金融犯罪対策

【閑話休題】映画「ザ・コンサルタント(原題:The Accountant)」実務家向けレビュー

映画『ザ・コンサルタント』に登場する米金融犯罪取締機関FinCENに注目し、その描写のリアリティや実際の業務との共通点を考察。作中のマネロン手法や帳簿調査はエンタメながら実務家の皆さんに示唆を与え、地道なリスク管理の重要性を再認識するきっかけになるかもしれません。


 子供たちの夏休みシーズンに入ったこの頃、今回は少し視点を変えて、サスペンス&アクション映画「ザ・コンサルタント」(原題: The Accountant)をご紹介します。ちょっとしたお仕事の合間に、共感や気づきを得られる記事としてお楽しみ頂けますと幸いです。 

 

目次

 

 

はじめに:本作を取り上げた理由 

「ザ・コンサルタント」は2016年に米国で公開され、その独特の設定で多くの話題を呼び、今年2025年6月、続編が大手サブスクリプションサービスで配信開始されました。筆者は懐かしさも相まって旧作を再視聴したところ、この作品が珍しくFinCEN(Financial Crimes Enforcement Network/米金融犯罪取締ネットワーク)が登場する作品であったことを思い出し、執筆してみようと思い至りました。 

 

 

やや過剰かもしれない設定とあらすじ 

主人公はクリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)。表向きは地味な公認会計士ですが、裏社会にも精通した“闇のコンサルタント”として、桁外れの記憶力・計算能力と射撃・格闘のスキルを駆使し、危険な案件に挑みます。物語は、ウルフがあるロボット企業の会計監査に招かれ、不正資金の存在をつかむことから始まります。 

もちろん「会計士&スナイパー」の設定はやや“盛りすぎ感”があり、ジョークかと思える高い戦闘力や天才的描写には思わず苦笑されるかもしれません。それでも多額の使途不明金、細やかな計数の設定やペーパーカンパニー、幾重にも仕組まれた取引記録を紐解く過程にはリアリティがあり、特に実務家の皆様には「現実とは違うものの、妙に身近に感じるであろう」不思議な作品に仕上がっているように思います。 

 

 

米捜査当局 FinCEN の描写 

前述の通り、この作品では言わずと知れたFinCENが、重要な登場組織としてストーリーを牽引します。ちなみにFinCENは1990年に米国財務省の下、金融犯罪対策の専門機関として設立されました。その創設の主な背景には、国際化・高度化するマネーローンダリングや金融犯罪が、米国そして世界の経済・治安に深刻な脅威をもたらしていたことがあります。 
劇中ではやはりエンタメとしての脚色はありますが、以下のような点においてリアリティあふれた描写が認められます。 
 

  • 捜査・監督組織としての存在 
    主人公の一連の帳簿調査や、裏社会に関わる資金フローの核心に迫る公的機関として描かれています。また、主要キャラクターの一人であるレイモンド・キング(J・K・シモンズ)がFinCEN長官として登場し、主人公の正体や過去、犯罪組織との関与を執拗に追跡します。 
  • 大規模金融情報ネットワークの運用 
    FinCENは全国の金融機関や他の法執行機関と連携し、莫大な金融データベースや情報ネットワークを駆使して複雑なトランザクションを解析しています。不正資金や疑わしい取引を追うにあたり、FinCENの持つ情報解析力と組織横断的な捜査体制が、映画内の重要な展開の軸となっています。 
  • 疑わしい取引の分析と追跡 
    作品中では、不自然な口座や資金フロー、名義貸しなどが発覚する過程で、FinCENによる専門的な分析・監督能力が強調されています。実際のFinCEN業務で重視されている、疑わしい取引の届出やデータベース活用をベースに、劇中でも複数企業・組織にまたがるマネーローンダリングの全容究明をリードする姿が描かれています。 

 

尚、2024年3月の弊ブログのバックナンバーでFinCENが開始したBOI(Beneficial Ownership Information/米国実質的支配者情報の報告制度)についてもレポートしておりますので、この機会にぜひご覧ください(ただし本制度は順次アップデートされており、最新の状況はFinCEN公式サイトでご確認頂くことを推奨いたします)。  

 

 

映画内における資金洗浄の手口 

まだご覧になっていない方へのネタバレ防止のため詳細は割愛しますが、これは前々号でも紹介した典型的なマネロン手法と言えます。まずは不正経理によってプレースメント(不正資金の導入)し、複数のペーパーカンパニーや投資組合に資金を移動してレイヤリング(資金の分散・変換)、不正資金を再投資することでインテグレーション(資金の浄化・統合)、加えて株価操作による市場への介入と不正の最も危険な類型が複合的に描写されています。この構図は現実世界の金融犯罪や粉飾決算に通じる強いリアリティを持ち、リスク対策の重要性を印象づける内容となっていると言えます。  

 

 

リアルとエンタメのギャップ– 現実にウルフは存在しないから 

「ザ・コンサルタント」は一見地味な会計士が、天才的な分析力と圧倒的な行動力で不正の真相へと迫るドラマを描き、観る者を現実とは程遠いヒーロー像で魅了します。その緻密な帳簿調査や資金洗浄の解明プロセスは、現場でコンプライアンスに携わる実務家の皆様にとっても刺激的であると思いますが、実際の業務は映画のような華やかさや劇的な展開とは無縁の、地道で丹念な確認作業や多部門連携の積み重ねかもしれません。 


つまるところ、リアルにおける最善策は経験・蓄積された知恵とチームワーク、そして最新のデータやテクノロジーであると考え、我々もその一助となれるよう日々ソリューションを磨きこんで参りたく思います。引き続きよろしくお願いいたします。 

 

 

 

 

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2023年6月15日発表のプレスリリース)

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