今回は近年利用者が急増しているスキマバイトの概要や関連して増える不正リスクと対策について解説します。
目次
スキマバイト(スポットワーク)の概要
スキマバイト(スポットワーク)とは
一般社団法人スポットワーク協会が公表する「スポットワーク雇用仲介事業ガイドライン」によると、スキマバイト(=スポットワーク雇用仲介事業)は、「短時間・単発の就労を内容とする雇用契約の仲介事業」と定義されており、特にデジタル技術を用いて時間又は1日単位の雇用契約を仲介する事業を指します。ポイントは次の2点です。
・「雇用契約」を対象とし、「業務委託契約」「請負契約」「委任契約」は除外すること
・「仲介事業」を対象とし、「労働者派遣事業」「労働者供給事業」は除外すること
働き手の目線では、学業や家事の合間に気軽に仕事ができること、報酬を即日受け取れること、履歴書や面接が不要であることなどが特徴です。
登録会員数の急増
慢性的な人手不足への対応策として多様な働き方の推進されている状況下において、日本国内のスポットワーク登録者数は2024年3月末時点から2ヶ月で約700万人増加し、同年5月末時点で約2,200万人にのぼっています。
(出典)株式会社メルカリ
スキマバイトにおけるトラブル
株式会社KiteRaがスキマバイト経験者を対象として実施した「スキマバイトに関する実態調査」(24年5月公表)によると、半数以上の人がトラブルに遭ったことがあることが判明しました。そのトラブルの内容としては、「仕事内容が事前に聞いていた内容と異なる」が52.0%で最多、次いで「労働条件(労働時間や給与など)が異なる」が46.9%という結果になりました。スキマバイトに関する法律の周知、求人側の受け入れ態勢整備などが今後の課題といえます。
(出典)株式会社KiteRa
仲介事業者に求められているコンプライアンスチェック
一般社団法人スポットワーク協会が公表する「スポットワーク雇用仲介事業ガイドライン」は、スポットワーク仲介事業者が遵守すべき事項を取りまとめたものです。そのうち求人および求人者のコンプライアンスチェックに関係する事項を以下に記載します。
(求人等に関する情報の的確表示)
第7条 求人案件について、正確かつ最新の内容に保つための措置を講じるのみならず、虚偽
表示はもとより雇用と請負を混在させる等一般的・客観的に誤解を生じさせる表示を
行わないよう徹底すること。
(違法な求人案件及び問題のある求人者のチェック体制の整備)
第8条 警察が公表している闇バイト事例等も随時参照しながら、違法な求人案件及び問題の
ある求人者の下で就業する求職者が生じないよう、チェック体制を整えること。
実際に、各スポットワーク仲介事業者の求人掲載プロセスにおいては、①求人企業の審査、②求人内容の審査と2段階の管理態勢が構築が必須事項となっています。
スキマバイト(スポットワーク)を取り巻く不正リスク
業界として急成長中であり人出不足解消に大きく寄与するスキマバイトですが、その仕組みを不正利用した事件が多く報道されています。
架空の求人/出退勤による詐欺
2024年2月、大阪府の介護施設運営会社の元社長がスポットワーク仲介アプリに介護施設などの架空の求人を出し、妹らに応募させ、労働の実態がないにも関わらず雇用したように装い、架空の出退勤をスポットワーク仲介事業者に報告させて同社から給料計68万円を詐取した疑いが持たれています。捜査関係者によると実際の被害額は430万円以上にのぼるとみられています。一般社団法人スポットワーク協会によると、複数の仲介事業者から同様の被害が複数報告されているとのことです。
(備考)各種報道をもとにCDL作成
各仲介事業者が立て替えて就労者に給料を即日支払い、後日雇用企業が仲介事業者に返金するという仕組みにおいて、月末の支払いが滞っている雇用企業がいても業績不振による遅延なのか、悪意があって支払わないのか見極めが難しいという実情があります。
各仲介事業者は雇用企業や就労者へのマイナンバーカード、免許証による身分確認の義務付けや信用調査などできる限りの対策を講じていますが、個人事業主が雇用主の場合は調査に限界があるため、根本的な詐欺の防止は難しいのが現状です。
“猫探しで7500円”闇バイト疑惑の求人掲載
2024年11月7日にSNS上で投稿されたタイミーの求人内容について、その怪しさから闇バイトの疑惑が持たれた案件を紹介します。
<当該求人内容>
・勤務時間:深夜帯
・業務内容:指定された道を通り、猫がいたところを地図上で印をつける
・留意事項:情報漏洩防止の為、携帯電話や荷物を預かる
・働くための条件:指示やお願いに素直に行動できる方
(備考)各種報道をもとにCDL作成
裏社会に詳しい専門家は、反社/半グレの世界では防犯カメラや高級車のことを猫と呼称するケースがあるとして、今回の求人も闇バイトである可能性について指摘していています。
2024年11月8日に タイミー は雇用企業と求人内容のチェックを中心に闇バイト対策を徹底していることを公表し、この求人情報を削除しましたが、掲載前に雇用企業のチェックを求める声が挙がっています。
タイミーの利用企業数は全国47都道府県の136,000企業、297,000拠点の事業所にのぼるため(2024年9月公表)、全件に対しての継続的なコンプライアンスコストは膨大であるといえます。
スポットワークにおけるコンプライアンスチェックの必要性
今回の タイミーの案件では、求人情報の掲載から削除までの間に掲載企業と利用者とのマッチング成立がしているケースがあったとされています。このような場合、実際に業務が発生していなくても個人情報が企業にわたってしまう可能性があり、別の事件に巻き込まれてしまうことも想定されため、早い段階で不審な企業を発見する必要性があると言えます。
スポットワーク求人の仕組み内で起きる被害が拡大する中、人手不足解消が期待されるスポットワークの安全性をどう保証していくのかが課題になっています。
・求人企業のコンプライアンスチェックの重要性
申し込み手続きの手軽さやスピーディーに雇用可能な特徴は正当な雇用の場合は利点となりますが、逆に不正利用も簡単にできる要素となるため、厳重なルールやチェックが必要です。
・掲載条件の厳格化 求人掲載可能な事業社かどうかの基準を設定することで、申込前の審査を可能にします。
・求人企業の実態のチェック 社名、住所だけではなく、実体の有無、反社チェック、実質的支配者や代表者の確認まで網羅することで安全性の確立を高めます。また定期的に行うことも重要です。
・求人内容のチェック 求人内容に不審な点がないかチェックすることも重要です。
現状、スポットワークにて公表されている求人企業のチェックは社名・住所における社会的記事の有無と内容の確認が中心となっているようですが、この部分を強化し上記で書いたように「実態の有無の確認」「代表者の確認」というところだけでも確認することでより多くの危険な掲載を避けることができると思います。
まとめ
今回は、注目を浴びるスキマバイトに関する市場概況や仲介事業者の遵守事項、悪用事例について紹介しました。金融機関における不正口座利用の事例と同様に、闇バイトの雇用企業は巧妙に身分を隠し、反社会的勢力と繋がりがないかのように装って求人掲載を行っている可能性があります。その場合、従来通り会社名や代表者名だけで反社チェック照会をかけるだけでは不十分であり、実質的支配者や株主まで網羅的に確認することが必要です。また、一事業者としての取り組みだけでなく、スキマバイトに対する法整備や業界団体によるガイドラインの徹底化、就労者のリテラシー向上など各方面からのアプローチが課題であるといえます。タイミーで話題となった闇バイト疑惑の求人について実際の就労者はいないとされておりますが、SNS上では疑わしい求人に応募して就労してしまった事例が複数報告されています。大きな事件に繋がる前に、社会全体としてコンプライアンス管理を徹底していくことが肝要です。