2016年10月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(CRA、犯収法)が改正されて以来、日本の銀行をはじめとする金融機関は、法人顧客の実質的支配者(UBO)を自然人まで遡って確認することが求められるようになりました(UBO制度とその運用については、こちらの記事を参照)。
コンプライアンス・データ・ラボ株式会社(CDL)では、この分野における重要なインテリジェンス・プロバイダーとして、900万を超える日本の事業体に関するデータを分析し、照合してきました。CDLは、UBO解決アルゴリズムのバージョン2.0のリリースを間近に控えています。このアルゴリズムでは、日本の株式保有および所有構造に関する比類のない洞察を提供していきます。
目次
1.日本特有の株式保有構造
2.直接相互保有のケース
3.複数メンバーによる相互保有のケース
4.複数階層における相互持合のケース
5.10の所有者が存在するケース
6.当該企業が相互持合いの対象のなっているケース
7.まとめ
1.日本特有の株式保有構造
この分野における研究開発の一環として、私たちは興味深い株式保有構造を数多く発見し、日本における実質的支配者には「見た目以上のもの」が存在するケースが数多くあることを示してきました。
以下に示すケースはすべて、CDLの持ち株及びUBOマッピングシステムによって検出された実際に存在する企業構造です。
本稿では、日本の企業構造における相互保有等の特殊な事例に焦点を当てています。
2.直接相互保有のケース
直接相互保有とは、2つの会社が互いに重要な所有権を持つ状況です。
図 1:直接相互保有パターン
これによって、いくつかの矛盾が生じます。
・2つの会社が他方の利益のために行動する義務を負うという矛盾
・相互持合いの「無限ループ」の出現(図2を参照)
対象会社SはC1が100%を所有しており、C1が支配株主です。C2はC1の最も影響力のある株主であり、C2がSのUBOであることを意味します。しかしそれでは、C2のUBOは誰になりますでしょうか?もちろん答えはC1であり、その株主はC2である......という無限ループが続きます。
CDLのコンプライアンス・ステーション®シリーズ の背後にある技術は、この種の関係を検出してフラグを立て、不合理な結果を回避し、クライアントのためにこのような複雑な構造を明確にすることができます。
3.複数メンバーによる相互保有のケース
もう一つのバリエーションは、企業系列の複数のメンバーが相互に株式を保有することです。
図2:複数の相互保有
上記のシナリオでは、C1が対象会社Sの支配的な支配企業ですが、C2も重要な株主です。しかし、誰がC2を所有しているのでしょうか。C2は複数の企業と相互に株式を保有しているため、これを客観的に把握することは正直不可能です。
結果は数学的には不合理ですが、関係は極めて単純です。しかし、実際にはもっと複雑な株式保有構造もあり、興味深い方法で所有構造を難解にすることができます。
4.複数階層における相互持合のケース
図3:複数階層における相互持合
上の図3は、4つの法人株主と1人の個人によって所有されている例です。株主のうちC1、C2、C3の3社は、相互に直接所有し合っています。しかし、C5はC4とC2の株主であり、C1にも一部所有されているため、さらに複雑になります。つまり、C5はC2を所有し、C2はC1を所有し、C1はC5とC2の株式を所有する...という具合です。
下の図4は、我々がこれまでに検出した、実在する巧妙な構造のひとつです。
5.10の所有者が存在するケース
図 4: 10の所有者が存在するマトリックス
このような所有構造は非常に稀な異常値ですが、シグナルとしても捉えられます。このような構造は、偶然に発生することはありえません。敵対的買収から身を守るため、真の支配権を曖昧にするため、あるいは詐欺目的の可能性さえありえます。このような所有構造が作られた根拠が何であれ、このような所有構造を持つ企業と取引する場合は、細心の注意を払う必要があります。
CDLは、日本のビジネス状況を分析する中で、調査対象がこのような関係に巻き込まれている例を数多く見てきました。下の図5はそのような例であり、このような例は他にもたくさんあります。
6.当該企業が相互持合いの対象のなっているケース
図5: 当該企業が相互持合いの対象
対象となるS(当該企業)のUBOが誰であるかを実際に確認することは極めて困難です。C1、C2、C3、C4はすべてこの所有権を主張することができ、実際の持ち株比率によっては、Sが実際に自分自身を所有していると分類される可能性もあります。
7.まとめ
われわれは、このような相互関係構造(ちなみに、日本以外のほとんどの国では違法です)の構築に特定の動機があると主張するものではなく、また、特定の事例が何らかの企業の不正行為や善意の欠如を隠すために利用されていると示唆するものでもありません。しかし、上記の例のような構造に縛られた企業と取引する場合は、より慎重を期すことが賢明であることは確実に言えると思います。CDLのコンプライアンス・ステーション®シリーズ のようなツールによるデューデリジェンスは、このような候補を発見するのに役立ち、今日の商取引およびコンプライアンスの環境において取るべき賢明な行動と思われます。