
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)
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