2025年12月、FATFおよびAPGは、マレーシアに対する第5次相互審査報告書(Mutual Evaluation Report:MER)を公表しました。 本評価は、2015年の第4次相互審査以降の法令整備状況と、その有効性を検証するものです。
本稿では、勧告10(顧客管理)・勧告24(法人の実質的支配者)・IO.5(法人等の悪用防止)を軸に、特に実質的支配者(Beneficial Ownership:BO)への対応に焦点を当てて整理します。
目次
1.第4次相互審査(2015年)からの流れと指摘事項
2.第5次相互審査(2025年MER)の結果概要
3.主な指摘事項(勧告10/勧告24/IO.5と実質的支配者
4.対日審査に向けたポイント(実務・政策の観点)
5.おわりに
1. 第4次相互審査(2015年)からの流れと指摘事項
マレーシアは、第4次相互審査(2015年)において、法人・法的取決めの悪用防止および実質的支配者の透明性に関して、構造的な課題を指摘されていました。
主な論点は以下のとおりです。
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法人の実質的支配者情報について、体系的かつ一元的な収集・管理の仕組みが不十分
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実質的支配者の定義が曖昧で、ノミニー株主や間接支配を通じた構造への対応が限定的
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捜査・監督当局が迅速かつ確実に実質的支配者情報へアクセスできない場面がある
これらを背景に、マレーシアは2015年以降、Companies Actの改正やガイドライン整備を段階的に進め、次回審査に向けた改善を重要政策課題として位置づけてきました。
2. 第5次相互審査(2025年MER)の結果概要
2025年MERでは、マレーシアのAML/CFT体制について、「法制度と監督枠組みは着実に強化されている」との全体評価が示されています。
特に以下の点が肯定的に評価されています。
一方で、FATFは一貫して、「制度が存在すること」と、それが「実務でどの程度機能しているか」は別問題であるとの姿勢を取っており、実質的支配者の分野についても「有効性」が重要な評価軸とされています。
3. 主な指摘事項 ― 勧告10/勧告24/IO.5と実質的支配者 ―
【勧告10(顧客管理)】
金融機関については、CDD・EDDを通じた実質的支配者確認の法的義務は概ね整備されていると評価されています。
ただし、以下の点が課題として指摘されています。
FATFは、実質的支配者を「形式的に特定する」ことではなく、「最終的な支配・支援関係を合理的に説明できるか」を重視しています。
【勧告24(法人の実質的支配者)】
今回の審査において、最も前進が見られた分野の一つが勧告24です。マレーシアは以下の改善措置を講じました。
これにより、勧告24の法令整備状況の評価は改善しています。
一方でFATFは、制度導入からの期間が短いため、実質的支配者情報の正確性・更新性・監督・制裁の有効性は、今後の検証が必要との慎重な評価を示しています。
【IO.5(法人等の悪用防止)】
IO.5は、法人の実質的支配者等の透明性がどれだけ機能しているか有効性を測る指標です。
マレーシアでは、以下の点が一定程度評価されました。
しかし、FATFは同時に、以下の課題を挙げています。
これらの点から、IO.5の有効性にはなお改善余地があると結論づけています。
4. 対日審査に向けたポイント(実務・政策の観点)
マレーシアのMERは、日本の次回相互審査を考えるうえでも示唆に富んでいます。 特に実質的支配者の分野では、以下の点が共通課題となり得ます。
【実務面のポイント】
- 実質的支配者を「確認したか」ではなく、合理的な説明・記録・更新ができているか
- 複雑構造・外国法人を含む場合の検証プロセスの有無
- 形式的CDDとリスクベース・アプローチの乖離の解消
【政策・制度面のポイント】
FATFが重視するのは一貫して、「制度があるか」ではなく、「それがどのように運用され、成果を生んでいるか」です。
おわりに
前回の私のブログでは、ベルギーのFATF第5次相互審査結果を取り上げました。
参考:FATF第5次相互審査結果「ベルギー」
https://c-datalab.com/ja/blog/compliancerisk_20260116
今回のマレーシアの第5次FATF相互審査結果と合わせて俯瞰すると、両国は置かれた制度環境や成熟度こそ異なるものの、共通して「制度の存在」から「実際に成果を生んでいるか」へと評価軸が明確に移行していることが読み取れます。
ベルギーでは、実質的支配者登録簿やCDDの枠組みが既に整備された後の段階として、その正確性・更新性・実務での活用度が厳しく問われました。一方、マレーシアでは制度整備を進めた成果は評価されつつも、それが捜査・没収・国際協力において実質的支配者情報がどこまで機能しているかが、今後の焦点とされています。
この視点は、日本にとっても重要な示唆を含みます。次回相互審査に向けて求められるのは、制度の有無だけでなく、既存の情報やプロセスをどのようにつなぎ、継続的なリスク判断や具体的な対応につなげているのかを示すことです。FATFが重視する「有効性」は、今後、金融機関やDNFBPsにとって、コンプライアンス対応の前提条件となっていくでしょう。
参考:FATF報告書「Malaysia's measures to counter money laundering, terrorist financing and proliferation financing」
https://www.fatf-gafi.org/content/fatf-gafi/en/publications/Mutualevaluations/mer-malaysia-2025.html
◆著者のご紹介
コンプライアンス・データラボ株式会社
代表取締役、CEO
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)
富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開。2021年4月CDLを設立し、現在に至る。
・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)
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