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【2023年3/10公表】FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の内容について(3)


 FATF「実質的支配者に関するガイドライン」の内容について(3)

前号では、3月10日に公表されたFATF「実質的支配者に関するガイドライン」の中から「10. 登録簿アプローチ」をご紹介しました。今号は、「11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴」の内容を紹介します。  

CDLニュースレター第27号_図1

図1:FATF GUIDANCE ON BENEFICIAL OWNERSHIP FOR LEGAL PERSONS

ガイドライン全体構成 

以下は、ガイドラインの目次です。この中から今号では、「11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴」について見ていきます。 
1. はじめに  
2. 法人に関連するリスクの把握と評価 
3. 基本情報  
4. 実質的支配者情報  
5. 実質的支配者に対する多面的アプローチ  
6. 適切な実質的支配者情報 
7. 正確な情報 - 実質的支配者情報の検証手段 
8. 最新の基本情報および実質的支配者情報 
9. 企業アプローチに基づく企業の義務 
10. 登録簿アプローチ  ←前号、第26号で紹介 
11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴←今号、第27号で紹介 
12. 追加的補助手段 ←次号、第28号で紹介予定 
13. 情報へのアクセス  
14. 無記名株式および無記名新株予約権の悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
15. ノミニーアレンジメントの悪用リスクを防止・軽減するためのメカニズム 
16. 制裁措置  
17. 実質的支配者の義務と他の勧告(電信送金や仮想資産の要件)との関係 
18. 関連する規制制度の適用性  
19. 国際協力 
 
11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴 

前号にて、登録簿アプローチをご紹介しましたが、FATFガイドラインでは、「適切、正確、かつ最新の実質的支配者情報への効率的なアクセスを管轄当局に提供するもの」であれば、登録簿アプローチに限定せず、その代わりとなる仕組み(以降、代替メカニズムと呼びます)を使用することができるとしています。 
 
代替メカニズムを採用する国は、制度設計において、以下の事項を考慮する必要があるとしています。 
 
i. 法的/運用的枠組み: 管轄当局による当該情報へのアクセスを可能にし、また、その情報源が他の関連当局に当該情報を開示することを許可する、明確な法的枠組みがあるか。情報開示に対して、情報源を保護する法的枠組みがあるか。情報源に、情報を適時に当局に開示することを要求する法的枠組みがあるか。特定の法的枠組みがない場合、管轄当局は代替メカニズムを用いて情報を求めるのに十分な権限を有しているか。 
 
ii. 対象範囲:外国法人を含むすべての関連する法人をカバーするために十分に広く対象範囲が設定されているか。また、特定の金融機関や DNFBPs の顧客ではないML/TF のリスクがある国内法人を対象範囲としているか。 
 
iii. リソース:代替メカニズムに責任を負う主体は、適切、正確かつ最新の実質的支配者情報を確保するために十分な人的及び資本的リソースを有しているか。 
 
iv. 認識: 所轄官庁(特に法執行機関及び金融商品取引所)が、適切かつ正確で最新の実質的支配者情報にアクセスできる代替メカニズムを認識するための明確なガイドラインがあるか。代替メカニズムを通じて実質的支配者情報にアクセスする方法について明確な理解を持っているか。実質的支配者情報の提供者は、代替メカニズムの下での開示義務について明確に理解しているか。 
 
v. 応答性: 所轄官庁が代替メカニズムを通じて実質的支配者情報を求める場合、その情報へのアクセスは迅速かつ効率的か。迅速なアクセスを促進するための特定のプロセスやシステムがあるか。例えば、実質的支配者情報が異なる主体によって保有されている場合、所轄官庁は、異なる主体から情報を受け取る際の不当な遅延を避けるために、単一の窓口または実質的支配者情報を保有する当事者との間で、情報へアクセスできるプロセスを確立しているか。 
 
vi. 品質(情報の正確性、最新性): 代替メカニズムは、完全で信頼できる情報を提供しているか。情報が適切、正確、かつ最新のものであることを保証するための措置が講じられているか。代替メカニズム自体が情報源ではない場合、基盤となる情報源は、適切、正確、 かつ最新の情報を有するという目的を満たしているか(すなわち、情報を保有する情報源は、実質的支配者情報の品質管理及び検証措置を実施しているか)。実質的支配者情報を保有する情報源は、会社法及び/又は複雑な法的構造に関する十分な理解及び知識、並びに適切に実質的支配者の特定を支援するその他の関連する専門知識を有しているか。権限ある当局が、実質的支配者を特定するために複数の情報源に依存している場合、そのデータは情報源の間で一貫しているか。データの相違が解決されるプロセスはあるか。 
 
vii. 監督とデータ保護: データ保護と機密保持を考慮しつつ、代替メカニズムが実質的支配者情報への効率的なアクセスを確保するために、適切な監視、監督措置、または同等のメカニズム(例えば、適切な制裁)が実施されているか。実質的支配者情報を保有する主体は、データ保護を確保するために、適切なアクセス・プロトコルとセーフガードを設けているか。実質的支配者情報を求める所轄官庁は、データ保護を確保するために適切なアクセス・プロトコルとセーフガードを設けているか。 
 
また、ガイドラインでは、各国が代替メカニズムを構築するために活用できる情報源(CDD情報に基づくもの)として以下を例示しています。 
a) 銀行口座登録時の法人情報 
b) 法人と継続的にビジネス関係を有する金融機関/DNFBPs に関する情報を有する公的機関  
c) 金融機関等と借入関係を有する法人の最新情報を収集し維持する信用情報機関のシステム 

 
ガイドラインでは、金融機関/DNFBP が勧告10/22(顧客管理) に従って取得する実質的支配者情報は、それだけでは、代替メカニズムとして適切であるとは言えないが、代替メカニズムの1つとしてこの情報を利用することは考えられる、としています。また、新しいデジタルソリューションは、この代替メカニズムを強化する可能性があるとしています。日本においては、登録簿アプローチを進めていくのか、それとも代替メカニズムを採用するのか、今後の動きは注目です。 
 
今号では、3月10日に公表されたFATF「実質的支配者に関するガイドライン」の中の「11. 法人の実質的所有者情報を取得するためのメカニズムと情報源:代替的メカニズムの特徴」について紹介しました。次号は、「12. 追加的補助手段」の内容をみていきます。 

 
 
山崎博史

コンプライアンス・データラボ株式会社     
代表取締役、CEO     
山崎博史(Hirofumi Yamazaki)     

富士通、NTTデータにてERPや規制関連システムの企画、開発に従事した後、米国系コンサルティングファームにてリスクマネジメントに関するコンサルティングを多数の金融機関等へ展開。2012年米国Dun & Bradstreet社の日本法人に入社し、プロダクトマーケティング責任者として、リスクマネジメントやコンプライアンス関連製品の国内リリース及び販売を推進。2020年より東京商工リサーチに転籍し、ソリューション開発部長としてコンプライアンス分野を中心にソリューションを展開、現在に至る。      

・公認グローバル制裁スペシャリスト (CGSS)     
・公認アンチ・マネーロンダリング・スペシャリスト(CAMS)      
・公認情報システム監査人(CISA)      
・米国ジョンズ・ホプキンス大工学修士(MSE)    

 

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