リスクベース・アプローチ

不動産所有における国籍情報届出義務化 -名義貸しによる抜け穴と特定事業者への示唆

2026年度施行の不動産登記時の国籍届出義務化を解説。制度の全容と、名義貸し(ノミニー)による規制逃れのリスクや犯収法上の実質的支配者確認の限界を考察します。実態把握が厳格化する中、特定事業者が取り組むべき顧客確認の再点検と、リスクベースでのコンプライアンス強化の重要性を提示します。


昨年12月12日付けのブログ「外国資本による不動産取得と法人悪用リスク」では、主に法人を隠れ蓑にした外国資本による不動産取得を取り上げました。その後制度設計は一気に進み、2026年度からは不動産登記の際に国籍情報の届出が義務化され、重要土地を取得する法人についても役員・株主の国籍登録が求められる方向性が示されています。本稿では、国籍情報届出義務化の政策案と背景を整理したうえで、「名義貸し(Nominee/ノミニー)」を用いた抜け穴の可能性や特定事業者への影響を考察します。 

 

目次 

 

 

国籍情報届出義務化の方向性 

法務省は2025年12月、個人が不動産の所有権登記(売買・相続・贈与など)を申請する際に、国籍情報の提供を義務化する省令案を公表し、パブリックコメントを開始しました。2026年度早期の施行が想定されており、対象は日本人を含むすべての個人で、登記申請書に「国籍」を記入し、公的書類で確認することが求められます。提供された国籍情報は、登記所内部の「検索用情報管理ファイル」に保管され、登記事項証明書には記載されないため、第三者からは見えない形で管理されます。現時点では罰則は設けられておらず、行政上の届出義務として運用される想定ですが、これにより政府においては「どの国籍の個人がどの地域の土地を持っているか」という点について、従来に比して高精度な把握が可能になると考えられます。 

一方、法人については、防衛施設周辺や国境離島、水源地などの重要土地、国土利用計画法上の大規模土地取引、一定の森林取得といった取引を対象に、代表者や役員・株主の国籍登録を義務づける方向性が示されています。具体的には、法人がこれらの土地を取得する場合、その法人の代表者の国籍に加え、役員・議決権の過半数を同一の国籍の者が占める場合、その国籍の登録を求める案が公表されています。 

 

 

規制の背景:安全保障と価格高騰 

安全保障面の問題意識は、以下のように整理できます。 

  • 自衛隊・在日米軍基地、原発・エネルギーインフラ周辺で外国人・外国系法人による土地取得が進行。 
  • 重要土地等調査法施行時から「登記情報だけでは外国資本の実態把握が困難」と認識されていた。 
  • 日本法人経由の場合、外国資本支配でも「日本法人」として扱われ、国籍や支配構造が見えにくい。 

こうした状況を踏まえ、個人のみならず法人の国籍構成を把握することで、「どの程度外国資本の影響下にあるのか」をより正確に把握したいというのが規制側の狙いといえます。 

 

次に、不動産価格高騰の文脈は、次のように整理できます。 

  • 都市部マンション価格の高騰が続き、若年層・中堅層の取得難が深刻化。 
  • 外国人購入が一因として注目される一方、主因は建築費高騰や土地供給制約とされる。 
  • 「どれだけ外国人・外国資本が買っているのかが見えない」ことが、不信や政治的論点化を招いている。 

国籍情報義務化は、議論の前提となるデータ基盤を整え、憶測ではなく実態に基づく政策・リスク議論に移行するための措置、と位置づけるのが適切と思われます。 

 

 

ノミニーに対する脆弱性の懸念 

重要土地等を取得する法人について、役員・株主の国籍構成を把握しようとする今回の試みは、それ自体としては大きな前進です。これまで「日本の法人」とされ、支配構造が十分に見えていなかった状況からすれば、実態把握の精度を一段引き上げる政策と言えます。一方、「抜け漏れのないルール」を設計することは容易ではありません。法人向けの新ルール案で用いられている「役員の過半数」または「議決権ベースで株式の過半数」という基準には、ノミニーを使ったスキームに対して次のような脆弱性も懸念されます。  

 スキーム   見かけ上の状態 
日本国籍の代表者を据える 代表取締役は日本人
日本国籍の役員で過半数を固める  役員の過半数は日本人
 多国籍のメンバーで株式保有する  同一国籍の者に占める議決権は過半数未満

このようなケースでは、たとえ商業登記と国籍登録の両方を見ても、形式上は「日本主体」と判断され、たとえ実質的支配者が外国人であっても規制の対象外となる恐れがあります。前号「FATF第5次相互審査結果「ベルギー」」でも取り上げた通り、ベルギーはFATFから予てよりノミニー対策について指摘され続けています。タイなどの東南アジア諸国には外資持分比率や最低資本金等のルールがありますが、形式的に現地人役員を登用し、間接的に株式保有することで、これを回避する事例が過去より問題となってきました。こうした事例からも、「役員・株主の過半数」という形式的な基準だけでは、名義貸しを通じた実質支配を十分に捉えきれないことが示唆されます。 

 

 

犯罪収益移転防止法上の実質的支配者確認と不動産実務 

今回の国籍情報義務化とは別の枠組みですが、すでに犯罪収益移転防止法(犯収法)のもとでは、金融機関だけではなく宅建業者などの特定事業者に対しても、法人顧客の実質的支配者確認が義務づけられていることは周知の通りだと思います。株式会社等では議決権の25%超を直接・間接に保有する自然人を実質的支配者と位置づけ、該当者がいない場合には業務を支配する自然人(代表取締役等)を実質的支配者として扱うことが求められています。 

他方、実務上は商業登記や顧客申告だけでは、複雑な資本構造はもちろんノミニー構造を十分に把握できず、特に海外法人や非居住者が絡む場合は確認負荷が高いという声も少なくありません。File.03 大手ハウスメーカー地面師詐欺事件 | 未解決事件 | NHKでは、大規模な地面師詐欺において、驚くほど数多くのノミニーや「犯罪目的で、他人になりすます・名義を借りる人物(Straw Man/ストローマン)」が介在していることが報じられています。 

今回の国籍情報届出義務化によって得られる国籍情報は、あくまで登記所内部や政府内で利用される「非公開情報」であり、民間事業者が直接参照することは想定されていません。それでも、犯収法の大きな目的がマネーロンダリングやテロ資金供与の防止であり安全保障とも密接に関わる以上、政府が国籍情報をもとに不動産所有の実態把握を進めようとしている事実は、特定事業者の顧客管理水準にも少なからず影響を与えると考えられます。 

 

 

まとめ 

不動産所有における国籍情報届出義務化は、「誰が日本の土地を所有しているのか」を可視化するうえで重要な一歩ですが、それだけではノミニーやシェルカンパニーを通じた支配の全体像までは見えてきません。登記上の名義や国籍にとどまらず、その背後にいる実質的支配者までを視野に入れたうえで、リスクベースの対応を進めていく重要性は、ますます高まっています。このタイミングで、自社の顧客確認プロセスを見直し、必要なギャップ対策を整理しておくことが、コンプライアンス対策に大きな意味を持つでしょう。 

 

 

 

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(20
23年6月15日発表のプレスリリース)

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