2024年11月に警察庁より「令和6年犯罪収益移転危険度調査書」が公表されました。本書は当年の疑わしい取引の届出状況やマネーロンダリング事犯等の犯罪動向などをまとめて1年に1回公表されます。今回は前年度から変化があった点を中心に解説していきます。
目次
はじめに
令和6年版NRAの特徴
疑わしい取引の届出件数
まとめ
はじめに
CDLブログでは、過去に令和5年犯罪収益移転危険度調査書(以下、NRA)をベースとした業態別危険度評価について取り上げたことがあります。業態別の事案については下記を参照ください。
マネーロンダリング事犯における業態別の危険度評価 (1)
マネーロンダリング事犯における業態別の危険度評価 (2)
マネーロンダリング事犯における業態別の危険度評価 (3)
令和6年版NRAの特徴
令和5年版から令和6年版にかけて、NRAの目次や記載内容に大きな相違はありません。
【令和6年犯罪収益移転危険度調査書の目次と記載内容】
章
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節
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記載内容
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1
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危険度調査の方法等
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FATFガイダンス
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リスク要素、評価プロセス
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本危険度調査
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調査方法、調査に用いた情報
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2
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我が国の環境
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地理的環境
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東アジアにおける海に囲まれた島国
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社会的環境
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少子高齢化、外国人入国者数の増加
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経済的環境
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他国と比較して多い現金の流通
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犯罪情勢等
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サイバー犯罪の増加
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3
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マネー・ローンダリング事犯等の分析
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主体
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暴力団、匿名・流動型犯罪グループ、来日外国人グループ
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手口
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窃盗、詐欺、出資法・貸金業法違反等
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疑わしい取引の届出
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業態別の疑わしい取引の年間通知件数
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4
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取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度
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取引形態と危険度
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非対面取引、現金取引、外国との取引等
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国・地域と危険度
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北朝鮮、イラン、ミャンマー等
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顧客の属性と危険度
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暴力団、国際テロリスト、非居住者、PEPs、実質的支配者が不透明な法人
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5
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商品・サービスの危険度
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危険性の認められる主な商品・サービス
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業態別の商品・サービスの特徴、悪用事例、危険度の低減措置等
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6
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危険度の低い取引
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危険度を低下させる要因
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資金の原資が明らか、顧客等が国又は地方公共団体、蓄財性が低い等
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危険度の低い取引の種別
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金銭信託等、保険契約、満期保険金の支払等
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(出典)警視庁「令和6年犯罪収益移転危険度調査書」を基にCDL作成
令和6年版NRAの主な特徴は次の2つです。
1.犯罪主体の一部変更
令和5年版まで「特殊詐欺の犯行グループ」と表記していたところ、令和6年版では近年被害が急増する「匿名・流動型犯罪グループ(以下、トクリュウ)」に変更しています。これは、特殊詐欺だけでなくSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺、フィッシング詐欺など巧妙化する犯罪手口にあわせて焦点を当てることが意図だと考えられます。
令和6年版NRAでは、トクリュウが行ったマネーロンダリング手口の事例を次のように公表しています。
- 架空/他人名義口座(個人名義、法人名義、屋号付き個人名義、外国人が帰国時等に売却した口座等)を使用して送金する
- 犯罪収益である物品を、他人になりすまして売却する
- コインロッカーを使用して犯罪収益等の受け渡しをする
- 暗号資産交換業者の金融機関口座に送金し、犯人が管理するアカウントに入金する
- 不正に入手した電子ギフト券(前払式支払手段)を、電子ギフト券の売買等を仲介するサイトを通じて売却し、販売代金を犯人が管理する口座に入金する
- 空き家部屋を使用して、被害者に現金を郵送させ、受取人を装って受け取る
- 犯罪収益である日本円を、個人が保有する外国通貨と両替するため、国内の口座に送金する
2.危険度の高い顧客属性の追加
2024年に大きな話題となったリバトン事案において実態のない法人や法人口座を悪用されている事態を踏まえて、実質的支配者が不透明な法人を悪用した手口事例について分析を深化させています。
令和6年版NRAでは、悪用された法人の登記の特徴を次のように公表しています。
- 登記されている資本金の額が数万円から数十万円と少額な資本金で設立されている
- 所在地や役員の登記変更が頻繁である
- 多数の事業目的が登記され、それぞれの関連が低い
- 事業目的を犯罪収益の仮装を説明しやすい内容(現物のないサービスを扱う業種等)に変更している
疑わしい取引の届出件数
令和6年の疑わしい取引の届出件数は過去最高の約85万件となりました。 これはAML態勢の高度化による検知精度の向上、特殊詐欺やマネロン犯罪数の増加、金融庁の監督強化など、複合的な要因により増加傾向にあると考えられます。
【疑わしい取引の届出件数の推移】

(出典)警視庁「令和6年犯罪収益移転危険度調査書」を基にCDL作成
また、金融機関を対象にその業態別の届出件数割合をみると、銀行等は相対的に減少傾向にあり、代わりに貸金業者や資金移動業者の割合が増加傾向にあることが分かります。近年の犯罪手口として、これら業態の流動性や匿名性の高い取引が狙われやすかったことが要因かもしれません。
【疑わしい取引の届出件数の業態別割合】

(出典)警視庁「令和6年犯罪収益移転危険度調査書」を基にCDL作成
まとめ
今回紹介したNRAは、各業態が自らのマネロン/テロ資金供与リスクを特定するにあたって、参考にするべき資料の一つとして位置付けられています。本ブログの前半で示したとおり、SNS型投資詐欺・フィッシング詐欺など犯罪手口は日々巧妙化しており、各金融機関等はリスク変化への対応を常にアップデートし続ける必要があります。特に、厳格に取引時確認を実施したとしても、その後代表者や役員の頻繁な変更を検知できなければ、重大な金融犯罪を見逃してしまう恐れがあります。
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