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不活動宗教法人を利用したマネロン問題

今回は宗教法人を利用したマネロン等の問題点について取り上げます。昨今の宗教法人の現状と取り巻く環境を整理し、マネロンや脱税など、違法行為に巻き込まれる可能性について解説します。また当局の対応や今後の動向を踏まえ、FATF第5次対日相互審査にも関連する今後の対応について考えます。


昨今、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に関する「政界との癒着」や「高額献金」、「霊感商法」など問題が数多く報道されています。また、宗教法人と聞くと「坊主丸儲け」を連想するように、世間一般としてあまり良いイメージは持たれていないかもしれません。今回は宗教法人を利用したマネロン等の問題点や当局の対応動向について解説します。 

 

目次 

 

 

宗教法人の概要 

宗教法人とは 

宗教法人法第二条において、宗教法人は次のとおり定義されています。 

「この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。 

一. 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体 

二. 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類   
する団体」
 

 

一般的には前者を単位宗教法人、後者を包括宗教法人といいます。 

 宗教法人の種類

 

 

税法/犯収法上の位置づけ 

宗教法人は、税制上の「公益法人等」に該当します。お布施などの宗教活動で得た収入(公益事業)にかかる法人税、礼拝施設の土地・建物の相続税、固定資産税は非課税となります。その他、駐車場運営など、34個の収益事業を行うことが認められており、これらにも免税措置があります。 

しかし、実際には公益事業と収益事業の違いを明確に識別することは容易ではありません。例えば、お札/お守りを販売する場合はその目的や対象によって識別されます。 

・売価と仕入原価との差額が実質は喜捨金(宗教活動に関わる寄付金)と認められる場合:公益事業 

・一般の物品販売業者とおおむね同様の価額で参詣人などに販売している場合:収益事業 

 

国税庁の検査官のように外の立場だと実態を把握することが困難であり、これが脱税の温床となっている原因です。 

 

【収益事業34個】 

物品販売業/不動産販売業/金銭貸付業/物品貸付業/不動産貸付業/製造業/通信業/運送業/倉庫業/請負業/印刷業/出版業/写真業/席貸業/旅館業/料理店業その他の飲食店業/周旋業/代理業/仲立業/問屋業/鉱業/土石採取業/浴場業/理容業/美容業/興行業/遊技所業/遊覧所業/医療保健業/技芸教授業/駐車場業/信用保証業/無体財産権の譲渡又は提供を行う事業/労働者派遣業 

 

犯収法上は、非資本多数決法人として一般社団法人や合同会社などと同様にその実質的支配者は「代表する権限を有する者」として定義されています。 

 

不活動宗教法人の増加 

住職の後継者不足などの要因により、宗教法人の総数は減少傾向にあります。一方で不活動宗教法人の数は23年から急増しています。これは23年3月より文化庁が不活動認定の基準を明確化し、各都道府県に示したことが要因です。 

【不活動認定の基準】 

・役員名簿や財産目録が2年以上不提出(目安) 

・催促状が不達 

・不活動の申し出あり 

 グラフ, 折れ線グラフ

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

(出典)文化庁統計資料よりCDL作成 

 

 

実態把握の背景 

文化庁は不活動宗教法人の実態把握を強める姿勢を示したのは、次の2つの背景があります。 

 

1.旧統一教会を巡る国会の動き 

安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、旧統一教会と政治家の癒着が大きな問題となり、国会でも議論が活発化しました。高額献金や霊感商法の被害者を救済するための被害者救済法が2022年12月に成立し、2023年1月から施行されましたが、旧統一教会に限らず全宗教法人の財務状況や活動内容に関する透明性を高めることの必要性が指摘されました。 

 

2.FATF(金融活動作業部会)による指摘 

FATF第4次対日相互審査報告書によると、次の内容が指摘されています。 

「日本では、NPO 等セクターに関するテロ資金供与リスクについての理解が十分ではなく、テロ資金供与に悪用されるリスクがある一部の NPO 等に対し、リスクに基づいた具体的措置を講じていない。複数の日本の NPO 等がリスクの高い地域で重要な活動を行っており、日本の当局による NPO 等セクターへの効果的なアウトリーチやガイダンスを早急に強化する必要がある。」 

 

 

不活動宗教法人の問題点 

不活動宗教法人を放置した場合、第三者により法⼈格が不正に取得され、脱税やマネロン等の違法⾏為につながるおそれがあります。 

 第3者による不正法人格取得による脱税・マネロン等の懸念

 

上記のスキームを助長しているのが、節税への活用を謳って、宗教法人の売買を呼びかけるインターネット上の仲介サイトの存在です。 

文化庁はHPにて「宗教法⼈法は、第三者が法⼈格を取得し、宗教活動以外の⽬的に法⼈格を利⽤する事態を想定しておらず、法の許容するところではない」としてこれら仲介サイトを利用しないように呼びかけています。 

 

25年2月時点、実際に売却案件を掲載するWebサイト】 

「京都市内に有ります。京都のペーパー中々出ません、貴重です おすすめ度 ★★★★」 
「神奈川で出ました、希少価値あり 霊園、納骨堂するには最適です 銀行口座あり おすすめ度 ★★★」 
などの文字が立ち並んでいます。 

 グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

 

 

 

文化庁の対応 

23年3月以降、文化庁は不活動宗教法人対策に向けた各種取組を強化しています。 


【不活動宗教法⼈対策会議の開催】
 

・⼤規模なものを含む
62の包括宗教団体と、28の都道府県の担当者に向け、不活動宗教法⼈対策について説明 


 
【都道府県宗教法⼈事務担当部課⻑会議】 

・不活動宗教法⼈への具体的対策について、⽂化庁と各都道府県で意識を共有
 


 
【⽂部科学⼤⾂所轄の不活動宗教法⼈の把握・整理】

・ ⽂部科学⼤⾂所轄の不活動宗教法⼈について、事実関係を順次調査・確認。 

・ 令和5年度は既に1件の不活動宗教法⼈について解散命令を請求 


 
(出典)文化庁 令和5年11月「宗教法⼈の売買に類似した取引による違法⾏為の助⻑を防⽌するための取組について」より 

 

文化庁は、足元では不活動宗教法人の実態把握を進めておりますが、中長期的には総務省等の関連省庁と連携してインターネットプロバイダやSNS事業者への規制呼びかけや宗教法人の改正および罰則規定など、不正な売買の根絶に向けた取り組みを本格化させることが考えられます。 

 

 

まとめ 

今回は、不活動宗教法人の現状や問題点と文化庁の取り組みについて紹介しました。2028年のFATF第5次対日相互審査を控える中で、包括的なマネロン対策を実現するためには、文化庁だけでなく、警察庁や預金取り扱い事業者やインターネットプロバイダなど幅広いプレイヤーがそれぞれ適切な取り組みを行うことが重要です。 

 

 

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