データ管理

MDMにおける企業識別番号の注意点 

今回は、企業識別子について解説します。MDMを行う上で非常に有用な企業識別子ですが、国ごとに状況は異なり、共通のルールはありません。各国の企業識別子における使用ルールや信頼性、利点、および欠点について説明します。また世界各国の企業識別番号(ID)について紹介します。


企業識別子は、関連法域の政府当局との取引においても、商業取引先データの管理(MDM)においても、非常に有用です。 今回のブログでは、MDMのための企業識別子の使用や信頼性、利点、および欠点について説明し、世界各地の企業識別番号(ID)を紹介します。


目次

-企業識別番号とは?

   1.事業体
   2.一意の識別子
   3.管轄区域

-その他の識別番号 

-世界各国の企業識別番号事例

-ビジネスIDの利用方法、利点、および欠点

 

 

企業識別番号とは? 

このブログの目的上、企業識別番号(Business Identification Number、Business ID)とは、ある管轄区域において、関連する行政当局が企業体に割り当てる公式で一意の識別子(通常は番号)と定義します。 

 国税庁法人番号公表サイト

国税庁法人番号公表サイト 


オーストラリアなど、管轄区域によって、企業は常に企業識別番号で自らを識別しなければならないと義務付けられていますが、米国など他の市場では、単一の番号体系がないため、使用に関する明確な規定がありません(これらの管轄区域に関する詳細は後述します)。 

上記の定義では、注意すべき3つの重要な用語があります: 

  1. 「事業体」
  2. 「一意の識別子」
  3. 管轄区域」

ここでの微妙な違いは非常に重要です。例えば、単一の統一された企業監督機関(日本の国税庁、オーストラリアのASIC、英国のCompanies House、ニュージーランドのNZCoなど)を持つ法域に住む人々は、単一の機関を持たない国(米国、インドなど)の法域の識別子を扱うことに戸惑いを感じるかもしれません。

 

 

1.「事業体」 

一般的な会話の中で「事業体」と言うとき、通常は企業を指すことが多いですが、これは確かに最も一般的なケースです。 しかし、個人事業主、パートナーシップ、組合、生協・業界団体、慈善団体など、商業の世界で重要な事業体は他にもあります。 市場によっては、どの事業体を登録しなければならないか、または登録できるか、そして政府機関のどの部署に登録するかについての規則は大きく異なります。 例えば、慈善団体を税務署に登録することは一般的ですが、企業の監督機関には登録されないことが多いです。というのも、多くの国では慈善団体とその活動を規制する別個の機関が存在するからです。 

そのため、多数の国が収録されるデータベースに「国別ID」を追加しようとしている場合、同じ国内であっても、どのような識別子を追加しようとしているのかを知ることが重要です。 例えば、MDMシステムには、電話番号やVATコード(付加価値税登録番号)などを検証する「整合性チェック」ルーチンが一般的に組み込まれています。 これらを慎重に設定しないと、特定のIDパターンに対して、IDが長すぎる、短すぎる、または不正な文字を含むなどの理由でシステムにIDを追加できないことがあります。

その点、当社と我々の国際的なデータパートナーは、あらゆる国の企業識別番号のデータのキュレーションのためのベストプラクティスとアプローチについてアドバイスすることができます。 

 

 

2.「一意の識別子」 

一見すると、各国の政府が独自の識別子を発行するというのは簡単な概念に思えるかもしれませんが、実際にはそうとは限りません。例えば、世界中にオフィスを持つ多国籍の取引先と取引する場合、彼らが提供する一意の企業識別子(または各事業体に対する識別子のセット)が本当に一意であるかどうかは疑問です。というのも、同じ形式の企業識別番号を持つ国がいくつか存在するため、識別子が世界中のどのビジネス事業体でも一意であるとは限らないのです(つまり、同じ番号がそのその国内の異なる企業を指す可能性があるのです)。そのため、識別子が本当に一意であると仮定する際には注意が必要です。 

オーストラリア国内の複雑さについての例を挙げましょう。オーストラリア連邦政府は、オーストラリア会社番号(ACN)と呼ばれる9桁の企業識別番号を使用しています。この番号は企業を一意に識別しますが、個人事業主や登録ビジネス名には適用されていません。さらに、オーストラリア税務局(ATO)によって発行される11桁のオーストラリア事業番号(ABN)も存在します。個人事業主はACNを持っていませんが、ABNは必要とします。また、ほとんどの企業のABNは、ACNに2桁の数字を加えたもので、システムに不慣れな人にとっては、混乱を招くことがあります。 

 オーストラリア最大の銀行のひとつ、ウェストパックのACNとABN

オーストラリア最大の銀行のひとつ、ウェストパックのACNABN

 


 

3.「管轄区域」 

企業識別番号の一意性と有用性は、最終的にはその番号(ID)が発行された法域に依存します。データ管理の観点からは、単一の国全体で一意のIDを持つことが最も望ましいですが、アメリカやインドなど多くの国には地方の登録機関があります。アメリカには、50の州の登録機関(およびSECのような連邦当局)があり、これらの登録機関はビジネス登録の維持に対して異なるアプローチを取っています。このため、「フォーラムショッピング」と呼ばれる現象が生じ、企業は規制が緩和されている、または税制上の優遇措置がある地域を探し求め、営業している州とは別の州に登録することを選択します。因みに、米国では優遇措置が受けられるという事でデラウェア州が最も人気があります。 

取引先の管理に企業識別番号を使用する際には、これらの要素に注意を払う必要があります。国の納税者番号(VAT番号、ABNなど)を常に使用するのは簡単に思えるかもしれませんが、その番号は納税主体に付随するものであり、企業によっては海外のグループ会社の現地代表である場合があります。また、ビジネスIDは、住所や会社との取引に使用するその他の実際の連絡先情報に関連付けられていないことが多く、検証を難しくしています。 我々は営業支店と取引しているのに、登記上の住所はまったく異なり、しばしば実際の事業活動を行わない持株会社の住所であることが多いのです。 

 

 

その他の識別番号 

このような課題を解決するために特別に作られた識別番号(ID)もあります。 

Legal Entity Identifier (LEI) 

LEI は GLEIF(https://www.gleif.org/enを参照)が所有する第三者固有の識別子です。 公式ウェブサイトによると: 
法人識別コード(LEI)は、国際標準化機構(ISO)によって策定されたISO 17442標準に基づく20文字の英数字コードです。このコードは、金融取引やその他の公式なやり取りに参加する法的実体の明確かつ一意の識別を可能にする重要な参照情報と接続されています。 

 LEI Search 機能.

LEI Search 機能(gleif.org 

これは理想的に思えるかもしれませんが、LEIは特定の種類の事業体にしか適用されず、一般的に証券取引に関与する企業にのみ義務付けられています(しかもすべての法域で義務付けられている訳ではありません)。ヨーロッパでは採用が比較的高いですが、他の地域では一貫性がありません。たとえば、世界中で約200万件のLEIが使用されていますが、米国で登録されているLEIは約25万件に過ぎず、法人登録数の多い国であることを考えると、これは地域のビジネスユニバースのほんの一部に過ぎません。また、LEIへの参加にはコストがかかり、発行はGLEIFによって認定された一連の組織によって管理されています。金融取引に参加できる「法人」だけがLEIを取得でき、自然人は明示的に除外されています。したがって、個人事業主は除外されます。 

 

Dun & Bradstreet D-U-N-S Number 

ダン・アンド・ブラッドストリートの「データ・ユニバーサル・ナンバリング・システム」(DUNS)は1963年から存在し、D&Bは1800年代から企業登録を行っています。 

 データ・ユニバーサル・ナンバリング・システム

ウィキペディアより: 
DUNSナンバーとは、D&Bが発行する9桁の番号で、D&Bデータベースに登録された各事業所に割り当てられ、事業所を識別する目的で、ユニークで、独立した、別個の操作を行うものである。DUNSナンバーはランダムであり、数字には明白な意味はない。 

DUNSナンバーには、「所在地の事業」を一意に特定できるという利点があり、事業の各支店が独自のDUNSを持つことになります。 ダン・アンド・ブラッドストリートとその世界中のパートナーは、これらのエンティティが適切にリンクされ、リンクが最新に保たれていることを保証する責任があります。DUNSはD&Bとそのパートナーが所有・管理しているため、DUNSの利用にはD&Bまたは現地法人との商業契約が必要です。 

Experian、Equifax、Moody's、Thompson Reutersといった他の企業も、国内外の市場において、カバレッジの差こそあれ、データベースや 番号を保持しています。

 

 

世界各国の企業識別番号事例 

日本 

管轄区域 

日本 

機関 

国税庁 

ID  

法人番号 

形式 

13 桁の数字 

規模 

5百万 

 

4050001050399 

 国税庁法人番号システム

 

英国 

管轄区域 

英国 

機関 

Companies House 

ID  

Company Registration Number (CRN) 

形式 

8桁の英数字 

規模 

5百万+ 

 

00030209 

 CRNは、英国の会社設立時に英国会社庁(Companies House)から発行される固有の識別子です。CRN8桁の英数字で構成され、数字またはアルファベットと数字の組み合わせで、所在地や会社の種類によって異なります。 

 

オーストラリア 

管轄区域 

オーストラリア 

機関 

ASIC 

ID  

ACN 

形式 

9 桁の数字 

規模 

2.7百万 

 

007457141 

 オーストラリアのすべての会社は、登録時にASICからユニークな9桁の番号が発行されます。これは、オーストラリア会社番号(ACN)であり、すべての会社書類に表示する必要があります。 

 

シンガポール 

管轄区域 

シンガポール 

機関 

ACRA 

ID  

UEN 

形式 

9桁または10桁の英数字 

規模 

600千 

 

200009731R 

 シンガポール固有事業体番号(UEN)は、ACRA(会計企業規制庁)に登録された事業体に対してシンガポール政府が発行する識別番号です。UEN9桁または10桁の英数字で、永続的かつユニークな番号であり、事業体が政府機関や民間機関と便利にやり取りするための単一の識別子として機能します。 

 

米国 

管轄区域 

米国 

機関 

SEC (上場企業のみ) 

ID  

CIK 

形式 

10桁までの数字 

規模 

4千 

 

0001318605 

 アメリカには統一された番号制度や登録制度はありません。企業の登録は州ごとに管理されており、多くの企業はデラウェア州など、優遇を受けやすい特定の州の登録を選択しています。米国証券取引委員会(SEC)は、主に上場企業などSECへの申請が必要な企業のためにセントラル・インデックス・キー(CIK)の登録を管理しています。この統一性の欠如が、ダン・アンド・ブラッドストリート社のDUNSなどの民間の番号制度がアメリカで広く使われている理由です。 

 

中華人民共和国 

管轄区域 

中国(中華人民共和国) 

機関 

多数:地域ごと機関が設けられている 

ID  

統一社会信用コード 

形式 

18 桁の英数字 

規模 

188百万 

 

91350100M000100Y43 

 USCC(統一社会信用コード)の最初の6桁は登録機関を表し、次の8桁は会社の種類や所有者を区別するシーケンス番号です。国内企業は0から3で始まるシーケンス番号を持ち、外国投資企業は4または5で始まるシーケンス番号を持ち、個別に登録された企業は6から9で始まる登録番号を持っています。最後の1桁はチェックディジットです。 

香港は依然として独自の企業登録制度を維持しています: 

管轄区域 

香港(中華人民共和国) 

機関 

香港税務局 

ID  

BRN 

形式 

8桁の数字 

規模 

370千 

 

00015833 

 

Taiwan (ROC) 

管轄区域 

台湾(中華民国) 

機関 

MOEA - 経済部 

ID  

Unified Business Number (UBN) 

形式 

8桁の数字 

規模 

800千 

 

53673862 

 統一事業番号(UBN)は、経済部によって各企業に割り当てられる一意の8桁の番号で、政府との取引における識別目的で使用されます。 

 

インド 

管轄区域 

インド 

機関 

企業省 

ID  

Corporate Identification Number (CIN) 

形式 

21桁の英数字 

規模 

800千 

 

L01631KA2010PTC096843 

 インドの企業識別番号(CIN)は、21桁の英数字コードであり、MCA(企業担当省)下にある各州のROC(登記官)によって登録された国内企業に発行されます。CINはかつて企業が登録される際に利用されていた18種類の異なるビジネスIDを統合し、使い勝手が良くなるよう21桁のCINに置き換えています。CINには多くの情報が含まれています。詳細な説明については、このリンクを参照してください。 

 

 

ビジネスIDの利用方法、利点、および欠点 

ビジネスIDを利用して商業的な連絡先を管理することは非常に価値があります。これは、データをチェックするための独立した参照を提供し、また永続的であるため、企業の変更が適時に登録に反映されることを意味します。 

しかし、登録情報やその他の政府情報だけに頼って、例えば現在事業が活動中かどうかを確認するのはリスクがあります。政府の記録はしばしば遅れており、多くの企業閉鎖は「グレー」なものです。つまり、事業活動が停止しても正式な通知や宣言がないということです。 

同様に、ネガティブな出来事や行政制裁(例:起訴、罰金、懲戒、リコールなど)を探すことも非常に時間がかかります。これらのデータは多くの場合、異なるウェブサイトや法域(例:都道府県)に分散して保管されています。 

ここで、弊社のような企業が大いに役立ちます。弊社は、お客様のデータを統合された記録と照合し、また多くの政府、民間、その他のソースをスキャンして「ネガティブな出来事」を収集します。この数は着実に増加しており、常に提供者の利用規約に沿って倫理的にデータを収集しています。 

 

参考URL 

Japan -法人番号公表サイト 

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/

Australia - ASIC 

https://asic.gov.au 

UK – Companies House 

https://www.gov.uk/government/organisations/companies-house 

New Zealand – NZCO 

https://www.companiesoffice.govt.nz 

USA – SEC CIK Lookup 

https://www.sec.gov/search-filings/cik-lookup 

Tax Numbers by country - Fonoa 

https://www.fonoa.com/blog/tax-number-formats-around-the-world 

India CIN explained - TimeChamp 

https://www.timechamp.io/blogs/what-is-corporate-identification-number-cin/ 

Taiwan UBN Search 

https://findbiz.nat.gov.tw/fts/query/QueryBar/queryInit.do 

Australia ACN Search 

https://asic.gov.au/online-services/search-asic-registers/

China USCC Search 

https://www.registrationchina.com/china-company-search/

US SEC CIK lookup 

https://www.sec.gov/search-filings/cik-lookup

NZ NZCO Search 

https://companies-register.companiesoffice.govt.nz/ 

 

著者のご紹介

ウオリック・マセウス 

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ウオリック・マセウス(Warwick Matthews)  
最高技術責任者 最高データ責任者

複雑なグローバルデータ、多言語MDM、アイデンティティ解決、「データサプライチェーン」システムの設計、構築、管理において15年以上の専門知識を有し、最高クラスの新システムの構築やサードパーティプラットフォームの統合に従事。 また、最近では大手企業の同意・プライバシー体制の構築にも携わっている。  

米国、カナダ、オーストラリア、日本でデータチームを率いた経験があり、 最近では、ロブロー・カンパニーズ・リミテッド(カナダ最大の小売グループ)および米国ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)のアイデンティティ・データチームのリーダーとして従事。  

アジア言語におけるビジネスIDデータ検証、言語間のヒューリスティック翻字解析、非構造化データのキュレーション、ビジネスから地理のIDデータ検証など、いくつかの分野における特許の共同保有者でもある。

 

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コンプライアンス・データラボ代表取締役の山崎博史を含む国内外のコンプライアンス専門家やデータマネジメントのスペシャリストが、お客様のコンプライアンス管理にまつわる国内外の最新情報やトレンド、重要な問題を解説します。当ブログを通じて最新のベストプラクティスやガイドラインの情報も提供します。
 
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